197 ドッキリ大成功? part3
アービスは目の前にある無傷の城下町を見せられて思考が停止している
「お主が街だと思っておったこの場所だがな、日向子達がお主達を一網打尽にする為だけに作った囮の街なのだ」
「な⁉何故そんな無駄な事を?」
「…それも私欲に濁ったお主の目には映らんか。日向子は住民の安全と街の機能を守ろうとしたのだ」
アービス達を捕らえる為だけに作られたフェイクタウン
誰も私欲に走っていなければその作りの荒さに気付いた筈であった
「わ、私は貴方様の命令で…」
「それも日向子の計略だ。間者ばかり送りつけて中々尻尾を出さぬお主を誘き出す為のな」
そう、アービスは暴動鎮圧と銘打って出征した段階で詰んでいたのだ
直接手を下さず他人を蹂躙し続けてきた卑怯者に相応しい虚構の街と偽りの財宝
そして国王の目の前で自白する事でアービスは完全に逃げ道を失ったのだった
「…日向子、この者は既に我が国の者ではない。只の罪人だ、煮るなり焼くなり好きにするが良い」
そう言い残すと国王はニルと共にエレモス国へと戻って行った
「…一応ね、貴殿方の処断は任されてはいたんだけど王様に来て貰ったんだ
仮にも貴方、エレモスの貴族「だった」んでしょ?」
「…「だった」か…」
アービスはこの言葉に力なく崩れた
「気付いてると思うけどもう貴方の取り巻きは全て捕縛されてあるわ。あ、勿論間者は言うに及ばずね」
落ち込むアービスに更に追い討ちを掛ける様に日向子は告げた
「かなり凹んだみたいね?でもね、貴方達が蹂躙する気満々で攻めて来るのを見た何の罪もない住民達の絶望はこんなモンじゃなきわよ?
まぁ今回は住民達にそんな思いをさせる前に情報が筒抜けだったから良かったけどね」
「もう…何もかも失ったのだな…」
アービスはか細い声でポツリと呟く事が精一杯だった
「さ、見せ物はおしまい‼此処は邪魔だからチャッチャと片付けちゃうわよ‼」
日向子の号令で滞空していたバハムートとドラゴネット達が一斉に降りて来る
…ガタタ、トントン、ギギッ‼
欲に目が眩んでいたアービスは気付きもしなかった様だがこのフェイクタウンは日向子が聞きかじった映画のセット技術が導入されていた
メインの建物は急拵えの本物だが周囲の建物は全てガワだけのハリボテだったのだ
目の前であっと言う間に消えていく街並みを見てアービスは呟く
「砂上の楼閣…か」
《おい、アイツの頭⁉》
キメはアービスの頭髪を見て驚いている
アービスの頭髪は一瞬で真っ白になっていたのだ
『…主殿に彼処まで心を折られたらああなるのは仕方あるまい…』
神妙な面持ちで語るシルグは背後に近づく羅刹に気付いていなかった
「…ごめんなさいねぇ?私、そんなに酷い主だったのねぇ~?」
…バキバキバキバキ…
指を鳴らした音が鈍く響く
『…あっ‼生存者を収監しないとな、アハハハハぁ?』
後少しで日向子の手が肩に届きそうになった瞬間、シルグは風の加護で体を包み人型のまま空高く飛び上がった
『さぁ、キメ‼主殿の為にバリバリ働くぞー‼』
逃げたシルグに取り残されたキメ
だがキメは逃げる必要性を感じていなかった
「へぇー、風の加護ってあんな使い方もあるんだ?」
日向子はシルグへの怒りよりも新しい可能性への興味が勝ってしきりに感心していたのだ
《主、俺は生存者の尋問を始めるよ》
「あ、うん。宜しくね、私は街の運行を通常通りに戻してから合流するね」
日向子は早速風の加護で城下町へと飛び去って行った
(…俺もいざと言う時の為に新技を編み出しておくか…)
キメは少しだけ日向子の取り扱いのヒントを得た気がしていた
。。。
「⁉…ここは?」
キメの分体(蜘蛛)が離れ自我を取り戻した間者達は今いる状況に動揺していた
「あんた達の主はもう捕まったわよ?全て終わったんだけどどうする?」
混乱する間者達にぶっちゃけつつ現れた日向子に一同一斉に立ち上がろうとする
「「「「なっ!?」」」」
「何故立てないんだ!?」
彼らは別に拘束されている訳でもないのに座っていた椅子から立ち上がる事が出来なかったのだ
「これは一体…?」
そう言えば棒の様なモノが額に当てられ頭が固定されている
「座った状態で頭を固定されると立てなくなるのよ。知らなかった?」
正直日向子はこのトリックが失敗しても全員即座に屠る事が出来ると判断した上でのプチ実験だった
(ヤラセかと思ってたけど本当に動けなくなるんだね…)
日向子は何かのテレビで見た集団実験でウソでしょ?と思っていたモノを試したかったのだ
「人間は立ち上がる時に重心移動をしないと立てないんだって。まさか本当に動けなくなるとは思わなかったわ…」
ダメ元でやった実験がまさか大成功を収めるとは日向子自身も思っていなかったらしくしきりに感動していたのだった




