126 ゴルド王国の滅亡 part13
日向子達と遭遇したシジル率いるエレモス国護衛兵はゴルド王国の状況を日向子から聞いていた
しかし日向子が連れてきた生存者の余りの少なさに未だに理解が追い付いていなかったのである
「…確かゴルド王国は一万人程の国力と聞いておりましたが…」
「全体を把握した訳ではありませんが此処からゴルド迄の道のりの村々は全滅、
城下町でやっとポルカさん達を救出出来ただけです」
「…そうですか…で、これからどうするのですか?」
「私達はもう一度ゴルドに戻って状況把握に努めます。申し訳ありませんがポルカさん達をお願い出来ますか?」
「それは構いませんが…我々も討伐に加わった方が良いのではないですか?」
「それは…私達に任せて下さい。敵を増やしたくないので…」
日向子の言葉にシジルは全てを悟った
「情報によると住民がゾンビとバンパイアに変態し、襲っているとありましたが…事実だったんですね?」
「はい、ポルカさん達もご自分の既知の方々を殺さなければならない状況でした」
「…分かりました。小隊を護衛につけ住民達をエレモス領に送り届けます。
我々は此所で待機しておりますので状況が分かり次第戻ってきて貰えますか?」
「はい、それでお願いします」
救援派遣の命を受けた軍としては失格だが日向子の言葉からすると例え遠征しても全滅する可能性が高い事が予想されるのだ
国益を得られない派遣で一軍を失うのは国としては容認出来ない問題なのだ
「これがゴルド王国からの救援要請であれば無理をしてでも向かう必要があるのですがね…」
シジル達は軍人であり私情より命令を遵守する
人道的には何を置いても救援を優先するが軍としては兵の損失や命令との兼ね合いもあるのだ
「シジルさん達の立場は分かりますよ、だから気にせず私達に任せておいて下さい」
日向子はシジルの気持ちを察してそれ以上は聞かなかった
「…すいません」
「いえいえ、あ、それよりも万が一ゾンビ化した時の対応なんですが…」
日向子は城下町で気付いた感染者の対処法等をシジルに伝える
「分かりました。怪我人はとにかく一時隔離、感染が分かった段階で処理ですね?」
「えぇ、今の所治療法も分かりませんからね…被害を最小限に抑えないとゴルド王国の二の舞になります」
「…了解しました。ではお気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
日向子とキメはシジルにポルカ達を預けて再びゴルド王国の城下町へと向かった
バサッ、バサッ、バサッ、
「うーん…やっぱり他に生存者は見当たらないわね」
日向子は眼下の村や町を見回して生存者がいないか確認しながら城下町に近付いていた
《俺の能力でも生体反応はないな…それにしても異常だと思わないか?》
「え?何が?」
《これだけ広範囲にゾンビやバンパイアが蔓延しているのに軍が出た様子がまるでないんだ》
「…そう言われればそうね、普通なら初期段階で国が何らかの対策をする筈なのに…」
《そこから考えられるのは2つ、1つは対処する間もなく広まってしまったか或いは…》
「或いは?」
《国が関与しての結果だと言う事だ》
日向子はキメの推理に渋い顔をした
「国がこの状況を意図的に作ったとは考えられないけど…事故とかの結果なら考えられるかもね」
確かゴルド王国は軍事国家だと聞いた
軍としては不死の軍隊を持てばそれこそ世界征服も可能かも知れない
誰もやろうとしないのはゾンビやバンパイア等のアンデッドをコントロールする術もなく
軍隊としての人員の確保には生者を生け贄にしなくてはならないという高いリスクが伴うからだ
だが…
国家か軍部が主導してプロジェクトとして推し進めるのであれば…
そう考えると日向子は首を横に振った
「まさかそんなバカな事考えないでしょ、普通」
《…だと良いがな…》
キメは嫌な予感を拭いきる事が出来なかった
バサッ、バサッ、
日向子達は王城上空に辿り着いた
「…やっぱりおかしいわね…城内に誰もいない…」
本来であれば例え上空からの接近でも見張りの兵が察知して警告するなり攻撃する筈である
だが今日向子達は城の上空を周回しても誰1人出て来ないのだ
《主よ、あの中庭に降りるぞ》
「うん、気をつけてね」
キメはゆっくりと中庭に降り立つ
「…誰も出て来ないわね…」
城内の中庭に無断で降りたにも関わらず人っ子1人いない
「キメちゃん、反応は?」
《周辺どころか建物の中も気配を感じられない》
「…そう」
日向子は手甲剣を伸ばし戦闘態勢になりながら城の中へと歩き出した
中庭から城内に入るとそこは恐らく謁見の間への廊下なのだろう、
歴代の王の肖像画や彫刻等の調度品が並べられていた
「丁度良かったわ、とりあえず謁見の間の方に行ってみましょう」
兵達がいないのもおかしいが王の護衛も文官も侍従さえもいないのだ
日向子達は恐らく謁見の間に繋がっているであろう豪奢な扉を押し開けた




