189 相互の交流
領民達の理解を得て日向子達は再びラクル王の元にやって来た
〈そうか、日向子の尽力に感謝する〉
ラクルは日向子の話を聞いて交渉に向けての並々ならぬ努力を察して労った
「一応領民の理解は得たけど念の為に次の条件を追加して貰いたいのよ、可能かな?」
日向子は1枚の地図を広げた
〈…これは?〉
「領民とバンパイア族が交流出来る「経済特区」の草案よ」
日向子としては領民の感情を考えバンパイア族との交流の場を限定的にしようと考えた。
場所は2ヶ所を予定しており一方はゴルド領のバンパイア領寄り、一方はバンパイア領のゴルド領寄りを予定していた
「領民…というより人間側はまだバンパイア族に対する恐怖心が残っているわ。
それを暴動に発展させない為にも初めは交流場所を限定した方が良いと思うの」
日向子は地図を指し示しながら説明した
〈成る程な。此方としては何の問題もない。早速我が国側の交易地を建造しよう〉
「ごめんね?色々と条件付けちゃって」
日向子はラクルに謝罪するがラクル自身はキョトンとしている
〈何を謝っているのだ?同じ種族同士でも条件をつけるのは当たり前だぞ?〉
王として長年治世に携わってきたラクルには日向子が何故謝ったのかが理解出来なかった様だ
『主殿は領主見習いだからな、まだ市民感情が抜けておらぬのよ』
〈そうか、成る程な〉
ラクルとシルグは日向子を置いて笑いあった
「…何よぅ…二人で分かりあった雰囲気出しちゃってぇ‼仕方ないでしょ?私は普通の女の子だもん‼」
〈ん?女の子?〉
…ギンッ!
ラクルの不用意発言に日向子のバンパイアアイが光ったがラクルには通用…しなかったのだが金色の瞳がラクルを捉えた
「…ラクルさん?貴方私を幾つだと思ッテイルノ?」
〈ウッッ⁉さ、さて‼早速ワーウルフ達に命じて交易地を作らないとなっ⁉〉
千里眼には対象を攻撃する能力はないが心情を見通す事が出来る
ラクルは日向子を「30代」だと見ていたのがそれでバレてしまったのだ
実際日向子の容姿はこの世界に来た時のまま変わっていない
見る人が見ればまだ十代後半にも見られる程なのだが年齢に無頓着なバンパイア族の悪い癖がダイレクトに伝わってしまったのだ
「ラクルサンチャントコタエテ?」
〈ひ、日向子は十分若いぞ?我々を見て見ろ⁉こう見えて七千歳だ‼〉
「…ゼンゼンフォローニナッテナイ…」
ラクルはバンパイアの生の中で何度目かの命の危険を察してそのまま部屋を飛び出して行った
残された怒れる日向子をシルグは腫れ物を触る様に細心の注意を払って宥めたのであった
ー1ヶ月後ー
「オ、オラぁバンパイアっつうのに初めて会うだが…ひ、人の血を吸うってのはホントだべか?」
「領主様が言うにはのべつまくなしに襲ったりはしないって話たまけどな…」
ラクルとの交易協定により急遽造られた交易特区で住民達が怯えながらその瞬間を待っている
…パカラッ、パカラッ、ガララー
「き、来たぞぉー‼」
野性味溢れる御者が操る漆黒の馬車が現れたのはそんな住民達の不安がピークに達した時だった
キキィー…ガチャ、
畏怖の表情を張り付けた住民達の前で馬車のドアが開く
〈…初めまして。ゴルドの皆さん〉
「!!び、美人さんだべ!!」
「…全然怖くねぇぞ?」
馬車から降り立ったバンパイアは日向子の指示で美しい女性を大使に選んで貰ったのだった
〈私は交易大使のミーチャと申します。双方のスムーズな交易をラクル王は望んでおられます〉
「っかぁ~っ‼こんな美人さんが来るならもっとおめかししてくるんだったぜぇ‼」
「バカ野郎‼お前ぇがおめかししたってたかが知れてるわ‼」
どっと沸いた笑いの渦にミーチャは少し困惑したがファーストコンタクトは無事成功した
日向子の目論見通りであれば双方の誤解もそれほど日を待たずに解ける事だろう
一方バンパイア族の領内に造られた特区にも人間代表としてゴメリとリースが向かっていた
「まさかバンパイア達と交易を結ぶ日が来るとはな…」
「これも日向子さんの尽力の賜物ですね」
ニルに牽かれた馬車の中で二人は感慨深げに語り合う
エレモス領ではバンパイアの被害は殆どなく伝え聞いた話でしかなかったが彼らの文化は相当高度だと言う
それは長命故に研究が長きに渡り継続されるのと先祖達が遺した文献等が豊富に蓄積されている為だ、と日向子から聞いた
「…俺達が双方の架け橋となる様に頑張らなければな」
「えぇ、そうでなければ私達を大使に任命してくれた日向子さんに顔向け出来ないもんね…」
二人は緊張の面持ちで特区の門を潜った
〈おぉ、あれはスレイプニルではないか〉
〈人間達は神獣を使役するのか?〉
ゴメリ達を迎えるバンパイア達もある意味緊張していた
パカラッ、ガチャ…
「初めまして、ゴルド領より派遣されたゴメリとリースだ。以後宜しく頼む」
〈あれが人間側の大使か。先ずはお手並み拝見だな〉
ゴルド領民とは違い静かな対面であったがお互い恙無く挨拶を交わし今後の協力を誓いあったのだった




