148 ゴルド領主、日向子様爆誕!
日向子の訓練?はともかくゴルド王国の復興は少しずつだが進められていた
シジル達が王城に到着してから数日後、ハク達ユニコーンに牽かれエレモス国王が視察の為にゴルド城へ訪れた
残留を希望した住民達はこのままエレモス領地になるのを恐れたが暫定的に直轄地とし復興次第でゴルド領は独立させる旨を宣言した事で安心した様だ
そもそも生存者が200人足らず、内過半数がエレモス領に転居してしまったので数十人にも満たない残留組が領地を守れるか?
という疑問は残るがやはり他国に編入されるのは抵抗があるのだろう
一応エレモス国王は周辺地域の調査を事前に行ったがさして肥沃でもなく鉱物資源も乏しいゴルド領地を狙う勢力はいない事を確認していた
「我々はあくまで支援を行うのであって征服の意図はない。
が、暫定的にでも領主を置く必要性はあるのはゴルド国民も承知だと思う」
国王はこう前置きをしてから本題を切り出した
「我々エレモス領の軍等が支配権を得れば先の宣言を覆す事にもなるだろう
そこで皆を救った日向子にこのゴルドの地を護って貰おうと思うが如何に?」
残留組は少しざわめいたが予想以上にすんなり提案を受け入れた
何せ日向子は生存者にとって命の恩人でもあり救国の勇者でもあるのだ
武力としても文句無し、しかも美人とくれば大歓迎であった
「こ、国王‼日向子様には打診はしてあるのですか?」
心配性のシジルは国王に問うが笑いながら否定された
「日向子であれば頼み事は断らん。万事任せておくが良いぞ」
(えぇ?アポ無しかよ…)
シジルは国王の背後で呆れ顔をしていた
ーゴルド城内ー
「…と言う訳で日向子には此処ゴルド領を暫く任せたいのだ」
国王は何の前置きもなく唐突に日向子に依頼した
「…何が「と言う訳」なのよ…王様」
日向子はやはり国王の言葉に呆れている
「だがな、この地に残る民達はゴルドの民だ。我々エレモス領の人間が統治すれば良い気分はしないだろう?」
(あ、もしかして情に訴えるつもりだったのか?)
横で聞いていたシジルは漸く国王の戦略を理解した
日向子と言えば困った者の為に危険をおかしても助ける性分なのは誰でも知っている
損得勘定を引き合いに出せば辞退される可能性もあるが生存者達の望みとなれば引き受ける可能性の方が高いと踏んだのだ
「日向子よ、ゴルドの民はお主の領主就任を容認しておる。これは我の望みではなく民の願いなのだ。
頼む、ゴルドの民の為にこの地を暫くの間護ってやってくれぬか?」
国王は日向子に頭を下げる
「…全く…王様、頭を上げて下さいね。分かりましたよ、ゴルド国内が安定する迄の間だけですからね?」
(えっ?成功しちゃったよ?)
シジルは開いた口が塞がらなかった
「別に王様の泣き落としに引っ掛かった訳じゃないですよ?
このまま私達が引けばこの騒ぎを引き起こした真犯人達がどう動くか分からないからですからね?」
「おぉ、どんな理由でも引き受けてくれるのは有難い‼では早速エレモスに帰り正式な依頼状とそれなりの地位を与える算段をつけなくてはな!」
そう言うと国王はいそいそとハク達の馬車に乗り込みサッサと帰国してしまった
《こんな帰り方をされると騙された感が半端ないな…》
キメは国王達の態度に不信感を抱いている
「うーん、でも此処は誰が統治しても不満は出るでしょ?私みたいな一般人が上に立てばそう言う不満は少ないんじゃないかな?」
確かに本当の統治をする様な人間が此処に就任すれば住民達も不満は募るだろう
何せ此処はゴルド領であってエレモス領の方針を押し付けられては困る人間は多いのだ
「だから私は復興の手伝いはするけど統治はしないわよ?そもそもやり方分からないしね」
日向子は大役を引き受けてもあっけらかんとしている
『主殿、本当の所をキメには伝えた方が良いのではないか?』
シルグは日向子の考えている事をきちんと把握していた
「そうね、家族には隠し事は無しにしましょ。
私はバンパイア達から住民達を守りたいから引き受けたのそれ以上でもそれ以下でもないわ」
《…なるほどな…でも本職の神獣運輸の方はどうするのだ?》
「あはは、最近は私が居なくても回ってるじゃない?任せても大丈夫よ」
そう、最近の神獣運輸は討伐依頼をゴメリとリースが、運送業をテロンが管理して従業員達がそつなくこなしているのだ
「だから私達は暫くこのゴルドで住民達を守りつつお手伝いしましょ」
キメとシジルは日向子の言葉に大きく頷いたのであった
国王が帰国してから1週間後、国王よりゴルド領主就任の任命書が到着した
シジル達はこれを以てエレモスに帰還する事となる
日向子の領主としての初仕事は残った住民達の前で領主の宣言をする事だった
「皆さん、新しく領主になりました日向子です。色々至らない部分もあると思いますが宜しくお願いします!」
領主らしくないスピーチだったが住民達は日向子新領主を温かく迎えた
「領主様ー、増税はしないでくれよー!」
誰かの冗談にその場の全員が笑って領主任命式は終わったのである




