122 ゴルド王国の滅亡 part9
ポルカ商会の講堂で日向子は余りにも無責任な住民達の決断を待っていた
「こ、こんな事で時間を食ってる場合じゃない‼バンパイア達が今にも襲って来てるんだぞ?」
「…ここは日向子様にお任せして…」
「…ちょっと待って下さい。私は今後の行動決定は皆さんにお任せして私は意見を挟むつもりはありません」
日向子はまた他力本願になりそうな住民達の流れを遮って意見を述べた
「な、何故そんな事を?」
「人でなしか?あんたは!」
「…今の言葉が全てだからです。あなた達は自分の命に無責任過ぎます」
日向子の言葉に住民達の間に怒りの渦が巻き起こる
「失礼ですがもし私の選択が間違いだったら私を恨んで責任を擦り付けるつもりでしょ?」
「そ、そんな事は…」
「じゃあ何故今私に怒りをぶつけているんですか?私は善意で救助に来ています
私とキメちゃんだけなら何の苦もなくここから去る事も可能ですよ?」
ポルカはハッとした
考えれば誰も手に負えず救援もままならなかった危険地帯にいるかいないか分からない生存者を救いにやって来たのだ
依頼云々を除いてもそんなリスキーな事案に首を突っ込む者など皆無なのは確かなのだ
それでも尚、日向子達は来てくれた。損得ではなくただ生存者を助ける為に
その貴重な人物を今逆恨みしているのだ
ポルカは自分の浅はかな考えに恥じ入った
そして住民達も自分の言動や行動を恥じたのだった
「よし…今一度皆で考えよう‼」
ポルカは住民達に選択を迫った
「ここで朝迄耐えてそれから脱出するか、それとも今ここから脱出するか、2つに1つだ」
住民達は未だに誰も言葉を発していない
「我々が自分の行動に責任を持たないのはおかしいと言っているのに何故皆黙っているんだ‼」
ポルカは更に言葉を重ねる
「どちらにもリスクはある。籠城はこの建物にバンパイアが侵入しない保証がない、
脱出には襲って来ない保証がない。さあ、どちらを選ぶのだ?」
ポルカの問いに漸く1人の若者が答える
「…俺は脱出を選ぶよ。もし此処がもたなかったら蹂躙されるだけなんだろ?」
「…私は此処に残りたいわ。お婆ちゃんが足手まといになるもの」
「俺は脱出だ、朝迄此所で待つなんて耐えられねぇっ‼」
住民達の議論は白熱し、1つの答えにたどり着いた
「日向子さん、住民の意見がまとまりました」
「どっちに決まりました?」
「過半数が脱出を選びました。残りは体力面等の理由で残留を希望しています」
「…そうですか。分かりました、じゃあ脱出しましょう」
日向子は残留を選んだ人達に提案する
「もし体力面での不安がある方、怪我をされてる方で脱出を希望される方は挙手して下さい」
日向子の質問に何十人かが手を挙げた
「その人達は今私達が乗り物を用意しますので少し待っていて下さい」
そう言うと日向子は馬車を解体して車輪と板で大八車の様なモノを拵えた
「避難路は狭くて馬車は通れません。乗り心地は悪いですが許して下さい」
日向子は大八車擬きを急遽三台作り上げた
「此処に皆さんを乗せて脱出しますが振り落とされない様にお互いを差さえあって下さいね」
こうして脱出の準備は整ったがまだ若干名籠城を希望する人間が残っている
「皆さんは何故残留を希望しているんですか?」
「どうせ生き残っても家族も知り合いもいない世界に未練はねぇんだ…」
「此所で襲われるならそれは天の意思です。座して天命を待ちます」
残留組は既に人生を悲観しているか謎の倫理観に縛られている人達の様だ
「良いですか?ご家族や知り合いを亡くされて絶望を感じているのは分かります。
でもあなた達が生きて後世に伝えないと死んだ方々は「無かった」事にされるかも知れません」
日向子の言葉に数名がハッとしている
「それと天命を待つと言ってもあなた達の神が死を喜んでいるのですか?それは神様ではなく悪魔に等しいと思いますよ?」
この言葉で祈りを捧げていた数名が自分の矛盾に気付いた
「いずれにせよ生きてこその人なんです。
死んだら亡くなった方々を弔う事も出来なくなるんですよ?良いのですか?」
この言葉に冷静さを取り戻したほぼ全ての生存者が脱出の意向を示す
残りは数名の老人達だ
「俺達は老い先短いんだ…このまま逝かせてくれ…」
要は一番質が悪い人種が残っているのだ
「お爺ちゃん達、貴方方は此所で死ぬのは結構ですがバンパイアに変態したらずっと後悔し続けますよ?
何せ変態したら罪のない人々、残された身内まで襲うかも知れないんですよ?」
「…むぅ…そうか、ワシ達はどうやら思い違いをしていた様じゃ」
「さ、皆と此処を出ましょ」
これで生存者全員の脱出が決まった
後はバンパイア達の襲撃を掻い潜って出口まで突っ走るだけだ




