124 ゴルド王国の滅亡 part11
…ギィィ、ギャァッ‼
ゴトゴト…ゴトゴト…
日向子達は真上から聞こえるバンパイア達の声に怯えながら出口を目指す
「…キメちゃん、大丈夫?」
日向子はキメの心を案じて声を掛けた
《主よ、俺は主は大好きだ。神獣運輸の仲間達もな。でもこの人間達は好きじゃない》
キメは己の弱さを笠に着る人間を嫌悪しているのだ
…ギュッ
日向子はキメを抱きしめた
《!?あ、主⁉一体何を⁉》
日向子はキメを抱きしめながらこう説いた
「嫌だろうけど今回だけは私を手伝ってね、ごめんね」
キメはこの言葉に稲妻に打たれた様な衝撃を受けた
身勝手な事をする人間達を嫌悪した自分もまた身勝手な感情を日向子にぶつけていたのだ
主である日向子に更に負担を掛けるなど忠誠を誓った者がする行為ではない、それは反逆に等しいのだ
キメは日向子をギュッと抱きしめ返した
「!!」
住民達は二人の関係が(そういう)モノなのか?
と誤解したが同時に人目も憚らず抱き合うという行為に現在の劣勢がどんな状態なのかを気付かされた
まぁ勘違いでも気を引き締めてくれる事は喜ばしい事だった
…ギギッ‼ギギッ‼
出口まであと少しという所でバンパイア達は避難路に侵入したらしく声がどんどん近付いてきていた
「じゃあ皆さん、これからが正念場です‼気合いを入れて自衛して下さいね‼」
そう言うとキメを連れて出口の方へ駆け出して行った
…ズバンッ‼ゴウゥッ‼
ギャァァァァッ‼
避難路の先では打撃音やバンパイア達の悲鳴が響いている
「お、おい、どうする?」
「とにかく少しずつ前に進もう」
住民達は恐る恐る出口へと進んでいく
ギギャッ‼
「!?」
「きゃあっ⁉」
「し、しまった‼背後から襲撃されたぞ‼」
バンパイア達は途中の塞がれた入り口を掘り進め避難路に侵入してきていたらしく
隊列の後続にいる怪我人達を襲い始めていた
「け、怪我人達を守るんだ‼」
ポルカ達は武器を手にバンパイアに立ち向かった
「お、お前は…ハイリか?」
怪我人を襲い血を啜るバンパイアにポルカは見覚えがあった
奇しくも襲われ血を啜られている女性の実の弟だった
「止めろ!実の姉だぞ‼分からんのか⁉」
…ジュルジュル…ギィィ…
ハイリは実の姉であった人間の血を啜りながらポルカ達を威嚇する
「…そうか、もう人の心は…」
ポルカ達は血の魅力に負け警戒が薄れたハイリの胸を槍で貫いた
‼…ギィィ…
血を吹き出しみるみる枯れていくハイリの姿を見てポルカ達は複雑な心境になっていた
「…皆、バンパイア共を駆逐して生き残るぞ!」
「「「おお~っ‼」」」
これからの戦いは自らの生を勝ち取る戦いだと言う事を改めて決意した瞬間だった
「キメちゃん、右側をお願い‼」
日向子達はバンパイアを駆逐しながら進み出口から飛び出した
そこに待ち受けていたのは千をゆうに越える元住民の成れの果てだったのだ
キメに右翼を任せ日向子は地面に転がっている石を拾い手で握りしめ砕く
…ビシュッ‼…ギャッ⁉
…ビシュッ、ビシュッ‼…ギィィ⁉
日向子は砕いた石を指で弾いてバンパイアの心臓を撃ち抜く
移動しながら撃ち出す礫は心臓を正確に射抜きあっと言う間に数十のバンパイアが屠られる
「はっ!」
…ドンッ‼
礫が切れると日向子は抜き手の要領で腕を前に突き出した
すると目の前のバンパイアの胸部が穿たれて大穴が空く
数が多過ぎて直接斬り伏せるよりも衝撃波を使ってミドルレンジから倒した方が良いと判断した為の攻撃方法だった
日向子は手甲剣で宙を払い衝撃波によってバンパイア達を八つ裂きにしていく
ゴウゥッ!
その横ではキメがバンパイア達に炎を吹いて倒している
「キメちゃんあとどの位?」
《半分は倒した》
「了解、こっちが片付いたら応援に向かうね‼」
日向子は礫と衝撃波を巧みに使いほぼ殲滅していたが
キメの炎攻撃はゾンビ程の効果を得られず少し手間取っていたのだ
そこに左翼のゾンビをほぼ掃討した日向子が駆けつけた
礫攻撃でヒントを得たキメは全身から針を出し全方位に向けて放射した
ズガガガガッ‼ドドドドッ!
全身針ネズミの様になったバンパイアが次々と倒れていく
「凄い‼流石キメちゃんね」
日向子に誉められ照れるキメは口から水を高速で吹き出す
ビシュッ‼…ドッ‼
鉄砲魚の数百倍の圧力で射出された水はバンパイア達の心臓を穿ち体をバターの様に切り刻む
「これなら応援に来る必要はなかったかな?」
逃げた数体のバンパイアを除いて日向子達は千体以上のバンパイアを殲滅していた
「こっちにもいるぞ⁉」
「早く殺せー‼」
出口のバンパイア達がいなくなり静寂が訪れると避難路の奥から住民達の叫び声が漏れていた
「キメちゃん、戻ろう‼」
日向子達は急いで避難路に入って行く




