194 ドッキリ大成功?part1
成功を信じて疑わないアービスの下にエレモス国王から早馬が届いたのはそれから3日後だった
【ゴルド領内にて大規模な火災が発生。この火災により住民の暴動が発生したのでアービス卿に事態の収束を依頼する】
この知らせにアービスは狂喜乱舞した
今までは影で暗躍していたアービスが国王の代理として正々堂々とゴルド領の支配権を握れるのだ
「ククク…国王め、まさかこの私が仕組んだとも知らずに平定を依頼してくるとはな」
アービスは日向子を謀っただけではなく国王をも愚弄したのだ
「誰か‼兵士達に召集を掛けろ‼ゴルド領内の暴動鎮圧に動くぞ‼」
「はっ‼」
一時間後集められたアービスの私兵、その数約600名。
暴動鎮圧にしては大規模な構成にそれを見ていた一般市民からも疑問の声が挙がる
「領主様は国盗りにでもいくんだろうか?」
「どうやらゴルドの利権を牛耳るって話だぞ?」
「ゴルドもやっと復興したって所なのに…不憫だな」
市民達は圧政を強いるアービスがゴルドをどう扱うのか容易に想像がついて憐れみの念を抱いていた
「それでは出発ー!」
今から暴動鎮圧に向かうとは思えない煌びやかな馬車に乗り込みアービス率いる鎮圧隊はゴルドを目指して出発したのであった
。。。
《たった今ヨウム領から私兵が出立した模様です。その数約600、ゴルド到着は4日後程だと思われます》
上空より哨戒に当たらせていたバハムートから日向子に連絡が入る
『しかし…人間達はどうしてこう愚かなのだ?600程度ではバハムートとドラゴネットだけでも危うい数ではないか…』
シルグは学習能力のない人間の愚行に呆れ果てている
「あはは、人間欲が絡むと周りが見えなくなる人がいるからね…きっと暴動鎮圧だけしか頭にないんじゃないのかしら?」
日向子はアービスをフォローするつもりはさらさらないがそんな輩もいるのは事実なのだ
「さ、私達もセットに移動しましょ。「本物」は予定通り天幕で隠しておいてね」
《畏まりました‼》
バハムートは次の指令を果たす為に退室していった
《主、アービス達を捕まえるのに何も此処まで大仕掛けを作る必要はなかったんじゃないか?》
キメは日向子が仕組んだ罠に必要性を感じられずこの期に及んでも質問を重ねていた
「ん?何言ってんのよ?これは私のストレス発散ドッキリなのよ?凝れば凝るほど結果が楽しみになるの‼」
そう言えば日向子は最近ゴルド領主として奔走していただけだった
以前の様に暴れる機会もなくきっとストレスが溜まっていたのだろう
『…キメよ、主殿の思う様にさせてやれ。』
シルグは遠い目をしながらキメを諭した
《あ…はい‼》
キメもシルグの眼差しから全てを悟って疑問を頭から追い出した
矛先が自分に向かない様に。
アービス率いる鎮圧隊は着々とトゥルネ山脈を行軍し踏破する
流石に大隊規模の進軍となると行軍の速度は鈍るのだが兵士達はアービスより格別の権利を与えられていた為士気が衰える事もなく突き進んでいた
「領内に入ったら鎮圧に乗じて簒奪を許す」
要はアービスは利権を貪るだけでは飽き足らずゴルドを完全に植民地化しようと企んでいたのだ
この悪辣な計画はアービスが出立する少し前、例の会合に迄遡る
「なっ⁉それでは私の取り分がなくなるではないかっ⁉」
「いやいや、ワシはただドルネが開いた商業区画を…」
「馬鹿な⁉お主1人で利益を貪れるとは思うなよ‼」
ゴルド領の破壊工作が達成寸前だと確信したあの日、アービス達は利権をどう分配するか話し合った時だった
お互いの私欲を満たそうと牙を向いた強欲な集まりは醜い仲間割れを始めたのだった
「アービス殿‼貴方はどうなさるおつもりですか⁉この草案も今後の行動も貴方が主体となられております
我々は貴方様のご意志に沿って取り分を公平に分配して頂きたく存じます‼」
ローブを羽織った商人が言い争いを収める為にアービスに縋り付いた
「…皆の者、落ち着くが良い。私は細かい利権は私を除いた皆で公平に分配しようと思っている」
「「「!?」」」
「…では…アービス殿は何を得られると仰るのですか?」
「私は…ゴルドの領地を貰う」
「えっ⁉…それは…?」
この時はまだ国王から平定の依頼を受け取っていた訳でもなくその場にいた全員がアービスの言葉に驚いている
「破壊工作により疲弊したあの領地を私が救い暫定的な領主の座を国王に嘆願するのだ
以前よりあの領主…日向子は後釜を探しておったからな、私がその後釜に収まるのは当然だろう?」
この言葉に皆沈黙する
(利権を取ったとしてもそれを牛耳るのはコイツか…)
これがその場にいた強欲な者達が考えついた全てである
アービスは目先の利権ではなくゴルド領という試金石を一挙に手中に収めると断言したのだ
本来ならこの段階で他のメンバーは手を引いた方が無難だと気づくのだが
強欲が故にそれでも…と思い誰も辞退はしなかったのである
アービスの真の狙いも知らずに。




