200 暫しの平穏
祝!200話突破!
引き続き宜しくお願いします。
アービスの一件が片付いたゴルド領内は再び発展の一途を辿っていた
アービスの所領であったヨウムはエレモス直轄地となりゴルドとの連携を強化する為に
要衝となっていたトゥルネ山脈をトンネルで繋ぐという一大プロジェクトを立ち上げた
これに一役買ったのが日向子率いる魔獣達と四竜が一体であるラルドの配下であった
特に土竜の掘削能力は日向子の前世にあった最新鋭の掘削機に比べても数十倍早く地面を掘り進み
ここに日向子が考案したモルタル吹き付け機による法面補強も加わって
半年もしない内にゴルド領とエレモス領が馬車で1日で着ける道を作り上げたのである
また以前開発した蒸気機関車の為の専用トンネルが横に作られ物流の発展に更に拍車が掛かった
以前からの功績と合わせて国王は日向子に爵位を与えようとしたが頑なに辞退された
これに意固地になった国王が第二夫人になるか爵位を受け取るかという理不尽二択を迫った為
日向子は折衷案として「名誉伯爵」という謎の名誉職を提案したのだった
「…何だ?その「名誉伯爵」と言うのは?」
国王は日向子の申し出に頭を抱えた
「えっと…天下後免と言うか…要は私、何かのしがらみを持ちたくないんです‼偉くもなりたくないし…」
ここで押したら日向子はまた予想外の行動に出るかも知れない、
最悪このエレモスやゴルドから離れてしまうかも?と考えた国王は渋々その申し出を受け入れた
「…では日向子の為に新たに紋章を送ろう。その紋章はワシに準じる権限を持たせる
これ以上の譲歩は出来ぬからな?辞退すれば第二夫人を了承したも同然とする‼」
「そんなぁ~‼」
「エレモス国国王の決定だ‼」
こうして日向子に名誉伯爵としての紋章を授与する事が強引に決まった
後日日向子の下に紋章職人が訪れた
「うーん…紋章のデザインをどうしますか?とか言われても難しいわよね…」
日向子は紋章などほぼほぼ触れた事がない
辛うじてミーハー医師が乗っていたポル○ェのエンブレムがそんな感じかな?
と言ったレベルでしか知らなかったのだ
「日向子様、紋章と言うモノは日向子達の生い立ちや血脈、功績等を図案化して織り込めば成り立ちます」
そう説明されて日向子は思い付いた
「あ、じゃあキメちゃんやシルちゃん、ニルちゃんとか家族のデフォルメした図柄を入れて貰おうかな?」
「…それは可能ですが…図柄は精々5個位にしませんと…」
「えーっ⁉それじゃ無理じゃない‼じゃあ丸に日向子の「日」の字でいいわ」
日向子は面倒臭くなって何処ぞの酒蔵みたいなマークをササッと書いて紋章職人に見せた
《…流石に簡略化し過ぎだろう…》
キメの鋭いツッコミに日向子は逆ギレした
「じゃあキメちゃん達にぜーんぶ任せる‼私ちょっと旅に出る‼」
突然の逆ギレに唖然としたキメやシルグを置いて日向子は空へと飛び出した
『…はっ⁉し、しまった‼逃げられた‼』
我に返ったシルグが叫んだ時には既に日向子の姿は米粒程になっていたのであった
。。。
「あ~あ、何だか面倒になって来ちゃったなぁ…私はただ自分の好きな様に生きたいだけなのに…」
これが日向子の偽らざる本心である
何も転生してまでしがらみだの責任など負いたくはないのだ
「…勢いで飛び出して来ちゃったけど…これからどうしようかな?」
日向子は少し冷静になると帰り辛くなってしまった状況に後悔し始めた
「…えーぃ‼面倒だからラクルさんの所でも行って匿って貰おうっと」
ここ(ゴルド上空)から一番近い不干渉地帯と言えばラクルが治めるバンパイア族の領地なのを思い出し日向子はラクルの居城に向かった
バサッ、バサッ、バサッ、
〈…日向子か?〉
領地に侵入してきた何者かを排除する為にやって来たラクルと上空で鉢合わせした
「ラクルさん、ちょっと匿ってぇ‼」
〈?別に構わんがどうしたのだ?〉
ラクルは唐突な願いに至極当然な質問をした
「もう‼細かい事はあとあと‼さ、ラクルさんのお城にレッツゴー‼」
日向子は速度を上げてラクルの居城に飛んでいく
〈何か分からぬが嫌な予感がするな…〉
ラクルの予感は後に的中する事となるが今はとにかく日向子の後を追って戻るしかなかった
ーラクルの居城ー
「…と言う訳で私に責任のある役職を押し付けて来たの‼だから逃げて来ちゃったの‼」
日向子の怒り混じりの説明にラクルは静かに頷いていた
〈日向子の気持ちは分からんでもないな〉
ラクルの予想外の言葉に日向子は涙目になる
「…グスン…やっと理解してくれる人が見つかったわ…」
〈我も血脈と始祖に準じる力さえ持ち合わせていなければ、と思う事もあった〉
「あ、そうか‼ラクルさんもどっちかと言ったら生まれた時にもう運命づけられちゃってた人なのか」
〈…まぁ我は受け入れた身故にさして疑問にも思わないがな。もししがらみがなければ…と思った事はある〉
「えっ?ラクルさんは本当は何になりたかったの?」
〈…吟遊詩人だ〉
…スナフ○ンかよ‼と心でツッコんだ日向子との間に暫しの静寂が訪れていた




