139 ゴルド王国の滅亡 part26
ブゥゥ~ン…
山脈の障壁近くに展開しているシジル率いる護衛兵の下に一匹の蜂が飛んで来た
『…ふむ、ふむ、なるほど。』
蜂はシルグの肩にとまり何事かを伝えている様だ
「シルグ殿?何を…ってソレはキラービーじゃ⁉」
シジルは慌てて蜂を叩き落とそうとするがシルグはそれを制した
『これはキメの放った連絡用の蜂だ。慌てるでない』
「そ、そうだったんですか?すいません…」
『む。分かった、ではその様に動かすので委細承知と伝えてくれ』
…ブゥゥ~ン…
「…で、日向子様は何と?」
『既に城の周辺にあった村々や町は掃討が済んだそうだ。
外側から徐々に城に向けて掃討していくので我々も進んでも構わぬそうだぞ』
「そうですか。では全軍…」
『待て。此処には生存者や罪人、証拠等が集まっているのだ。
万が一を考え少数で斥候班を出すのが定石ではないのか?』
「あ…そうでした…すいません…」
『とにかく主殿が安全宣言をしているのだ、敵の心配よりも復興をメインに据えた斥候部隊の方が良いだろうな』
「ですね‼では早速測量や建築が得意な部隊を編成して派遣します‼」
『うむ、残留部隊も2手に分けて一方は罪人輸送に、一方は生存者の希望を募って帰宅させる部隊に分けておくと良いかもな』
「…なるほど、では早速」
シジルはてきぱきと部隊編成を終え罪人輸送の部隊と斥候部隊を送り出した
ヤンバ王達はいずれにせよ謎の薬師は最重要人物なのでシルグは手元で厳重に監視する事にした
。。。
「小隊長…これをあんな数で片付けたんですかね?」
斥候部隊が最寄りの村を発見し警戒しながら踏み入ると衝撃的な光景が広がっていた
恐らくゾンビだったのであろう、遺体が山に積まれた状態で幾つも点在していた
「…1つの村でこれだけの数だ、城下町では更に凄惨な光景になるだろうな…」
斥候部隊の小隊長は目の前の光景に愕然としていたのだった
「小隊長、この村の建造物被害は殆どありません。一部外壁が焦げた跡がある程度です」
隊員が村の中を細かく検分して報告する
「良し、では次の村に移動だ。一応検分済みのマーキングを施しておけよ」
「はっ‼」
隊員は村の目立つ場所に白旗を掲げた
そして斥候部隊は次の村へと移動するのであった
。。。
「私達は住んでいた場所に帰りたいです」
「俺は…もう家族を失っちまった…思い出すから別天地で新たに始めたい…」
「家族を弔ってからでないと…」
障壁の近くで待機しているシジル本隊は生存者に聞き取り調査を行い残留希望者と離脱希望者に分けていた
「エレモス国王からの伝達です、もし我が領内に移る者があるならば被災支援として最低限の衣食住は保証する、との事です」
「おぉ‼それは有り難い、戻っても流通機関も全滅しているだろうから俺はエレモスに移る事にするぞ」
「そ、そうか‼ゴルドに残っても食料も何もないのか…ソコは考えてなかったな…」
生存者の中に動揺と絶望が広がっていく
「これは私の独断ですが残留を希望される方々には一定期間ではありますが支援物資を提供します。
ただエレモス領内に来られる方々よりは質も量も落ちるとは思いますがご了承の上ご決断下さい」
シジルは生存者達の心情を思い暫定的な救済案を提示した
これにより約3分の1はゴルドに戻る事になったのである
「シジルさん、ちょっと良いかの?」
今後の対策を練っているシジルに1人の老人が疑問を呈してきた
「はい、何でしょうか?」
「ゴルドは王も人もいなくなってしまったじゃろ?今後誰がゴルドを復興させるのかのう?」
老人は至極当然の不安をシジルに訊いてきたのだ
「…国家間の思惑は分かりかねますが…恐らく暫くはエレモス国により支援が行われると思います。
その後は憶測ですが復興に合わせて暫定政権なりを発足して我々の手から離れるとは思いますよ」
こればかりは一兵卒であるシジルには明確な答えは出せない
老人もそれを分かっていて訊いているのだ
「では…エレモス以外の他国の侵略があったら…誰がワシ等を守ってくれるのじゃろう?」
つまり老人が聞きたかったのはココなのだ
国が無くなれば領地問題は必ずや発生し、利得を狙う他国が奪い合う事も珍しくはないのだ
『うーむ…王が罪人になってしまった以上王家の復興はないだろうな…』
シルグは自身の意見を挟んで考察を伝える
『恐らくだが今回の一件はゴルドより北のバンパイア一族が絡んでおる。
なればこの結果は失敗とは言えぬからな…王が消え国民が絶えれば残るは広大な土地な訳だ』
「!?そうか!バンパイア達はゴルドの肥沃な土地を狙って…」
『だろうな、本来はゾンビやバンパイアの屑を増やして使役するつもりではなかったのだろうか?』
「…成る程…生者は邪魔な存在だから…ってバンパイアは血を主食にしてるんじゃないんですか?」
シジルは思わずツッコんだ
『…何処の書物で知ったのだ?確かに生者の血は飲むが実際は一種の嗜好品程度だぞ?』
「…えっ?じゃあ…」
『人間で言うと酒と同じ程度だな、普段は生食は多いものの人間と代わりないと聞いているぞ』
「…そうだったんですか…知らなかったな…」
シルグ達は予測を議論していたが本当の所は今後の調査を待つしかなかったのである
出掛けますのでこの辺で




