15 先ずは…
ー翌日ー
「はーい、ご飯だよー♪」
「ウォンウォン♪」
日向子がエサを持って檻にやって来るとブルピット達は全力で尻尾をフリフリして出迎えた
「あ、こら!慌てないの!お座り‼」
「ウォン‼」
日向子の命令にブルピット達はサッとお座りをする
「待て‼」
「…」
「…良しっ‼」
「ウォン‼」ーガツガツ…ー
「…ホントにこれが魔物なんだんべか…?」
その様子を見ていた村人が思わず唸った
「あれじゃ普通の犬と変わんなかんべぇなぁ…」
尻尾を振りながらエサ箱に顔を突っ込んでいるブルピット達を見て呆れる村人も大勢いた
幾ら賛成したとは言え暴れれば脅威となる魔物を飼う事に不安があった村人達は皆で監視をしていたのだ
「ん?もう食べたの?あん、くすぐったいよぅ~☆」
「「「!?」」」
口を開いたブルピットが日向子の顔をペロペロ舐めている
村人は「喰われた‼」と思った者も少なくなかったらしい、舐めまくる日向子を見て呆然としている
「あ、そうそう!お前達にも名前を付けてあげなきゃね‼何が良いかなぁ~…」
日向子は首を傾げる
(魔物に名付け?)
村人の中には違和感が有りすぎて混乱する者もいた
「うーん…お前は「シロ」でいっか‼」
日向子はリーダー格のブルピットを撫でながらそう言った
(「シロ」って…)
村人の多くが犬に名付ける様に決定した日向子の神経を疑ったが誰も文句は言えなかった
「で、そっちは「クロ」でお前は「ポチ」、あなたは「ペス」ね」
(クロ?)(ポチ??)(ペスぅ???)
次々に名付けされるブルピット達よりもその名付けセンスを疑った村人達は思わず日向子を凝視する
「で、最後のお前は「田中」ね」
「た、「田中」ってぇっ‼」
今まで堪えていた村人が全員で突っ込んだ
「え?おかしい…ですか?」
日向子は目を潤ませて村人達を見つめる
「まっ‼全く…ヒナちゃんが良いならワシらは構わんよっ⁉」
日向子はどうやら天性の爺キラーの様だ
自然な行動で並み居る爺達をメロメロにしている
「…どうやら名前も付け終わった様だの?」
そこにゴメリがやって来た
「あ、ゴメリさん‼えへへ、皆とっても良い子なんですよ?」
そう言うと日向子はシロの頭を撫でた
「クゥ~ン」
シロが撫でられている様を見て他のブルピット達は恨めしげな声をあげる
「ワフッ‼」
俺が、俺こそがご主人様の一番のお気に入りなんだ!と言わんばかりにシロは腹を見せて更に撫でる様に要求する
「全くもう、シロは甘えん坊なんだからっ☆」
日向子はその大きな腹に飛び込んでワシャワシャと撫でる
「クッフゥ~⁉」
シロは予想外の快楽にヨダレを垂らして恍惚となっている
「…羨ましいのぅ…」
その場にいた村人達(男性陣)は出来ればシロになりたい!と思ったと言う
そんなこんなで飼う事になったブルピット達だが問題はまだあった
最大の問題は「エサの確保」だ
幸いブルピットは雑食だったらしく2、3日は村から出た残飯で何とかなっていたが流石に毎日となると供給が追い付かない
「うーん、どうしよう?」
悩む日向子にゴメリがこんな提案をする
「1日1回遠くに連れて行って放してやれば勝手に食って来るんでねぇか?」
「あ、それ良いかも?」
これで1日1回の「お散歩」(兼補食)ルールが決まったのだった
「じゃあシロ達、早速お散歩に行くよー‼」
日向子はシロの背に乗って他のブルピット達を誘導する
「「「「ワフンッ‼」」」」
日向子に続いて大人しく移動するブルピット達
まさかこの「お散歩」がいずれ村人達の日課になるとは夢にも思わない村人は呆れた様に日向子達を見送っていた
ーダダッ‼ダダッ‼ダダッ‼ー
「わぁ~、シロ速~い♪」
日向子の喜ぶ様を背中に感じたのか、シロは更に速度を上げる
ーダダダッ‼ダダダッ‼ー
「ん~、楽チン楽チン♪さて、何処で放そうかしら?」
日向子はシロ達の放牧(?)場所に頭を悩ませる
あまり近いと村人に恐怖心を与えるし遠いと帰りがキツくなる
そんな悩みを展開しているといつの間にか西の森に入っていた様だ
「…ここなら人はいないかな?」
そう言うと日向子はシロの背中からヒラリと降りる
「じゃあシロ、ご飯食べておいで。迷子になったら討伐されちゃうかも知れないから気をつけてね?」
「ワォン‼」「ワンッ‼」「ワフッ‼」
シロ達は元気に森の中を駆け抜けて行った
「あ、この合間の私は何をして待っていたら良いのか考えてなかった…」
深い森の中、ポツンと置いていかれた日向子はシロ達の帰りを待つ間の時間をどう消化するかを悩んでいた
ー1時間後ー
「ワフッ‼」「ワンッ‼」
ハッハッと軽く息を切らしてシロ達が戻って来ると日向子は小脇に草が山盛りに入った籠を枕に寝息を立てていた
「クゥン?」
シロが日向子の顔を舐めて起こしても疲れているのか全く起きる気配がない
「ワフッ‼」
仕方がないな、と言わんばかりにシロは日向子を咥えるとトコトコと歩き出した
日向子が集めたであろう草の籠は田中が咥え持っている
ー村の火の見櫓ー
「お、おい‼ヒナちゃんがブルピットに咥えられてこっちに来るぞっ⁉」
「何だとっ⁉やはり魔物、ヒナちゃんを襲ったのか⁉」
「…いや、どうも様子がおかしいぞ?」
トコトコトコトコ…ポテッ。
「ヒ、ヒナちゃんどうしたっ⁉」
「…クー…クー…」
「んっ⁉」
「これは…寝とるんじゃなかんべか?」
「。。。」
日向子を待ち受けた村人の前に降ろしお座りの姿勢で待つシロ達を村人は不憫な眼差しで見ていた
「…おい、ヒナちゃん、起きろ‼」
「…うーん…もうお腹一杯だよぅ」
「何寝惚けてんだ?ほれ、起きろっ‼」
「イタタ…あ、ゴメリさん⁉」
「…全く…油断するにも程があるだべ‼」
「えっ?…森の中じゃ…?」
「シロ達が運んでくれたみたいだべ」
「…えへへ、ありがと。シロ」
「クゥン…」
こうして初散歩は日向子のドジっ子オチで無事終了したのだった




