132 ゴルド王国の滅亡 part19
「こ、国王!このままでは我々も!早く脱出を!」
脱力し過ぎて呆けていたヤンバは親衛隊隊長の声に正気に戻る
「よ、よし!地下通路を使い一時城を離れようぞ!」
何も持てずヤンバら数十人の側近達は王族のみが知る秘密の通路を使って脱出する
「はぁっ‼はぁっ‼ま、待て、こ、ここで休む‼」
ヤンバは無理矢理着せられた重装備の鎧に根を上げて座り込む
「…も、もう嫌だぁっ‼俺は逃げる‼」
「待てっ!逃亡は一族郎党根絶やしの重罪だぞ!」
「もう手遅れに決まってるだろ!家族なんか死んでる!」
親衛隊の隊員がこう叫び脱走した事で数名が釣られて逃亡して行った
「…!?まさか…貴様達も?」
ヤンバは信じられないと言う表情で他を見やるが数名は目が泳いでいた
「国王、我々は側近中の側近。お側を離れる事は御座いません」
親衛隊隊長の強い言葉にヤンバはホッとする
…ぎぃやぁぁぁぁっ‼助け…!
通路の遥か先で先程逃亡した裏切り者達の悲鳴が響き渡る
「こ、今度は何だ!この通路は王家のみぞ知る秘中の祕だぞ?侵入者なぞあり得ん!」
ヤンバの叫びは通路に虚しく響くだけだった
休憩もそこそこに先を急いだヤンバ達が見たモノは…血溜まりのみであった
「…一体何があった?」
親衛隊隊長が首を傾げる
…パチャッ…
「?」
ザバァッ‼バクンッ!
「ぎゃあっ!」
脇を流れる水路から突然何かが飛び出し側近の足元に噛み付いた
「あ、あれはテイマーの使い魔か!」
テイマー達が使役していた魔物や獰猛な生物達
これらがテイマーの死によってあらゆる場所で猛威を奮っていたのだ
「…ひ…ひぃぃぃぃ…ももも、もう嫌だぁぁぁ…」
腰が抜けて不様に這って逃げようとする宰相を頭から飲み込む大蛇、
それを見た半分以上の側近達がヤンバを置いて散り散りに逃げ出した
「ま、待て!」
親衛隊隊長の声も届かず逃亡者は先へ走って行く
もしかしたら、と戻る者もいたが程なく断末魔が聞こえた
「国王!先を急ぎましょう!」
「わ、分かった…隊長だけが頼りだぞ」
「…分かっております」
こうして再び歩き出し出口である教会に辿り着いたヤンバ達に更なる追い討ちがかかる
教会内が既にゾンビ達に襲撃され全く安全ではなかったのである
「国王!」
「こ、こっちだ!更に通路が!」
ヤンバは教壇の後ろにある新たな避難路を教え像の足を捻る
「よし、脱出再開だ!」
隊長の激で残った数名の側近とヤンバは再び地下通路へと進んだのである
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「それで…貴さ、貴方がいらっしゃって…」
「…ふぅ~、聞くだけでも悲惨な末路だったわね。長いし」
ヤンバは途中で感情的になったのか語り口調に臨場感を加えて説明し出した為余計に長引いたのであった
《…なかなか聞き応えがあった見事な転落劇だったな》
キメは珍しく茶化して感想を述べてヤンバの怒りを煽る
「…おのれ…下郎風情が…きゅっ!?」
キメの言動に呪詛を綴ろうとしたヤンバは奇声を発して仰け反った
「えっ⁉何?」
日向子はヤンバの奇行にビックリする
《聞くに耐えない、気絶させた》
「なぁんだ、先に言ってよね」
日向子は一番の戦犯であり証人の無事を聞いて一安心する
《それでこれからどうする?》
「んー、面倒だけど一旦この人達を連れてシジルさんの所に引き渡した方が良さそうね
連れたまま討伐とか無理だし隠す場所も分からないしね」
日向子とキメはヤンバ達を縄で縛り上げ一旦引き返す事にした
「ぐ…く、苦しい…」
「仕方ないでしょ?我慢しなさい!」
日向子は担ぎ易くする為にヤンバ達を6人纏めてぐるぐる巻きにした
キメに至っては尻尾の毒蛇を使って10名をぐるぐる巻きにして背に担いでいる
「ちょっと急ぐから余計な動きしないでね。落ちたら拾わないわよ?」
日向子は念を押してキメと一緒に走り出す
ダダダッ‼ダッ、ダッ、ダダンッ‼
「ままままま、待て…」
6人もの甲冑姿の男性を担いだまま風の如く走る日向子にヤンバは慌てて制止しようとするが日向子は気にせず走る
「ひゃあぁぁぁぁーっ⁉」
教会まで戻り外に飛び出した日向子とキメはゾンビやバンパイア、魔物の上を屋根づたいに飛び越えあっと言う間に城下町を駆け抜けた
「…総勢7万とか言ってたわよね?お掃除が大変そうだなぁ…」
日向子は追い付こうとして頑張るゾンビ達を見てうんざりした顔をする
((((お、お掃除って…))))
日向子の言葉にヤンバ達は驚愕し過ぎて何も言えなくなっていたのである
。。。
「隊長!城方向から何かが接近して来ます!」
「何⁉全軍迎撃体制…ひ、日向子様か???」
何者かの急襲に迎撃体制を指示しようとしたシジルは大荷物を抱えた日向子とキメに気付いて命令を撤回する
「待てっ!あれは日向子様だ!」
「「「「…えっ???」」」」
エレモス領護衛兵達は日向子達の姿を見て衝撃を受ける
最初魔物かと見間違ったモノは人間をぐるぐる巻きにした「束」だったのだ




