166 タイムパラドックス?
『えー、過去跳躍は卒業、次は未来跳躍を教えるぞ』
昼食を食べ終わった二人は再び中庭で訓練を始めた
「オーシュさん、過去に跳べたら未来に跳ぶ必要があるんですか?」
『ふむ。良い質問だな。では少し問題を出そう』
オーシュは日向子にクイズを出す
『過去に跳んだ時、過去にいる筈の自身はどうなっていると思う?』
「…えっ?」
楽観的な日向子は考えもしなかったが良く考えてみれば現在の日向子が過去に跳べば過去に存在している筈の日向子と鉢合わせになる筈なのだ
「えっ⁉あれ?…そうか‼」
日向子は元の世界の書物で読んだ「タイムパラドックス」を思い出した
「あ、そうか‼そう言えば移動した先の私ってどうなってたんだろ?」
思い出してみるが何も無かった気がする
『俺にも理論立った事は分からん。が、同じ時に存在は出来ないのだ』
「じゃあ…」
『転移先の存在は消える。だから余計な影響を与えない為にも過去に跳んだら元に戻る必要性がある訳だ』
「…なるほど…」
日向子も理論的な事を聞いてもきっと理解は出来ないと分かっているのでオーシュの忠告を鵜呑みにした
「ん?そうなると…過去から未来になら理屈は通るけど現在から未来に跳ぶ時はどうなるんだろ?」
『うむ。それは見た方が早いだろうな』
そう言ったオーシュの姿がスッと消えて10m程先にパッと現れる
「あ、消えちゃうんだ?」
『あぁ、どういう理屈かは分からんが消えてしまうらしい』
オーシュは操作する側なので第三者的視点は多分周りのドラゴン達に聞いたのであろう
『イメージ云々より多分日向子自身が体験した方が早いな』
「じゃあ…えいっ‼」
日向子は未来に行くイメージで能力を発動した
…「あれっ?」
発動したつもりだったが失敗した様だ
『ワハハ、最初はそうだろうな』
オーシュは結果が分かっていた様だ
「えっ?どうして?」
日向子は失敗するとは思っていなかった様でしきりに首を傾げている
『日向子、今何をイメージして能力を発動した?』
「えっと…未来に行くぞ‼って感じかな?」
『だろうな。では過去に跳んだ時は何をイメージしたのだ?』
「…あっ‼」
『そうだ。過去の時は明確なイメージを持って発動したから跳べたのだ。
未来は確定していないからな、イメージするのが難しいのだ』
日向子はしきりに頷いている
「そっかぁ…過去から戻る時は跳ぶ先の未来が見えているからイメージしやすいけど
単純に未来に跳ぶにはイメージが不足してて跳べないって事か…」
『まぁそういう事だな。因みに理由を聞かれても分からんぞ?』
オーシュは前もって日向子からの質問を遮断した
純粋に出来る事とそれを説明する事は別物なのだろう
『まぁ俺も現在から未来に跳ぶのは難しいからな…』
そんな風に説明していると日向子の姿が突如消えた
『あ⁉全く…人の話は最後迄聞くもんだぞ?って俺はドラゴンだがな』
オーシュは多分会心のギャグを放った手応えを感じたのかドヤ顔をしたが誰もいない事を思い出して残念そうな顔をした
…フッッ‼
『!?おわぁぁっ!?』
日向子は突如現れた
しかもオーシュを肩車した形で
突然自分の体が持ち上げられた形になっているのに気付いたオーシュは変な声を出してしまった
「えへへ、驚いた?」
日向子はイタズラっぽく笑う
『あ、当たり前だ‼どうして俺を肩車なんかしたんだ?』
「そりゃ未来に跳んだ証拠としてはビックリ要素は必要でしょ?」
日向子は当然の様に答える
『…ん?じゃあさっき消えたのは…』
「未来に跳んだのよ、ちょっと予想とは違ってたけどね」
先程日向子がかき消えてから10分以上は経過している
オーシュ自身もそれだけ長く先に跳んだ事がなかったので立場が逆転してしまった
『あれだけ長く先に跳ぶと言うのはどんな感じなのだ?』
「うーん…ほら、オーシュさんがイメージし難いって言ってたから千里眼を使って…」
『成る程、未来視を使ったのか‼では俺には無理だな…』
「あ、でも凄く疲れちゃって…さっきのが限界‼」
そう言うと日向子は金色の瞳をシパシパと瞬かせた
『そうか、会った時から気にはなっていたが黄金の瞳が千里眼か…もう片方の赤い瞳はバンパイアアイだろ?器用な奴だ』
「…えっ⁉バンパイアアイ??」
『…何だ、知らなかったのか?バンパイア固有能力の瞳で「魅惑・支配・幻惑・透視」等が行える筈だぞ?』
オーシュは呆れながら赤い瞳の説明をする
「そうだったんだ…だから人の心とか何となく分かっちゃってたのか…」
日向子には少しだけ覚えがあった
ドラクを尋問している時、集中して見つめているとドラクの心の動きが何となく分かる様な感覚がしていたのだ
『その瞳も訓練次第では更なる能力が開花する筈だぞ?
言い伝えによると始祖のバンパイアはその赤い瞳で全ての生物を魅惑したと言われているからな』
「成る程…これはドラクさんに聞けばアドバイス貰えるかな?」
『さぁどうだろうな?バンパイアアイは固有能力と言われるだけあって発現率はかなり低いらしいからな…』
「へぇ~、そうなんだ…じゃあ赤い瞳だけどただ赤いだけのバンパイアの方が多いのか…」
日向子は早速ドラク…現在霊能者ドラに話を聞きに行ったのだった




