165 …凄いな…
新春麻雀で徹マンして…完全に風邪を引いてしまいました
キメが落ち込み過ぎて自己崩壊し、オーシュが何とか思い止まらせた翌日、
日向子はオーシュを伴って再び中庭で訓練を再開した
『そうだ。時の流れを感じてそれを加護で止めるイメージを強く持つんだ』
「はいっ‼」
日向子は最初の一時間程で時空操作の初期動作を理解し次は応用を教えて貰っている
『ふむ、一度理解すればこれほど習得が早まるとはな』
オーシュは日向子の学習能力の高さに舌を巻いていた
オーシュは分からなかったが日向子の脳内では1つの認識が時空操作の理解を阻害していたのだ
(元の世界の常識)
これは時として日向子に致命的な弱点ともなっていたのだ
現実世界では時は不変で改変出来るモノではない、という固定観念が日向子の柔軟な思考でも壊せなかったのである
「そかそか。此処でこうイメージすればこうなっていくのね…」
日向子は1人でブツブツと呟いて色々試している
『おっと、1つ大切な事を教えておかないとな』
「何ですか?」
『この時空操作は自身の認識外で行ってはならぬ』
「ん?どういう事ですか?」
『簡単に言うと自分が知っている事実、場所、人物を正確に把握してこそこの能力は使えると言う事だ』
「?」
オーシュの説明は回りくどくてイマイチ要領を得ないのが難点だった
日向子流に解釈すると時空操作を行う際、何かマーカー(対象物)が必要でそれがないと時空の狭間に落ち込んで戻って来れなくなる、と言う感じなのだろう
「じゃあ例えば自分が生まれる前とか経験していない時間に飛ぶと目印がないから嵌まっちゃうって事ですね?」
『そういう事だな』
オーシュは日向子の説明に我が意を得たり‼みたいなドヤ顔をしている
(うーん?そうなのかなぁ?一回試してみるか‼)
…フッッ…
『む?…日向子、何処だ?』
時空操作の師匠、オーシュが日向子の跳んだ先を見失った
…フッッ‼
オーシュが辺りを見回すと直ぐに日向子が戻って来た
「オーシュさん、やったら大丈夫でしたよ?」
『ん?何をやったのだ?』
「ウフフ…オーシュさん、右手右手☆」
日向子はオーシュに右手を見る様に促す
『右手に何があると…あっ‼』
オーシュは右手にいつの間にかつけられたバングルを見た途端過去の、というか幼少期の記憶が甦った
オーシュがまだヨチヨチ歩きの頃、見知らぬ女性から
「必ず着けておいてね」
と渡されたお守りのバングル、記憶と共に思い出されるその女性の顔は…日向子だったのだ
『…まさか…』
「過去に跳んで幼かったオーシュさんにバングルをプレゼントしたの、思い出しました?」
日向子は左手にあるオーシュの右手のバングルとお揃いのバングルを振って見せた
この時点で日向子はオーシュでも危険な「未知の過去」に跳び証拠を置いて戻って来るという常識外れな事をやってのけていたのだ
『…そこまで遡るとは…凄いな…』
オーシュは自身の能力を譲ってからの日向子の進歩に驚愕していた
『だがどうやって目印…マーカーをつけたのだ?俺の幼少期などもう一万年は前なのに…』
オーシュは当然の疑問を日向子に呈した
そんな過去に日向子は当然生きておらず勿論関わり合いなどある訳もない
だから本来は跳べる筈がないのだ
「えーっと…オーシュさんの事をじっと見てたら子供の頃のオーシュさんが見えたの、それで…」
『もしかして…』
オーシュは日向子の説明である1つの可能性を思い付いた
日向子はオーシュの「細胞の記憶」を辿って過去に跳んだのではないか?と
千里眼の力と時空操作の力、それが掛け合わさってオーシュの知らない能力が目覚めたのでは?という考えに至ったのだ
まぁこれを検証する為には自覚していない日向子に再び別の過去に跳んで貰うという危険な実験にも繋がるので確かめ様がない
『俺もそこまで跳んだ事はないぞ。もう過去に跳ぶのは完璧だし次は未来に跳ぶ練習をするか』
オーシュは気持ちを切り替えて次のステップを提案した
「あ、じゃあお昼食べてからにしましょ?お腹空いちゃったぁ」
(…きっと深く考えない日向子だからこそ出来る芸当なんだな…)
オーシュは小走りで食堂に向かう日向子を見てぼんやりそう感じていた
《主、進み具合はどうだ?》
『先程チラッと見たが中々に捗っているみたいだな』
食堂には既にキメとシルグが昼食を取っていた
『日向子の進歩は教えている俺が呆れる位凄いぞ、もう俺を越えたんじゃないかな?』
オーシュは素直に称賛した
《主は時々度胆を抜く行動をするからな…》
『そうだな、普通ドラゴンキングダムに分け入ってくる人間などいないな。ワハハ‼』
キメにもシルグにも覚えがあったので日向子の破天荒エピソードで暫く盛り上がった
「もう…何か私がお転婆みたいしゃないの‼」
(えっ?違うのか?)
食堂にいた全員が心の中でツッコんだ為に騒がしかった食堂が一気に静寂に包まれたのであった




