164 得たとて。
ほぼ丸1日かかった日向子の特訓が終わりオーシュと共にゴルド城に戻って来た
『おぉ、主殿。どうだ?時空操作に対抗する術は身に付けたか?』
シルグが二人を見掛けて声をかけたがどうも様子がおかしい
しょんぼりする日向子とプンスカ怒っているオーシュ、どう見ても何か一悶着あった様子だった
『おい、オーシュ。お前我が主殿に何をした?内容によっては黙ってはおらぬぞ?』
シルグは風の加護をその身に纏わせていつでも殺っちゃるぞ‼という威嚇をした
『…フンッ‼どうもこうもないわ‼日向子のお陰で丸1日の苦労が水の泡だ』
オーシュはプンスカ怒っているがその顔には明らかに徒労の疲れが滲み出ていた
『…主殿?…まさか…全く打つ手なしだったのか?』
シルグは日向子の落ち込み様から時空操作に全く対応出来ず糸口さえも見つからなかったから落胆していると理解した
「…半分正解で半分ハズレでした…」
『ん?ん?おい、オーシュ。一体どういう事だ!?』
シルグはオーシュに詰め寄る
『…はぁ~、訳を話せば単純な事だよ…』
オーシュはシルグに今日の経緯を説明する
ほぼ全日二人で努力した時空操作の説明と実践、そして失敗。
日も暮れかけた頃に判明した衝撃のカミングアウトによる即時解決の全てを。
『…では主殿にキマイラ細胞が備わっていると初めから知っていれば…』
『速攻血を渡して能力を移して貰ってから訓練すればそこそこ使い物になっていたな』
日向子とオーシュ、シルグはその場で固まったまま動かなかった
《お?主、修行の成果は出たか?》
ソコに何も知らないキメが合流した
「…うっく、ひっく…ごめんなさーーーい‼」
日向子はキメの言葉を切欠に号泣しだした
《えっ⁉えっ⁉》
キメは唐突の事に動揺してオロオロしている
『…タイミングが悪かったな、キメよ…』
シルグは慌てるキメに憐れみの言葉を掛けたのだった
。。。
《じゃあオーシュ様の細胞を貰ったのか?》
「うん…そうしないと私の頭じゃ時空操作能力が全く理解出来なかったの…」
《そうか、でも最初の説明で大体こりゃ無理だ‼って分からなかったのか?》
キメは無意識に日向子の落ち込みにトドメを刺した
「…ひっく…」
《あぁっ⁉お、俺が悪かった‼傷口を抉ってしまったのか⁉》
溢れる涙を堪えようともしない日向子にキメは再びアタフタした
『…全く…キメは思い遣りに掛けるのぉ…』
シルグはキメの放つ言葉の暴力に気付き呆れていた
《で、ですがシルグ様‼》
『こういうのは雰囲気で察するのだよ。ワシを見ろ、先程から気配を完全に消しておっただろう?』
そう言えばシルグどころか一緒に食卓を囲んでいるオーシュやワイトの気配も完全に消えていた
シルグ達はとばっちりを避ける為に隱形の術…ならぬ「空気」になっていたのだ
別に能力でも何でもない。言ってみれば「年の功」で得た処世術と言った所か
「…ぐすん…」
キメの言葉に完全に心を折られた日向子を慌ててキメがフォローする
《で、でも結果はオーシュ様から血を貰って能力を取得したんだろ?良かったじゃないか⁉》
「…うぇぇぇ~~~ん‼」
日向子はキメのフォローを聞いて更に泣き崩れた
ボカッ‼
『全く気持ちを察してないではないかっ‼』
シルグは見るに見かねてキメの頭をポカリと叩いた
《えっ⁉…だって…》
『日向子はな、本当に日没まで気付かなかったのだ。真剣に悩んで悩み抜いた挙げ句に思い出して…
オーシュに迷惑を掛けて凹んでいる所にお主が塩を塗り込んだのだよ』
ワイトもオーシュも「あ~あ…」と言った表情でキメを見ている
『お主は人の心を勉強した方が良さそうだな…』
ワイトの一言でキメの心もポッキリ折れた
《…俺は…無意識とは言え主の心を傷つけていたのか…死んで詫びよう‼》
…ザワザワザワザワザワザワ…
キメはひと吼えすると体表が崩壊を始めた
『ちょっ‼待て待て待てーい!』
『自壊する程の事か⁉』
ワイトとオーシュは慌ててキメの自己崩壊を止める
『…お主もキメの純情を弄り過ぎだ…』
シルグは調子に乗って一刺ししたワイト達を窘める
『日向子!この能力はこう使うのだっ!』
オーシュが日向子に宣言すると瞬時に姿を消した
『お主は人の心…うぶぅっ⁉』
…ドキャッ‼
次に聞こえたのはオーシュがワイトを殴るシーンだった
「…そっか。過去にあった事を「無かった」事にも出来るのね?」
オーシュは時空操作で過去に飛びキメに止めを刺したワイトの発言を腕力で止めたのだ
『?何故オーシュはワイトを殴ったのだ?』
時空能力を持たないシルグはポカンとし、ワイトは痙攣している
日向子はオーシュから貰った時空能力と千里眼によりオーシュの動きを全て視えていた
ただ自分で行使するとなるとまだまだ研鑽の余地はあるだろう、と日向子は思った




