169 赤い瞳の秘密 part2
日向子は赤い瞳の能力を聞くつもりでドラを訪れたがひょんな切欠でラクルの凄絶な生い立ちを知る事になった
〈ラクルは恐らく母体の中で自分の危機を知ったのでしょう
出産のタイミングを逆にチャンスと捉え時空操作で産婆もろとも排除したのです〉
「何か現実味のない話ね…」
日向子は生まれたばかりの赤ん坊が為せる事だとは到底思えず上手く整理が出来なかった
〈日向子様達人間は十月程で出産をしますがバンパイア族は妊娠から出産迄五年は掛かります〉
「えぇ~?信じられない位妊娠期間が長いのね?」
〈これには理由があります。生まれて直ぐに親によって殺される事がそれほど珍しくないからなのです〉
「えっ!?」
〈我が子とは言えバンパイアにとっては「血袋」ですから…〉
出産という母体の危機に本能が理性を押さえ付けて生まれたばかりの我が子の血を求めてしまう事が珍しくないのだそうだ
「そうなんだ…凄惨なのね」
母体から産み落とされる時にはある程度力を発現していないと自分の母親に殺されてしまうとは…
「…色々と新事実が山積みになったけど要はラクルは始祖と同じか近い能力を持っている事と
ラクルは元々ゴルドに興味がないって事よね?」
〈そうですね、もし狙うのだとしたらとっくに進撃してますし〉
「なら今の内に私の瞳のパワーアップをしておかないとね」
〈はい。では伝えられている瞳力の種類等をこれからお教えします〉
ドラは日向子にこれまで確認されている赤い瞳の能力とその使い方をレクチャーしていった
。。。
《ふーむ…ラクルは何の目的でドラクを監視していたのだろうな?》
キメは牢獄にある取調室で日向子が捕まえた「二の矢」の脳内を探っていた
『何の目的とはどういう事だ?捕らえられた兄や薬師を奪還すべく探りを入れていたのではないのか?』
シルグはキメの言葉に違和感を感じた
《ところがこの間者はただ監視して報告せよという命令しか受けていないんですよ…》
普通味方が捕らえられそれが重要人物であれば奪還を第一に考える筈なのに様子見しか指示されていないとなると…
シルグとキメは2つの可能性を考察した
1つはラクルにとって薬師もドラクも「とるに足らない存在」の可能性
もう1つはこの間者が陽動で敢えて捕まる様に動いていた、という可能性だ
コンコン、ガチャ
「どう?尋問進んでる?」
二人が間者から得た情報を精査していると日向子が部屋に入ってきた
キメが知り得た情報と2つの可能性を説明すると日向子は合点がいった様に頷く
「ドラちゃんの話も加味するとどうやらラクルはドラちゃんも薬師も必要とは思っていない様ね」
《愚兄はいずれにしても薬師は必要なのではないのか?》
「敵対してる元老院にはね。ラクルにとっては物理的に力を削げる良い機会じゃない?」
日向子はドラから得た情報をキメとシルグに話す
『成る程、バンパイア族同士の覇権争いが原因だったのか』
《じゃあもしかするとドラクの動向を調べていたのも俺達が元老院達と手を組む可能性も視野に入れてって事なのか?》
「本当の所は分からないけど可能性はゼロではないと考えたんじゃないかな」
いずれにしてもラクルは直ぐには襲って来ないだろうと三人は判断した
《それでドラクから瞳の話は聞けたのか?》
「うん。でも横路の方が盛り上がっちゃってね」
《横路?》
「ラクルの生い立ちって言うのかな?かなり悲惨だったのよ」
日向子はドラから聞いた話を二人に話す
『うーむ…異端が故に命を狙われ母を殺さねばならぬとはな…』
「でしょ?何かひねくれた性格になっちゃうのも分かる気がするわよねぇ…」
《同情しているのか?》
「ううん?そうじゃないけど自分なら誰も信じられなくなるなぁ…って」
『まぁ本能に従い生きる動物なら珍しくもないが知能が高い生物でそういうのは確かに希有ではあるな』
「ドラちゃんみたいにってのは無理でも何とかしてあげたいわね…」
日向子は既にラクルに殺された事は許しているらしい
《…良いのか?それで》
「だって…ラクルって実際何もしてないじゃん?ゴルドの件はドラちゃんだし私を攻撃したのも侵入者を撃退しただけよ?」
《まぁそうだな》
「なのに敵視しても筋違いじゃないかな?って思ったのよ。私だって魔物が村に向かって来たら討伐するし」
『主殿は結局何を言いたいのだ?』
「憎むべきはラクルではなくドラちゃんをけしかけた元老院じゃないかな?って事。
それとラクルに敵対心がないならこっちが敵意向ける必要がないんじゃないの?って思ってるのよ」
《…そうか、敵がそもそも間違っていると言いたいのだな?》
「うん。実行犯がヤンバ王とドラちゃんで煽動したのは元老院、ラクルは単に侵略者の私を撃退しただけ」
この言葉にキメもシルグも頷いたのであった




