202 家出少女?日向子 part2
日向子は今ひょんな事から知り合ったマシラ達の里で歓迎を受けていた
((ここ、言葉を教えてくれた人間が居た家。お前にここやる))
樹上に案内された日向子が連れて来られた先には周りの建物より二回り程大きい家だった
「そっか…ここはその人が住んでた家なのね…」
日向子は中に入って置かれた品々を眺める
埃1つない所を見るとマシラ達はこの家を定期的に掃除しているのが見てとれた
簡素な部屋の中に置かれたテーブルと椅子、そしてベッド
棚にはその人が使っていたのか食器も置かれていた
「…ん?」
日向子はテーブルの上に置いてある葉っぱで作られたノートの様なモノに目を留める
「これは?」
((ここにいた人間、何か書いてた))
「…日記なのかな?」
日向子はその葉っぱの束を手に取るとパラパラとめくってみる
「えっ⁉これって…」
日向子は葉っぱに記された文字に驚いた
「これって…日本語だわ…」
葉っぱに記された文字は明らかに日本語、しかもめくったページには名前らしきモノが書き記されていた
【私、斉藤隆はここに来てから二年が過ぎた…】
「…やっぱり日本人だわ…転生…いや、転移なのかしら?」
日向子は夢中になって葉っぱノートを読み始めた
((お前、それは後。こっち来て))
マシラの長は没頭しかけた日向子を制して表に連れ出す
着いたのは樹上に葉っぱを編んで拵えられた広場みたいな場所だった
((お前此処に座る、今食べ物出す))
どうやらマシラ達は日向子に食事を振る舞うつもりらしい
キキッ‼
長が短く鳴くと腰布を纏った恐らくメス達が葉っぱのお皿を沢山持ってやって来た
「わぁ、美味しそう‼」
日向子の目の前に置かれた皿には木の実や果物、何かの焼き魚まで乗っていたのだ
((沢山食べる。そしてこれ飲む))
長が差し出した盃には甘い匂いの発酵した液体が注がれていた
「これって…猿酒かしら?」
日向子は以前何かの書物で猿酒について読んだ事があった
猿が木のうろに採った木の実等を溜め込みそれが発酵して猿酒になる、とかだった気がする
「…じゃあ…頂きまーす」
…コクン…
「あっ‼甘くて美味しい‼」
((その作り方、人間が教えてくれた。気に入ったか?))
日向子のうろ覚えによると本来猿酒は辛いらしい、と書かれていたがこの猿酒はとても甘かった
恐らく甘い果実をより集めて発酵させたのだろう
「…その人は貴方達にとって大切な人だったのね…」
いつ死んだかも分からないが斉藤さんはマシラ達にとって文化的な生活を教えてくれた恩人の様だった
「…会ってみたかったなぁ~」
日向子は多分同郷の異邦人に何か親しさを感じていた
((会うか?))
日向子の呟きに長がすっとんきょうな事を言い出した
「えっ⁉死んだんじゃないの?」
((その人間、死んだ。でもソックリな血を吸う悪魔が来る))
「…あー、成る程。」
どうやら斉藤さんはバンパイアに襲われ「擬き」か「バンパイア」に変態したらしい
「まぁどっちだろうが話が出来るなら嬉しいわね…うん、会ってみたい‼」
日向子は長の質問に大きく頷いた
((ならあの家で少し泊まれ、その内にやって来る))
こうして日向子はバンパイア(擬き)となった斉藤さんを待つ事にしたのだった
。。。
日向子がマシラの里に世話になって数日が過ぎた
マシラのもてなしに日向子は露天風呂をちゃんと作り直してより広くした
子供達にも気に入られたらしく日向子はちょっとしたアイドルばりに引っ張りだこの毎日を過ごしていたのである
〈誰か来ているのか?〉
猿酒を飲み過ぎて寝こけていた日向子の耳に人の声が聞こえたのはそれから更に1週間ほど過ぎた昼下がりだった
〈ん?人間が此処に?メスだと?〉
どうやら長が説明している様だが日向子に丸聞こえである
…バサッ‼
入り口の葉っぱを掻き分けて入って来たのは明らかに日本人…の出で立ちの中年男だった
〈君は…〉
「あ、初めまして。私は日向子と言います、もしかして…」
〈。。。〉
日向子の自己紹介に斉藤さんは暫く固まった
…ポロポロ…
「えっ!?」
〈良かった…初めての日本人だぁ~‼〉
斉藤さんは日向子が日本人だと分かると大粒の涙を溢して喜んでいた
両手で握手されブンブンと振り回された後。斉藤さんは自らの身の上話を話し始めたのであった
「…へぇ、日本にいた時のままこっちに…」
〈あぁ、ラノベとかの様にチートな能力も得られずただの人としてこっちに飛ばされてしまったんだ…〉
残念そうに語る斉藤さんに日向子はうんうんと頷いていた
〈普通の人間じゃ出来る事は大してない。彷徨っていたらコイツらに出会ったんだよ〉
日向子は斉藤さんに出された盃に口をつけた
「…これって…お茶ですか?」
日向子の驚く姿に斉藤さんはガッツポーズをした
〈この良さが分かってくれる人と会えるなんて…思ってもみなかったよ‼〉
斉藤さんは再び日向子の手を両手で握り振りだしたのだった




