201 家出少女?日向子 part1
日向子の家出?はその日の内にゴルド領で大問題となっていた
実務に関してはシルグが代行して事なきを得ていたが第一決裁権を欠いては領内の運営に支障が出るからだった
シルグは直ぐにキメ、ニル、シロ達に捜索を頼んでゴルド領内とエレモス領内を捜索させたが全く発見出来なかった
日向子自身は久しぶりの自由を此処バンパイア領で満喫していた
「はぁ~、何にも考えないでのんびり出来るのって久しぶりだなぁ~♪」
日向子はラクルに教えて貰った温泉が涌き出る河原に穴を掘りプライベート露天風呂を作って浸かっていた
「…そう言えばこの世界の人って温泉を楽しんでるとか聞いた事がなかったわね…
こんな良いお湯が出るのに勿体ないわ…」
涌き湯を適当に岩で囲んで作った露天風呂でもこれ程の解放感を得られるのだ、
もっとちゃんと造って温泉宿でも始めれば大ヒット間違いなしなのに…とボンヤリ考える
「あっ⁉いけないいけない‼つい商売につながるんじゃ?とか考えちゃった。のんびりしに来たのにダメだわっ‼」
悲しき日本人の性は転生しても治らない様である
…キキッ…
そんな日向子特製温泉に思わぬ珍客が現れた
姿形はニホンザルそっくりな動物?魔物?がやって来て入りたそうに眺めていたのである
「ん?あら、良かったら入って良いわよ?」
日向子の言葉が分かったのかその生き物はおっかなびっくり湯船に手を入れると
おずおずと浸かって歓喜の声を出した
それに釣られたのかその生き物の群れが何処からか現れ湯船に浸かり始めた
「こうして見るとニホンザルそっくりね…動物か魔物、どっちなのかしら?」
日向子はその光景をボンヤリ見ながら呟いていた
((…ワシ等はマシラ。これ、何の水だ?気持ち良い))
群れの中でも一際大きい個体が日向子に訊ねて来た
「あれ?話せるんだ?」
日向子は予想外のリアクションに驚いている
((ワシら、昔人間に言葉習った。これ、何の水だ?))
マシラと言う猿ソックリな生き物の質問に日向子が答える
「これはね、温泉って言って地面からお湯が湧いているのを貯めたお風呂よ、気持ち良いでしょ?」
((うん、気持ち良い。水じゃなくお湯と言うのか))
マシラ達は余りの気持ち良さに目がトロンとしている
「このお湯には色んな成分が溶け込んでて…と言っても難しいわね。気持ち良ければOKね」
日向子は余計な説明は止めてのんびり景色を眺めた
((…お前は血を吸う悪魔か?))
そんな日向子にマシラが質問してきた
「ん?あぁ、違うわよ?何で?」
恐らくだがバンパイアはこの生き物を補食対象にはすまいと思った日向子はマシラに訊ねた
((血を吸う悪魔、言葉を教えてくれた人間殺した))
「…そっかぁ…」
多分だがその人間は何処からか流れ着いた者だろう。この地は何千年も前からバンパイア族が治めている
流れ着いた先でマシラ達と出会いそしてバンパイアに殺された
マシラ達にしてみれば言葉を教えてくれた恩人が殺された事で敵視しているのかも知れない
((でもお前の右目、血を吸う悪魔と同じ、怖い))
日向子の右目はバンパイアアイで見た目も赤い瞳である
それをマシラが気付いて警戒しているのだ
((でもお前、襲わない。きっと別の生き物))
どうやら日向子は受け入れられた様だ
「あはは、ありがと。」
そんな事を話し合っていると初めての入浴でマシラ達が逆上せたのか顔が真っ赤になって来た
「あれっ?猿って逆上せるんだっけ?」
日向子の前では湯船から出たマシラがフラフラしたりパタッと倒れたりしている
「あらら…あんまり長く浸かると逆上せちゃうわよ?」
日向子は多分逆上せる種族なんだ、と仮定して入り方を教える
「こう…温まってきたら外に出て体を冷して冷えたらまた入るのよ」
日向子の教えにマシラ達は素直に従い次第に浸かり方をマスターして行く
((お前、良い人間。お礼に来て))
マシラは日向子を何処かに招待したいらしい
「あ、ちょっと待って。服着るから」
マシラの子供が日向子の手を引っ張るのを抑えて慌てて服を着た
((人間、面倒。それないとダメなのか?))
「あはは、貴方達は立派な毛があるもんね。私はこれが必要なのよ」
((そうか、じゃあついて来い))
再び手を引くマシラの子供達に誘われるがままに日向子は森の中に誘われていった
。。。
((ここ、ワシ等の里。))
「へぇ~、ツリーハウスかぁ」
マシラ達について行くと少し密集した木々の上に集落が出来ていた
((ツリ…?ここ、家。人間に教わった))
「そっか。道理で人間の家っぽく作られてる訳ね…」
マシラの里はバンパイアに殺された人間に作り方を教えられたモノだと言う
((お湯教えてくれた、もてなす))
多分マシラ達の長なのだろう一回り大きな個体は日向子を歓迎してくれる様だ
「…ありがと。喜んでくれて嬉しいわ」
日向子も宛のない日々を満喫中なので喜んでその誘いを受け入れたのだった




