162 新生ドラク、爆誕?
〈お早うございます。日向子殿〉
日向子とキメの脳内改変後1日目、あれだけ尊大だったドラクは生まれ変わった
「ねぇ、ちょっとやり過ぎちゃったかなぁ?」
《…主が調子に乗るから…》
今更な感じがするが変えた本人達が気持ち悪がっていた
〈いやぁ、何か今までの呪縛から解かれサッパリした気持ちです〉
御歳七千余の筋肉オジサンが憑き物が落ちた様な爽やかスマイルを浮かべていると寒気すら覚える
「そ、そう?それは良かった…わね?」
日向子は早速後悔している
〈さて、新しい私に託された仕事を早速始めましょうか‼〉
ドラクはいそいそと怪しげなローブ姿に着替えカーテンに仕切られた個室に入って行く
《…主、本当に大丈夫なのだろうな?》
「大丈夫大丈夫、案ずるより産むが易しよ?」
《…ちょっと言ってる意味が良く分からないのだが?》
「あはは、まぁとにかくお客さん呼んでみましょうよ」
どうやら日向子はドラクを使って何か商売をさせるつもりらしい
「今日は流石に本物のお客さんは呼べないからさ、サンプルとして募集かけておいたのよ」
城内の応接室に待たせていたある人物をバハムートに頼んで連れて来て貰う
コンコン、ガチャ。
「…失礼するぞ」
《ゴメリさん⁉どうして此処に?》
入って来た人物はピレネー村で討伐依頼を受けている筈のゴメリだった
「ヒナちゃん久しぶりだな。キメも大分滑舌が良くなったんじゃないのか?」
ゴメリとはそれほど離れていた訳でもないのに変な言い回しをずっとしている
キメは首をしきりに傾げていたが日向子が最初の客として呼んだ理由を聞いて納得した
《ゴメリさんの死に別れた母親をドラクに「喚んで」貰うのか?》
「そう。前に聞いたんだけどね、何か悲しい別れを引き摺っていたんだって」
日向子はゴメリにカーテンの向こうに待つドラクを紹介する為に一緒に潜って行った
数分後、カーテンの向こうからゴメリの慟哭が響き渡る
【…ゴメちゃん…貴方を置いて逝ってしまったお母さんを許してね…】
「う…うぉぉぉぉっ‼か、母ちゃーーんっ‼」
つい出そびれて一緒に話を聞いていた日向子は思わず貰い泣きをしていた
ドラクの隠れた能力、「イタコ」によりゴメリは母と再会を果たしたのだ
《ドラクの能力は俺達には無駄に思えたが…死を重んじる人間にとっては希有な能力だったと言う事か》
普段の屈強で冷静なゴメリからしてみれば今号泣している姿は想像も出来ない
そうこうしている内に日向子が鼻を鳴らしながらカーテンを潜って出て来た
「グスッ…ゴメリさん良かったね…」
鼻の頭を真っ赤にして溢れる涙を拭いながら日向子はウンウンと頷いている
《…人間の情とは深いモノだな》
「うん…この能力で今回の被害者遺族の気持ちを少しでも慰められないかな?って思ったのよ…」
死者の声を代弁する能力
遺された者にとっては時にその後の人生の糧にもなる事を日向子は元の世界、オペ看時代に散々味わって来ていたのだ
元の世界での真贋のつかぬ◯◯師等とは違う本物の能力、この希有な能力は実は意外と有用なのも日向子は気付いていた
「例えばね、先人の声が聞ければ失われた知識が甦るし殺人とかでも犯人が一発で分かっちゃうのよ?」
キメは一通り説明を聞いたがやはりピンと来ない
本能に従い生きる生物にとっては死=無であり悼むという発想が全くないのだ
翌日から日向子は「霊能者ドラ」として遺族ケアを始めた
突然家族を奪われた遺族達は降霊術という怪しげなモノに初めは懐疑的だったが
ドラ(ドラク)の言霊の的確さに度肝を抜かれ即座に本物だと信じていた
【突然暗くなったが死んだのかの?】
「お、お爺ちゃん⁉」
【おぅおぅ、チルチや。孫のルチルは一緒に来ておらんのか?】
「あぁ…本当にお爺ちゃんなのね…」
こんなやり取りが毎回行われ遺族達はそれぞれの思いを受け取って帰っていった
〈ふぅ…今日はこの位で終わりにしましょう〉
ドラクは誰かに感謝される事は初めてだったのか成し遂げた顔をしている
〈私は…あの方達のご家族を奪ってしまったのですね…万死に値します…〉
『…主殿、相当気持ち悪いのだが…』
「そうね…でも被害者救済の一環だから私達が我慢すれば良い事よ」
日向子達はこの1日で魂が大きく削り取られた様な感覚を覚えた
キメがドラクの精神状態をチェックする為に特別に用意された普通の部屋風牢獄に向かって退室すると
入れ替わりにワイトとラルドがオーシュを連れてやって来た
『日向子殿、久しいな』
『オーシュを連れて来たぞ』
『ほう、この娘が例の…』
日向子は礼儀正しく自己紹介をする
「初めまして。私は今ゴルド領の領主をさせて貰ってます日向子です」
『うむ、俺は四竜が一体、オーシュだ。道中君の話はワイトやラルドに散々聞かされたよ』
「あはは、良い噂だと良いんですけど…」
(いつもこうおしとやかだと良いんだがな…)
その場にいた大半が同じ願いを込めて笑顔を振り撒いていた




