2 此処は何処なの?
「うーん、こりゃ酷い怪我じゃ」
村?の奥に連れて行かれた日向子は今ウシャ爺の診断を受けている
(このお爺ちゃんがお医者さんかしら?でもこれじゃ治療は期待出来ないわよね…?)
日向子が連れて来られた部屋は多分治療室でウシャ爺は医者にあたる人物だと思われるが
部屋の何処にも手術道具は見当たらない。
それどころか壁に備え付けの棚に多分薬らしい小瓶が数本あるだけだった
「あの…ウシャ、さん?」
「ん?どうした?娘さん」
「私縫合の経験はあるので道具だけ貸して頂けませんか?」
「?縫合…じゃと?」
ウシャ爺は初めて聞いた様な素振りで日向子に聞き返す
「えぇ、へガールかマチューと丸針とナイロン…はなさそうなので吻合に使えそうな糸と…モスキートとペアンと開創器と…」
「へぇっ⁉お主魔術師か?呪文なんぞ唱えおってからに…」
「…呪文じゃなくて「医療道具」なんですけど…」
「ほ、良く分からんがここにはそんな名前のモンは1つもないわい。」
「えぇっ⁉じゃあ外科的治療はどうしてるんですか?」
「ゲカだかゲコだか知らんがこんな傷はほれ、これを塗ってお仕舞いじゃ」
ウシャ爺は棚にあった小瓶を退けて丸い壺を取り出した
蓋を開けて指を突っ込むとドロッとした何かを日向子の足に塗った
「え?きゃっ⁉」
ージュゥゥ~…ー
日向子は目を見開いてビックリしている
15cmは裂けていた裂傷は勿論だが断裂していた大腿動脈も筋膜などもシュワシュワと泡を立てたかと思うと見る間に修復されていく
「え?これって…?」
「ウシャ爺特製の軟膏だぁよ」
驚きを隠しきれない日向子にゴメリが答えた
「ウシャ爺の軟膏は打ち身・切り傷・虫刺され・毒蛇にやられても何でも治っちまうんだぁ」
「…凄い…傷痕も残らないなんて…」
ウシャ爺の軟膏は日向子の怪我を治しただけではなく傷痕1つ残さず治してしまったのだ
「ウシャシャシャ‼ワシはこれ1つで食っとるからの、効果はお墨付きじゃよ‼」
得意気にふんぞり返っているウシャ爺を無視して日向子は壺の中の軟膏に触れてみる
指で掬ってみるとその軟膏はゲル位に柔らかいが垂れる程ではない微妙な固さで
薬液?の中には何かを磨り潰した様な粒が入っている
「薬用歯みがき粉みたい…」
ーパンパン!ー
「ほれほれ、治ったらとっとと席を代わらんか!後ろに患者が並んでおるじゃろがっ‼」
「あ、ゴメンなさい…」
ウシャ爺に促されて振り向くと怪我をした者やお腹を押さえて痛がっている人が治療を待っていた
日向子は慌てて立ち上がった為にフラついて倒れそうになるがサッとゴメリが支えてくれた
「…ありがとう」
「ガハハ、若い娘っ子に抱きつかれて役得だぁね」
「あっ⁉(///」
「照れとるのか?ウブっこい娘っ子だの‼ガハハ‼」
ゴメリは豪快に笑い飛ばして日向子を支えつつウシャ爺の家を後にする
「オメさ家は何処だぁ?」
「それが…此処は何処ですか?」
「ん?此処ぁピレネー村だぁ。」
「えっ?ピレネー村??」
「んだぁ。セントエレモスの南、ピレネー村だぁね」
「セント…って此処は日本じゃないんだ…」
「ニホン?聞いた事ぁねぇ村だなぁ?」
「あ…村じゃなくて国なんですけど…」
「あんれ?オメさ異邦人かぃ?」
「異邦人って…まぁそうなるのかな?」
「んでオメさ何処に行くつもりだったんだぁ?」
「何処にって…突然あの草原に倒れてて…」
「あんれまぁ、んじゃ誰かに捨てられたんかぃ?可哀想になぁ…」
ゴメリは日向子に憐れみの顔を向ける
「捨てられたって言うか…何も分からないんです…」
「よっしゃ‼このゴメリに任せると良いだ‼」
そう言うとゴメリは村の中を日向子の手を引いてズンズン歩いていく
「あっ、ちょっ⁉」
二人が辿り着いたのはこじんまりした一軒家だった
ガンガン‼ガチャ‼
「カントの婆っちゃいるけ?」
「…ん?ゴメリかぁ…どしたんだぁ?」
「実はこの娘っ子、泊まる所もないってんで連れて来たんだぁ。ちっと泊めてやってくれや」
「そらぁ構わんが…オメさ名前は?」
「あ、初めまして。日向子って言います」
「ヒナコ?…ヒナちゃんじゃな?よっしゃ、このカント婆ちゃんトゴさ泊まれ。」
「あ、ありがとうございます」
「こんなべっぴんさんゴメリのトゴさ置いといたら何されっか分がんねぇからなぁ」
「ガハハ‼オラの娘と同じ年位の娘っ子にゃ手は出さんよ?婆っちゃも酷ぇ事言うなぁ‼」
「…そが。死んだオメのトゴの娘もこの娘っ子位だったか…そりゃすまん事言ったのぅ…」
「ま、ともがくヒナを頼むだよ」
「分かった。婆っちゃに任せとげ‼」
「んじゃヒナ。また明日な」
「あ、はい」
こうして日向子はカントお婆さんの家に泊まる事になった