182 郷愁
日向子は今、ゴルド領から脱出した住民達を住まわせている仮設住居にやって来ていた
…ドタドタドタドタ…
「こ、これは領主様‼こんな所にお越しとは存ぜず失礼致しました‼」
この恰幅の良い中年男性が恐らく施設長なのだろう、
日向子の来訪に酷く驚いた様で慌てていた
「あはは…領主様は止めて下さい、日向子で良いですよ。ゴルドの復興が終わる迄の暫定領主ですからね」
日向子は苦笑いしながら応える
「では…日向子様、本日の来訪は何用でしょうか?」
「あぁ、一応城下町が落ち着いて来たのでお休みを貰ってこっちに戻って来たんですよ。
この施設にナクルさんって方をご存知の方はいらっしゃるかな?って」
施設長の慌てた様子に何事かと出て来た避難者が日向子を見て驚いている
「今ナクルって言いましたか?」
1人の男性がナクルという言葉を聞いて歩み出た
「はい。デシャ村のナクルさんです」
「…ナクルは俺の兄ですが…何かあったのですか?」
その男性はナクルの弟だと言う
「あぁ、良かった。お兄さんは生きていらっしゃいますよ」
男性は酷く狼狽えている
「そんな…兄は救援を求めて村を出て…もう数ヶ月も前の事ですよ?」
「それが途中で病に臥せってようやくエレモス領に着いたそうですが途中で力尽きて倒れていたんです」
「…じゃあ兄は…」
「偶然私が通りかかって今は私の会社で休んでます」
「…良かった…生きていたのか…」
男性は力なくその場に崩れ落ちた
「お知り合いがいるかと思って来たのですが弟さんがご存命とは思いませんでした。
きっと彼もその事を知ったら喜びますよ?」
「領主様‼俺を…俺を兄貴の所に連れて行って下さい‼」
「勿論です。彼は今村を救えなかった自分を責めていますので勇気づけてあげて下さいね」
「…はいっ‼」
日向子はナクルの身内が生きていた事に安堵した
「では一旦この人を連れて戻りますが皆さんもゴルドに戻りたいのであれば支度をしておいて下さいね」
そう言うと日向子はナクルの弟を抱えて飛び立った
ー神獣運輸事務所ー
「兄貴‼兄貴は何処に⁉」
「⁉ミグル⁉ミグルじゃないか‼」
脱水症状も和らぎ少し回復したナクルは弟の声を聞いた気がして部屋から出て来ていた
「あ、兄貴ぃ~‼」
「良かった、会えて良かった…」
二人は抱き合って再会を喜んだ
「…他は?他はどうした?」
ナクルはミグルに訊ねる
「…駄目だった…」
「…そうか」
折角の再会も弟1人だけが生き残りだと知ったナクルは再び暗い表情に戻る
「…ミグル…すまん‼俺がもう少し早く日向子様に知らせる事が出来ていたら…」
ナクルは拳を強く握って無念さを滲ませる
「兄貴…領主様が来ても間に合わなかったんだよ…兄貴が村を出て直ぐに村は…ゾンビの大群に飲まれたんだ…」
「そうか…そうか…」
二人は失った家族を思い出したのかきつく抱き合って嗚咽を漏らしている
もらい泣きしていた日向子とテロンだったが日向子は涙を拭いて立ち上がった
「じゃあ避難所に戻って希望者を募ってきますね。
ナクルさん達もゴルドに戻るのであれば準備をしておいて下さい」
日向子はそう言い残すと再び避難所に向けて飛び立った
バサッ、バサッ、
「あ‼りょ、日向子様‼ミグルはどうなりました?」
「お兄さんと無事会えましたよ、それで此方の帰省希望者は何名になりますか?」
「はい、37名程になります」
施設長は必要な情報だけを短く答える
「37人か…多少の荷物も考えるとウチの馬車での往復になりますね…
一応10名ずつに班分けしておいて下さい。今から王様に馬車が借りられないか聞いて来ます」
「お願いします‼」
日向子は続いてエレモス城へと飛び立った
バサッ、バサッ、
「⁉おぉ、日向子ではないか‼」
突然バルコニーに降り立った日向子を見て国王も親衛隊も驚いている
「話は聞いていたが…正に天女だな」
国王の目が別の意味でキラリと光っている
「誉めて頂くのは嬉しいですが今日はお願いがあって来ました」
「ん?おうおう、何でも話して見るが良いぞ?」
「ゴルドの城下町の整備がある程度済んだので今さっき避難所で帰省希望者を聞いて来たんです
約40名程が希望したのですがウチの馬車だと足りなくて…馬車だけでも良いんでお貸し願えますか?」
日向子はあくまで領主として国王に依頼をした
「ん?何だ、そんな事か。何台でも使うが良いぞ?」
「ありがとうございます、じゃあ後程ウチのスタッフを寄越しますので」
「お、おい‼もう行ってしまうのか?」
国王は慌てて日向子を呼び止める
「?何か?」
「折角城に来たのだ、今後の我らの事でも話そうではない…ん?」
バサッ、バサッ、
日向子は既に千里眼で国王の言動を予測し飛び去った後だった
「フッ、照れおって。初い奴じゃな…」
(((国王、超ポジティブぅ~‼)))
その場の親衛隊は国王の「折れぬ心」に感動していた
願わくばその心は治世に生かして頂きたいモノである




