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ゾンビーナ!  作者: とれさん
13/378

13 初の団体戦


ーダンッ‼ダダダッ‼ー


日向子は今全力で西の山に向かっている


(今度の魔物はどんなのが相手なのかな…強くなきゃ良いなぁ…)


初見の魔物なら恐れを抱くのは当然の事である

女性であれば尚更だろう


「あ!あれだっ‼」


広範囲を見る為に空中に跳んでいた日向子の眼下に黒い集団が木々の間をすり抜けて行くのが見えた


「…凄い数…倒せるかな…」


空を飛べる訳ではないのでその総数を確認するには至らなかったが 4、50頭はいそうだった


日向子は跳ぶのを止め魔物の進行方向を塞ぐ形で先を急いだ


「ガルルルル…」


日向子の存在を察知した魔物達は疾走を止め取り囲む様に散開して日向子を待ち受けていた


(…何よぅ…組織立って行動しないって言ってたじゃない…)


日向子はゴメリの説明に文句を言おうとしているがそれは日向子の「勘違い」である。

ゴメリは「ゾンビやスケルトン」の説明で言ったまでで他の魔物では団体行動をしないとは言っていないのだ


「ガルルッ‼」「ワォンッ‼」


今日向子を取り囲んでいるのは犬型の魔物、ブルピットだった

筋肉質な体躯を持ち大きさは普通の大型犬の2倍強はありそうだ


ーブブンッ‼ジャコッ‼ジャコッ‼ー


日向子は両手の手甲剣をスライドさせる


「こうなりゃ当たって砕けろよっ‼」


…砕けて貰ってはこの先の物語も終わりなのだが戦略を持たない日向子に出来る事はその位だった


ーダダンッ‼ドシュッ、ドシュッ‼ー


「ギャワンッ‼」「ギャウッ‼」


ブルピットが集団で襲ってくる前に日向子は先制攻撃を仕掛けた


水平方向に跳んだ日向子は即座に5、6 頭のブルピットを手甲剣で屠る


その攻撃に怯んだ数頭を凪ぎ払い更に横に跳ぶ


「ギャン‼」「ギッ⁉」


初撃と二撃目を受けたブルピットは何をされたのか分からぬまま死んだであろう

日向子の剣撃の速度は魔物でも追いきれない程なのだ


「‼ウォーンッ‼」「ワウッ‼」


一回り大きい体躯のブルピットが短い遠吠えを発すると急に魔物達の動きが変わった

おそらくあのブルピットがリーダーなのだろう


リーダーの指示を受け他のブルピット達は日向子の死角から攻撃しては逃げる「ヒット&アウェイ」にシフトした


幾ら膂力が強い日向子でも全ての攻撃を防ぐのは至難の技だ


組織立って攻撃してくるブルピットの輪の中で日向子は酷く狼狽していた


(何よぅ…攻撃が当たらないじゃないの…)


ブルピット達がヒット&アウェイに攻撃方法を変えた事で日向子の攻撃が当たらなくなって来ていた


日向子の動きに合わせて攻撃されそうな側は撤退を、背後のブルピットは追って死角を攻撃する


野生動物、特に肉食系の動物にも見られる「集団行動」である


日向子は今、ハイエナに囲まれた水牛の様にじわじわと体力を削られていたのだ


ードンッ‼スカッ⁉ー


「あーん、もうっ‼全然当たらない‼…あっ⁉」


とうとう両者の均衡が崩れた


背後から攻撃したブルピットの爪が日向子の背中を捉えたのである


「痛っ⁉って痛くなかった☆」


日向子はゾンビ(多分)である。多少の攻撃では痛みは感じない

感じないが損傷すれば行動不能に陥る危険性はある


ーグゴゴゴゴ…ー


「ギャンッ⁉」


ブルピット達は日向子から立ち上がるどす黒い波動に怯えた


「…嫁入り前の乙女の肌に何傷つけてんのよっ‼…許さない…許さないんだからぁっ‼」


ー…ブンッ‼ー


「!?」「「「ギャン‼」」」


ブルピット達の前から日向子の姿が消失した


ーダンッ‼バサッ‼ダンッ‼ー


地面が爆ぜる度に数頭のブルピットが凪ぎ払われていく


「ワォンッ⁉」


リーダー格のブルピットがその事実に気付いた時には既に十数頭しか残っていなかった


日向子は消えた訳ではない


ただ「魔物が追いきれないスピードで」移動して剣を振るっていただけだったのだ


ただそのスピードが尋常ではなかった

跳んでは刺し跳んでは斬る

残像すら残さない日向子の戦闘速度はリーダー格のブルピットに恐怖を植え付けた


「ウゥ…ウォン‼」


リーダー格は残ったブルピット達に降伏の命令を下した


「…クゥン」「キャン…」


「えっ⁉」


日向子は驚いた


残り数頭となったブルピット達が突然日向子に服従の姿勢を見せたのだ


尻尾を下げ伏せるブルピット、中には腹を見せて完全服従の姿勢を取るブルピットもいる


「え?…ど、どうしよう?」


日向子は大の動物好きだった


襲い掛かる魔物として認識していたブルピット達の突然の恭順に日向子の思考は固まっていたのだ


ードタドタ…「おぅーい!」ー


その時漸くゴメリが現地に到着した


「…な、何だこりゃあ…」


ゴメリは辺りに飛び散った元ブルピットの肉塊を見て愕然とする


「…ゴメリさぁん…どうしよう?」


肉塊の中心で返り血を浴びて困惑している日向子を見つけてゴメリは駆け寄る


「どうしたっ⁉怪我かっ⁉」


「…そうじゃなくてコレぇ…」


ゴメリが指差す先を見ると…腹を見せて撫でて欲しそうなブルピット達が転がっていた


「!?」


ゴメリも固まった


彼の長い討伐戦歴の中にも魔物が服従の態度を見せた事など一度もなかったのだった


「…触っても良い?」


日向子の手が触りたくてワキワキしている


「…どうぞ」


ーサワッ…ナデナデ…ー


「クゥン…」


「きゃあ‼可愛いっ☆」


日向子は最初こそ恐る恐るだったが触っても危険がない事が分かると全力で撫で始めた


ブルピットも生まれて初めてのナデナデ体験に快楽を貪っている


「…飼っちゃダメ?」


「…うーーーーーーーーーん…」


ゴメリはそう来たか、と悩んだ


本来討伐した魔物は倒した者に権利がある


だが未だかつて魔物を恭順させた例はないのだ


犬猫を飼うのとは訳が違う、いや、違うのか?


犬猫ですら時には飼い主や人に牙を剥く事もある


ゴメリは小一時間程その場で悩み条件を付けて了承したのだった

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