19 モンキャプしましょ?
ー翌日ー
「じゃあ行ってきます」
「気をつけるんだよ?」
日向子は何処かにピクニックに行く様な気軽さでカントの家を出て行った
「…大丈夫かねぇ?」
カント婆は日向子を不安げに見送った
ー東の高原ー
「さーて、目標は輓獣系の魔物ね」
輓獣とは荷物をその背に載せて運搬する駄獣と共に人々の交易を担う「牽引をする」動物である
動物で言えば代表的な馬やラバ、ロバ等だろう
日向子は馬系の魔物を捕獲して飼い慣らしそれを輸送に使役しようと言うのである
メリットとしては輸送速度の上昇と肉食動物への牽制にもなる
デメリットは操縦が難しい事とやはり頭数になるだろうか?
「ねぇシロ、お友達になるんだから脅かしちゃダメよ?」
「ワフッ♪」
日向子はシロに念を押すと早速魔物探しを始めた
(探すとなるとなかなかいないなぁ…)
東の高原は見渡す限りの草原で草食の動物が沢山いると聞いてやって来たのだ
しかし来てみれば動物すらも見当たらない
「あ‼いたっ!」
シロの気配に気付いたのか遥か彼方に土埃が舞っている
「シロっ!お願いっ!」
「ウォンッ‼」
日向子はシロに指示を出して加速させる
ーダダッ、ダダッ‼ー
ー…バカラッ、バカラッ‼ー
…馬系の魔物かしら?
距離が縮まってくると前方を疾走する生物の群れが確認出来た
最初普通の馬かと思われたその生物は脚がどうもおかしい
「1、2、3…8本あるわ…気持ち悪い…」
先頭を駆るその異様な魔物には脚が8本あったのだ
「他の魔物は…ユニコーンかな?あれって…」
日向子は先頭を駆る魔物が伝説のスレイプニルだとは知らなかったが後続の魔物には少し既視感があったのだ
後続の魔物の額には小さな角が生えていた
「よーし、先頭の魔物を捕らえるよ‼シロ、もっと速く走って‼」
「ワウッ‼」
シロが速度を更に上げ先頭の魔物に縋ろうとするとその気配に気付いたのか魔物も更に加速する
「…クゥン…」
「え?フルスピードでも追い付かないの?じゃあ私が‼」
日向子はシロから飛び降りると瞬時に地面を蹴って飛び出した
ードンッ‼…パシッ‼ー
地面の爆ぜる音と共に日向子は前方の魔物の前に飛び出すとそのたてがみを掴んだ
「ヒヒィ~ンッ‼」
突如たてがみを掴まれた魔物は前足を高く天に上げ何とか日向子を振り払おうと暴れ出した
後続のユニコーン(多分)達はリーダーが掴まれた事でパニック状態に陥ったがシロのひと負吠えでピタッと動きを止めた
ーバカッ‼バカラッ‼ー
「ヒヒヒィ~ンッ‼」
魔物の抵抗は苛烈を極めたが振りほどくどころか徐々に背中に跨がる日向子
「どう!どうっ!」
日向子は以前テレビで見た覚えのある掛け声を出しながら魔物の首に手を回した
ー…ギュッッ!ー
「キュピッ⁉」
岩を砕き魔物を放り投げる膂力の持ち主の「軽め」のチョークスリーパーがスレイプニルの頸動脈を襲った
そして数十秒足掻いた後、地面にその巨躯を横たえる事になったのだった
。。。
ーギュッッ!ー
「良し、これで大丈夫かな?」
伝説の名馬とも呼ばれるスレイプニルは今、日向子の手によって全ての脚を丸太に括られ転がっていた
「それにしても何で脚が8本もあるかなぁ…」
北欧神話の主神、オーディンの軍馬として神話にも登場する神獣が只のキモい馬として片付けられている
「向こうのユニコーンっぽいのは可愛いのにねぇ」
スレイプニルに従っていた魔物?達は全てユニコーンの様に角を生やしていた
ただ日向子が絵で見た事のあるそれとは違っていたので違和感があったのだ
普通の馬をそのまま小さくした様な体躯、ヤギの様な顎髭、
そしてその角は鋭く長い角ではなく根元から折れた様に短い角だった
「…そう言えばユニコーンって結構獰猛だって書いてあったし…別の種類なのかもね?」
日向子はここでも見落としていた
決して人間に捕まらないユニコーンは「ある条件下」に於いては油断をしてしまう事を
とにもかくにも日向子は当初の目的である輓獣を捕獲し、持ち帰る事に成功したのであった
ーピレネー村ー
「あ、ゴメリさんただいま♪」
「…ヒナちゃん、そ、それは?」
「ねー、何かキモいでしょ?脚が8本もあるんだよ?でも駆けるのが凄く速いから連れて来ちゃった」
「…それは魔物と言うより神獣ではないだべか…」
「神獣?あ、何か一緒にいたのはそれっぽいけどね」
シロが引き連れてきたユニコーン達を見てゴメリは口ごもる
「ソレも…多分魔物では…」
ゴメリの動揺を余所に日向子は大工のゲンガに新しい檻の作製を依頼しにスレイプニル達を放置したまま会いに行ってしまった
「…もしオラぁの推察が当たってたらどうか許してくんろ…
罰当たりな事してっがも知んねぇけんどヒナちゃんも悪気があってしてる訳じゃねぇんだよ…」
ゴメリはスレイプニルの体をそっと撫でた
「ゴメリさんもう仲良くなったんですか?」
(仲良くって…神獣懐かせたら大したモンですよ…)
リキ化したゴメリの叫びは彼の胸の中でのみ響いた




