199 ドッキリの後始末 part2
ワーウルフが操る馬車数台を見送り終えると日向子はキメに留守番を頼んだ
取り込んだ後は普段を戻る迄安静が必要なのだ
「私達はアービスさんと一緒にエレモス領に行ってくるね。無茶はしないでよ?」
日向子達はニルが牽く護送車に乗り込んで手を振った
護送車に揺られながらシルグは日向子に先程の話の続きをせがんだ
『主殿の前世では様々な学問が発達していた様だがその辺りを聞かせてくれないか?』
「あ、ちょっと待っててね」
日向子は目隠し付きで拘束されているアービスの額に触れると意識を飛ばした
「他人に聞かれても良い事ないからね」
『気配りが出来ずスマンな』
「あはは、良いのよ。念の為だしね。ところで学問…だっけ?どんな内容が聞きたいの?」
『うむ、どうも話を聞いていると分野毎に特化した学問が存在している様に聞こえたのだがその種類等を知りたいのだ』
「うーん、そうねぇ…私も全てを知ってる訳じゃないからそれでも良い?」
『ああ、それだけでも勉強になる』
「じゃあ…細かい所を話すととんでもない量になるかざっくり分けると形式科学・応用科学・社会科学・人文学・自然科学とかかな?」
『形式科学と言うのは?』
「んー、これは基本数式とか理論とかを使って答えを出す学問かな?その道の人が聞いたら怒られそうだけどね」
『うむ。分からん』
「あはは、そうだよね。私も分からないもん。で、この学問を実践するのが応用科学、医術とかもここに含まれるわ」
『成る程』
「本当にざっくりだけど人文学は人間の書物に関する学問で社会科学は人間の行動とか心理とかを研究する学問、
自然科学は文字通り自然界に起こる現象とかを研究する学問ね」
『うーむ…底が見えんな…』
「そうね、私も全て知ってる訳じゃないけど凄く細かく体系化されていたのよ」
『これでは話がブレるな…もっと絞った方が良さそうだ…では主殿が働いていたオペ看とは何だ?』
「あら?良く覚えていたわね?ここも掘ると長いわよ?」
『どうせ長旅だ、深く考えても仕方なかろう?』
日向子はシルグに医学から医師、そして看護婦や医療従事者までを一通り話した
『成る程な…主殿の世界では仕事が細分化されておったと言う事か』
「まぁそうね。細分化する事で1人あたりのリスクや負担を分散させた、って感じね。雇用も生まれるし」
『この世界で言うと例えば開墾する人間、耕す人間、種まきする人間、育てる人間、収穫する人間等と分ける事になるのか…』
「あはは、農業はそこまで細分化されてなかったわよ。あくまでも専門性が高いとかよね」
『そう言えば主殿の世界では皆博識なのか?主殿でも物知りではないとするとそうなるが…』
シルグの質問に日向子はどう答えたモノか?と考える
「そうねぇ…識字率が高かったお陰とネットって言う情報をすぐ引き出せる環境があったから…」
『ネット…か?』
「あはは、そうなるよね?そうね、手元に常に図書館並みの知識を引き出せる機械があると考えると近いかな?」
『うーむ…想像が出来ぬな…一度見てみたいモノだな』
「そうね、私も行けるなら行ってみたいわ。色々置いてきちゃってるしね」
シルグは何だかしんみりしてしまった日向子を見てしまった‼と思ったが後の祭りだった
こんな会話をしている間にもニルは着々とエレモス領に近付いていた
「あ、もうお城が近いわね。じゃあこの話はまた機会があったらね」
『うむ、辛い事を思い出させて済まなかったな』
「ううん、こっちも楽しいしシルちゃんとか家族もいるしね」
『…そうか。そうだな‼ワシやキメ、他の者達も主殿の家族だぞ‼』
シルグは日向子の言葉に暖かいモノを感じていた
。。。
「王様~、アービスを連れて来ましたよ~‼」
城の前で日向子が叫ぶと門番が慌てて駆け寄って来た
「これは日向子様‼王は只今罪人達の拷問をご覧になられておりますが」
「あら?じゃあそっちに行ってみるわ」
「畏まりました。ではご案内致します」
門番は日向子達を連れて城の裏庭に案内する
「ぐぎゃぁぁぁっ‼」
「こ、殺せぇっ‼殺してくれぇ‼」
門番が案内した先にはちょっとした地獄があった
「ひっ‼な、何の声だ⁉」
目隠しをされているアービスが目覚めると耳鳴りがする程の悲鳴が聞こえて来た
「ここはお城よ。貴方のお仲間が拷問されてるの」
アービスはそれで全てを悟った
自白ならもう洗いざらい吐き出してもう欠片も残っていない
それでも尚拷問する、と言う事は情報を引き出す為とは当然思えなかったからである
「…そうか。最後位は元貴族として威厳を持って逝きたいモノだ」
アービスは突如賢者モードに入ったがシルグが目隠しを取ると妙な鳴き声を漏らした
「…んにゃ!?」
アービスの目の前には見た事もない拷問道具で延々と責められている仲間達が怨嗟の唸り声を紡いでいたのだ
「さ、王様の所に行きましょ」
日向子はアービスの最後のプライドをへし折ったのだった




