185 前代未聞?
日向子は城下を視察中の国王にアポ無しで合流し、呆れる国王そっちのけで話始めた
「この一年でゴルドは交易商業都市として漸く機能し始めましたよね?」
「ん?うむ。日向子は領主として良くやってくれておるな」
「で、そろそろ良いんじゃないかなぁ~って思ってご相談しに来たんですよ」
「?何か不都合でもあるのか?」
「そうじゃなくて…私は代理じゃないですか?」
「ん?一体何を言いたいのだ?」
「…えっ?」
「ん?」
。。。
二人の間に暫く静寂が訪れた
「…ちょっと先にお伺いする事が出来てしまいました」
「…先程から何が言いたいのだ?」
「王様、私は今何を任されているんでしたっけ?」
「そりゃゴルド領内の領主を任命しておるな。」
「…それはゴルドが復興する迄の暫定的な地位ですよね?」
「ん?日向子は何を言っておるのだ?暫定的領主なぞ古今東西聞いた事がないわ‼」
「…え?じゃあ…」
「日向子はゴルド領の正式な領主に決まっておろうが。…ん?まさか復興する迄の腰掛け領主だとでも思っておったのか?」
「…はい…」
「そんな輩に領主とは使わんぞ?普通はな」
日向子は初っ端から大きな勘違いをしていた事に漸く気付いた
国王が処刑され国民もほぼ全滅したゴルド領を復興させる役目はあくまでも暫定的なモノだと思っていたのだ
こめかみを押さえて考えこむ日向子に国王は更に続けた
「そもそも幾ら壊滅的だったとは言えゴルドは他国であり現時点ではエレモスの他領という扱いだ
領内を治める者はワシと同格となるから領主なのだぞ?お主はどんなつもりで引き受けておったのだ?」
「…てっきり一時的なモノかと…」
「バカな⁉それであれば我が国が既にゴルド領内を接収してワシが治世をしておるわ。
日向子を領主に封じ対等の扱いを以ての「支援」なのだぞ?」
ここで日向子は国王の言い回しに違和感を感じた
「…王様?もしかして私が勘違いしているのを知ってて領主にしたでしょ?」
「…さて、何の話だ?」
「やっぱり知ってて黙ってたんだぁ~っ‼酷い‼」
日向子は千里眼で国王の挙動から真実を知って怒った
「ワハハ‼そちと書類を交わしたであろうが?そこにもキチンと書いてあったぞ?」
「あ!そう言えば読めない位ちっちゃく文字が並んでたわ?」
「あれには「日向子をゴルド領の正式な領主として封じる」と書いてあったのだよ、読まぬ日向子が悪いのだ、ワハハハ‼」
「詐欺紛いじゃないですかっ‼国王のバカバカぁ~‼」
日向子はポカポカと国王を殴った
「うむうむ。困る日向子も可愛いな。気付くのに一年を要するとは流石だぞ?ワハハハ‼」
爆笑する国王など見た事がない親衛隊はその光景に呆気に取られている
「と言う訳で今後もゴルド領を宜しく頼むぞ?支援した分我が国へと利潤を返す様にな」
「は?」
「それも任命書に記載されてあったであろうが?我が国が慈善で他国を支援するなどあり得んだろう?」
そう言えばそうだった…
国家間での貸し借りはあっても無償で施すなど聞いた事がない
「だから約款には「復興の暁にはゴルド領の税収を以て支援の返済に充てる事」と記してあった筈だがな」
「…これも書類を端から端まで確認しなかった私が悪いんですね?」
「そうなるの。ワハハハ‼」
日向子はかなりショックを受けたみたいで挨拶もそこそこにフラフラと空に舞い上がった
「…こうしちゃいられないわ‼知らない間に借金生活に陥ってたなんて…急いで対策を練らなきゃ‼」
ーゴルド城ー
…キーーーーン…ドカンッ‼
『《な、何だっ!?》』
執務室の応接セットで寛いでいたキメとシルグは驚いた
「ねぇ‼もしかして二人とも知ってたの?」
『《???》』
「私の領主の立場が暫定的じゃなかったって事、知ってたでしょ?」
日向子は二人に詰め寄る
《…落ち着け。一体何の話だ?》
『そもそも領主というのは恒久的な立場であろうが。何を言っておるのだ?』
キメは人間のシステムをそもそも理解しておらずシルグは領主の認識が日向子と違ったのだ
「そっか…他国に復興支援をするなんてこの世界では考えられないわね」
日向子はキメとシルグの前でブツブツと呟いている
『主殿は復興後に地位の返上が出来ると思っておったのか?』
「…うん…」
《成る程、道理で運輸の方を放置気味だったのはそのせいか》
キメも漸く気付いた様で納得している
『主殿』
「ん?」
『主殿が領主でなければゴルドの復興はなかったのだぞ?』
「えっ?」
シルグは日向子のこれまでの行いを第三者目線で諭していくのだった




