130 ゴルド王国の滅亡 part17
日向子達は狂った思想を恥ずかし気もなく宣言するヤンバ国王と対峙していた
「えーっと…国王さんが此処に健在って事は軍も健在なのかな?」
「礼儀も弁えぬ下衆に答える口は持っておらぬ!跪き赦しを乞え!愚か者めが!」
《…主、話すだけムダだと思うぞ?》
「…ええそうね」
…スッ、ゴキャアッ!
「ゲブッ⁉」
対話は無理と判断した日向子は男の目の前から掻き消え
次の瞬間重装備の甲冑ごと国王の腹を殴り付けた
ガシャッ…
「ぐ、ぐおぉぉ…お、おのれ⁉オリハルコン製の我が鎧を貫く程の力を持つとは…」
国王ヤンバは両手を地面につき嘔吐しながら日向子を睨み付ける
「オリハルコン⁉あるんだ?」
日向子は日向子で聞き慣れてはいるが存在もしない金属がこの世界にある事にビックリしている
「あー、なるほどね。他の人は安っぽい鎧だから倒れたけど貴方は良いヤツ着てるから大丈夫だった、と」
日向子が腕をぐるんぐるん回しながらヤンバに近付く
「ま、待てっ‼それ以上近付くな‼近付けばっ⁉ギャハァッ‼」
正直日向子にはヤンバ達を許す気持ちは微塵もない
住民を犠牲にしたからとか言う大義名分もあるがそれ以上にこんな屑に振り回され
時には守るべき住民達に非難を浴びたりしたのだ
この期に及んで上から目線の言葉遣いをするヤンバの頬を死なない程度に張って黙らせると日向子は尋問を始めた
「…で?結局何がしたくてどうしてこんな結果になってるの?」
…スッ…メリメリメリメリ
「ギャッ⁉ゆ、指を‼その指をどけてくれぇっ!」
日向子の人差し指がヤンバのこめかみに添えられ嫌な音を立ててめり込んでいく
「ちゃんと正直に話してくれればね。あ、嘘つくとこのキメちゃんにバレるからね?」
日向子は脅しのつもりでキメを使ったがどうやら本当に嘘発見器の様な芸当が出来るらしく
キメは額から触手の様なモノを出してヤンバの額にくっ付けた
「えっ⁉本当に出来るの?」
「知らなかったのか⁉卑怯者!」
《…今コイツの脳に侵入した。嘘もつけないし意のままにする事も出来るぞ》
「「。。。」」
(脳に、って…)
日向子もヤンバもその言葉に思考が一時停止してしまった
「…う…うあぁぁぁっ⁉」
「…キメちゃん…ちょっとやり過ぎじゃ…」
流石の日向子もかなり引いている
《人間は都合が悪いと嘘をつく生き物だからな、これでも足りない位だと思うぞ?》
「な、何でも話す!話すからこの化け物から解放してくれっ!」
ヤンバの股間から湯気が立ち始め顔を恐怖でぐちゃぐちゃにしながら懇願している
《なら主の質問に包み隠さず答える事だ》
日向子は既に数歩下がっていたが気合いを入れ直して問い質す
「じゃあ…最初から話してくれるかな?」
「わ、分かった‼…あれは五年程前だったか…」
ヤンバの話は長かったので要約するとこんな経緯だったらしい
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2年程前、エレモスに進軍すべく兵力を増強している最中1人の男がヤンバに謁見を求めてやって来た
その男の話だと兵達を不死にする秘薬がありそれを是非ヤンバに買って欲しいとの事だった
それを聞いていた宰相や側近はヤンバに危険性を訴えたが「不死の軍隊」という言葉に痺れたヤンバは強行採決をした
とは言えいきなり全兵に投与する程愚かではなかったらしく昇格と昇給を餌に希望兵を募り試験的に投与したそうだ
最初に投与されたのは10名、その内3人が拒絶反応を起こしたのかその場で死亡した
だが残りの7名の変化は犠牲を払っても尚魅力的なパワーアップを果たしたのだ
人間を遥かに凌駕する筋力、負傷しても行動不能にならない限り前進する闘争心、
何よりも命令に対して絶対服従する従順さを備えた「ゾンビ」となったのだ
結果に満足したヤンバは男が持っていた全ての秘薬を高値で買い取り側近達の猛反対を押し退けて兵に投与を命じた
男が持っていた秘薬では全兵の3分の1以下しか行き渡らなかった為第一陣として精鋭達を選抜して強制的に投与する
即座に出来上がる不死の軍隊に最初ヤンバは諸手を挙げて喜んだ
不死の軍隊、金に糸目をつけずにかき集めたテイマー達が操る獰猛な生物集団
これらを率いれば他国を意のままに蹂躙する事など容易いと考えたのだ
勿論反対していた側近達は王の暴走を指を咥えて見ていた訳ではない
秘薬の成分を分析し副作用を観察し操り人形と化した兵達を元に戻す方法を模索した
異変は数ヶ月後に起こった
投与され不死になった筈の兵が次々に「崩壊」したのだ
この事態にヤンバは軍の研究者に原因の追求を命じ判明したのは
『不死兵には普通の食事ではなく「生きた細胞」の摂取が必要不可欠だ』という結果だった
それならば、とヤンバは家畜を強制的に接収し与えていたがとても供給が追い付かない
その内に日和った側近の1人が
「罪人の処刑と称して与えてはどうか?」
とヤンバに提言した為ここからは鬼畜の諸行が更に加速する事になったのである




