156 対策はバッチリ⁉
日向子達はドラクの間者、ガントスとラクルの間者から十二分に内部情報を抜き出した
間者を拘束したと言う事はドラクかラクル、いずれかとの決戦が近いからだ
「ラクルは王と言う立場があるから直ぐには行動を移せないわね」
《あぁ、そうなると先ず最初にドラク一派、次いでラクル達になるな》
『元老院は長老と呼ばれるバンパイアの古参達だ、自ら戦闘はすまい』
日向子達は意見を交わし次の対策の方向性を随時変えていった
「それでね、私の世界で伝えられているバンパイアや狼男の弱点ってのがあるんだけど…間者で試して罠に設置してみない?」
『異邦には存在しないのに弱点は伝えられているのか?不思議な世界だな』
「ね、何かおかしいよね?本当は居たのかも知れないわよね」
日向子はこの世界に来て魔獣や神獣達と出会い今バンパイア達とも会った
元の世界では架空とされている存在が実在しているのを見て触れた日向子からしてみれば
架空の存在にしてはやけに描写が詳しすぎる事に違和感を感じていたのだ
もしかすると世界には、いや日本にも妖怪や魔物はいたのかも知れないな、と思う日向子であった
ーゴルド城獄舎ー
…ジュゥゥゥゥ…
((ぎゃあぁぁあっ‼))
「あ、やっぱり銀は効くんだね」
日向子は感心しながら溶けた銀をガントスにかけている
「となると…バンパイアにもニンニク効くのかなぁ?」
《あ、主っ‼これ以上銀をかけると間者がっ‼》
「あっ‼ゴメンゴメン☆」
日向子は実験途中で考え事に夢中になって危うくガントスを殺しはぐった
『主殿、ニンニクとは何だ?』
「あ。聞いた事ないのか…ならこの世界に存在してるか分からないわね…」
日向子はキメとシルグにニンニクの説明をしたが二人とも知らなかった
「あれだけの匂いだから自生してたら気付く筈よね?それとも食用にする習慣がないのかしら?」
《草の事ならウシャ爺に訊ねると良いと思うぞ?》
「あ、そうね。じゃあ後で聞いてみるか」
日向子は一生懸命弱点を思い出す
「バンパイアは心臓に杭を打ち込むと灰になるとかあったなぁ…」
『…それ、誰でも死ぬのでは?』
「…」
日向子は的確で食い気味のツッコミに口を閉ざす
「聖水‼…はこの世界にキリスト教がないからダメだし…日光‼…はタイミング難しいし…」
段々日向子の頭から煙が出て来た
「…あっ!」
『《!?》』
「そうだ…確か死者の血は毒になって聞いた事があるわ」
《…ん?生者の血は活力で死者の血は毒、と言う事か?》
「うん、確かそんな感じだったと思う…」
『ふーむ…ワーウルフの銀に比べると多い割にはあやふやな記述だな』
「とにかくウシャさんの所に行って聞いてくるね」
《間者達はどうする?》
「あー、じゃあ薬師の隣に(埋めて)おいて‼」
日向子は城下町の外れに工場を構えるウシャ爺の所に走って行った
「こんにちはー」
「おっ、ヒナちゃんか‼どうしたんじゃ?」
「ちょっと聞きたい事があるんだけど…」
。。。
「ふーむ、ニンニクとな?聞いた事はないのう…」
ウシャ爺は首を傾げる
「やっぱりないのかな?」
「それはどうじゃろ?同じ薬草でも地域や国によって呼び名が違う事もあるからの」
「そっか、じゃあ試しにウシャさんの手元にある薬草とかを調べても良い?」
「勿論じゃて、領主様」
「…やだぁ、ウシャさんまでからかうんだから…」
「ワハハハ、からかってはおらんよ。可愛い領主様でワシらは万々歳じゃよ」
二人は軽口を交わしながら薬草倉庫に向かって行く
。。。
「うわっ⁉これ…ニンニクと同じ匂いがするわ」
日向子は薬草の棚から草を取り出す
「おぉ、それは(ギョシャ)と言ってな、精力がつく薬草なんじゃよ」
(ギョシャって…行者にんにくの事かな?)
「このギョシャは育つ迄に7~8年掛かる希少な植物なんじゃよ」
(んー、完全に行者にんにくね…)
「えっと…もしバンパイアがニンニクの成分に弱いのなら…アリシンだっけ?この匂いの元は…これなら代用出来そう」
「ほぉ、ヒナちゃんの国でも成分を研究しとる学者がいるのか」
「あはは…そんな感じ。じゃあこのギョシャをありったけ下さい」
「うーむ…他ならぬヒナちゃんの頼みじゃ、全部持っていってくれ‼」
「ありがと、ウシャさん♪」
日向子はギョシャを篭一杯に詰め込んで城へと戻る
(えーっと…アリシンって確か…硫化アリルとかが正式な成分だっけな?記憶は曖昧だけど玉ねぎとかにも入っていた気がするな…)
日向子はこんな事ならもっとしっかりと学んでおくべきだったと後悔したが
良く考えたら死んで異世界に飛ばされるなどと言う非常識さがなければこの後悔は生まれなかった事を思い出し
バカらしくなって考えるのをやめたのだった




