198 ドッキリの後始末 part1
「あばばばばっ⁉あひゃ⁉」
《…何だコイツは?出てくる情報が全て金絡みだぞ?》
キメはアービスの脳内を覗いて呆れている
「あー…まぁその辺で良いわよ、後は嘘がつけない様にして王様の所に送りましょう」
日向子は事後処理の書類に目を通しながら適当にあしらう
《間者達はどうするんだ?解き放っても害になるだけだろ?》
「あ、それね?ラクルさんが募集かけてたから引き渡す事にしたの。」
《…募集?》
「うん。何かイベントがあるみたいで必要なんだって、血袋」
《!?》
「あはは、そんなにビックリしなくても良いみたいよ?殺されるとかじゃなくて「貯蔵」しておくんだって」
《…貯蔵って…》
どう考えても生きたドリンクサーバーにされる未来しか見えずにキメは憐れんだ
『主殿、ラクルの使者が間者を引き取りに来たぞ?』
シルグが執務室に入って来た
《シルグ様、主殿、1人だけ見逃してやってくれませんか?》
『ん?どうしたのだ?珍しいな』
「ホントホント、どうしたの?」
日向子もシルグも人間に無関心なキメが助命を乞うなんて信じられなかったのだ
《実は…》
『「実は?」』
《1人面白い細胞を持っていたので取り込みたいんだよ》
(…一番エグいじゃん…)
キメが懇願したのは助命ではなく単に細胞コレクションに加えたかっただけの様だ
バンパイアのドリンクサーバーかキマイラの「贄」か、
どっちも救われない選択肢だった
「…まぁどっちにしても同じだから構わないわよ?お腹壊さない様にね」
《感謝するよ‼》
キメは積み込みが始まっている馬車に向かって駆け出して行った
『そういえばエレモス領内で捕縛されたアービスの取り巻きはどうなったのだ?』
間者達の悲惨な末路を見てシルグは張本人達の処遇が気になった様だ
「あぁ、何かね?前に私がやった拷問刑あるでしょ?」
『そう言えばアレも凄惨だったな…』
日向子がドグラ達を公開処刑する際に使用した凌遅刑・石抱き刑・水車踏みの刑は
執行された者はおろか見物人達にも反抗心が潰える程の凄惨さだった
「あれね、エレモス領の正式な拷問処刑道具に採用されたんだって」
『oh......』
シルグが思わず欧米的なリアクションをする位恐ろしい採用話だった
「でもね、あれはあれで死なない様に加減してるからね?」
『…あれでか?』
「うん。凌遅刑だって末端からかじらせてるから地味に死なないしね」
シルグはゴクリと喉を鳴らす
「前の世界の中国って国だとネズミを鉄箱にいれてお腹に置くのよ?」
『ど、どうなるのだ?』
「あー、確かその鉄箱に火を付けたりしてパニックにさせるの」
『?それではネズミが死んでしまうではないか?』
「その箱ね、お腹に当たる部分は開いてるの。パニックになったネズミは逃げようと鉄箱に穴開けようとするけど無理でしょ?」
『う、うむ…』
「だから「掘る」のよ。お腹をね」
『…うぐっ⁉』
「⁉ヤダッ⁉シルちゃん大丈夫⁉」
シルグは体内に逃れたネズミがどうなるのかを想像して嘔吐しそうになる
『…ハァハァ…人間とは何ともえげつない事を考えるモノだな…』
「そうね、恐怖心を利用して人を操るとか人間以外ではしないものね…」
日向子は肩を竦めて淡々と話す
「でもね、この方法は非人道的だってなって既に廃れてたわよ」
『…そうだろうな、でなければ人間不審になるわ…』
「近代では裁判とか加害者にも権利が与えられて表面上は公平よ」
日向子は何となくつまらなそうに説明する
『何か不満そうだな』
「そりゃあね、被害者は人権なんて与えられず殺されたりしてるのに加害者は生きてるから権利が、とかね…」
考えてみれば加害者を殺しても被害者は戻っては来ないが権利を踏みにじった者に権利を与えるのも変な話なのだ
「さ、話はこれ位にして護送車と一緒にエレモス領に行こう」
『分かった。後でまた主殿の世界を話してくれるか?』
「ん?良いけど何で?」
『人間の気持ちに興味が沸いたのだ。様々な喜怒哀楽を知ってみたい』
「お安い御用よ、じゃあ時間が空いてる時にでもね」
日向子とシルグはキメがいる所に向かって行ったのだった
「キメちゃん、終わった?」
…ゴリュ…ボキボキ…
《あぁ、今終わった所だ》
キメは興味を持った間者を丸ごと取り込んで目撃者達をドン引きさせていた
「…嫌だっ‼俺はあんな死に方は嫌だっ‼」
馬車に乗せられた間者達は仲間の末路に怯えていた
「あ‼皆さんは大丈夫。きっと丁寧に扱って貰えるわよ?」
日向子は嘘は言っていない
取り込まれ一瞬の恐怖を味わうか死ぬまで恐怖を味わうかの違いでしかなかったが少なくとも後者は厚待遇されるだろう
血液のサーバーとしてだが。
「えー、皆さんとはこれでお別れです。お元気でー‼」
日向子の無情なお見送りを受けて馬車は一路バンパイア領に向けて発車したのだった




