105 GO WEST part5
日向子は竜族の戦いと今の脅威を聞いて嘆息していた
「それで…私は何を手伝えば良いのかな?」
正直日向子は超せっかちさんだ。
シルグを信じている日向子は無条件でワイト達の味方をすると決めている
だから昔話を織り交ぜなくとも出来る事があればチャッチャと力を行使して解決する事を望んだのだ
『フフッ、相変わらず主殿は男前だな』
「いやぁねぇ、それって褒め言葉にならないじゃない?」
プリプリ怒る日向子をシルグは優しい目で見つめていた
『ゴホン‼それでだな、日向子殿には申し訳ないが黒竜を討伐して欲しいのだ』
「えっ?」
『頭の黒竜さえ倒せば後は烏合の衆だ。どうとでもなるし恭順させる事も出来よう
我等が動いて屠る事も可能だがその間に寝返られドラコニア内部から造反されても困るのだ』
ワイトの話では竜神が治めた争いから数千年、造反組もドラコニアの内部に深く関わる様になり
クーデターを起こす可能性のある竜の選別が既に困難になっているとの事だ
「うーん?良く分からないけど私はその黒竜ってのを倒せば良いのね?」
『…倒せばって…随分軽く考えておるな。黒竜の力は我等と同等かそれ以上だぞ?』
「あはは、多分大丈夫。あ、でも黒竜の技は教えておいて欲しいかな?不意討ちされると嫌だしね」
日向子の軽い返事にワイトは面食らうがシルグはさもありなん、と言いたげな顔で頷いていた
『黒竜は雷を纏う竜で電流を放出する技を多彩に操る』
「他に何かあるかしら?」
『おそらく黒竜の側近に「オロチ」という多頭竜が…』
「あ、それ知ってる」
『…何だと?』
「私のいた世界でも「ヤマタノオロチ」ってのがいたって伝記があったのよ」
『ワイトよ、言い忘れたが主殿は異邦人だ』
『…何と…異邦にも竜族の伝説があるとはな…』
『余談だがその「ヤマタノオロチ」はどう伝えられているんだ?』
「えーっと、確か暴れて仕方ないからスサノオノミコトって神様にお酒飲まされて首斬られて倒されちゃった…かな?」
『…うーむ…』
異世界に於いての武勇伝を期待していたワイトは悪として滅ぼされたと聞いて唸っている
「あはは、まぁこれって本当かどうか分からないし人間の都合の良い様に編纂されてるかも知れないしね」
日向子は落ち込むワイトにそうフォローを入れた
「あっ‼でもそのヤマタノオロチから後に神器となる草薙の剣が出て来たんだよ⁉凄いねっ⁉」
…何のフォローにもなっていなかった
『…とにかくオロチには多少の造詣がある、と言う事かな?』
シルグもフォローを入れたが
「えっ?頭と尻尾が8本あるって事位しか知らないわよ?」
という日向子のKY発言に敢えなく玉砕していた
『…まぁおおよそその通りだ。こちらのオロチは5つの頭しかないがな、頭は回るそうだ』
「ん、了解。それも倒せたら倒しちゃうね」
日向子は事も無げに言う
「一応確認だけど向かってきた竜は倒しちゃって良いのよね?いちいち選別していられないわよ?」
『アハハ、そうだな。倒せるならば倒して貰って構わないぞ』
ワイトは何だか黒竜達の味方的な発言をしている
『ワイトよ、まるで主殿に負けて欲しい様な発言だが?』
『そ、そうではなく…あまりにもあっさり倒せると豪語されたのでな、つい…』
「あ、そうか‼ごめんなさい…」
『主殿は謝る必要はない、ワイトはまだ若いのだよ。精神的にな』
『齢五千年を越える我を若造扱いするのは四竜の中でも貴様だけだぞ?シルグ』
『ワシより若いのは事実だろうが?』
『たった数百年早く世に生まれたからと言って先輩風を吹かせおって…』
日向子の軽口にシルグもワイトも何だか深刻に考えるのが馬鹿らしくなっていた
《我が君‼大変です‼キマイラが単身ドラコニアに乗り込んで来ました‼》
『何っ?』
「あ、キメちゃんかな?」
『キメちゃん??』
『ワシと同じ主殿の僕だ。構わぬからここまで通せ』
《はっ!》
親衛隊は乗り込んできたキメを応接間迄案内する
《俺を置いて行くなんて酷いじゃないか?》
キメは人型に変態しつつ文句を言っている
「あはは、ごめんね。だってキメちゃん依頼で出掛けてたじゃない?」
《呼べばすぐ駆けつけるに決まってるじゃないか》
『…お主がキメか?』
《…あっ⁉申し訳ありません‼俺…私は主・日向子の僕、キマイラのキメと申します》
キメはワイトに挨拶をするのをすっかり忘れて慌てて自己紹介をする
『やはり日向子殿の僕は皆癖が強いな』
「あはは…」
日向子は申し訳なさそうに頭を掻いた
「キメちゃんが来たので私が乗り込んでもワイトさんやシルちゃん達に迷惑は掛からなくなりましたね
万が一失敗しても竜族は無関係を押し通せば済む話だし」
『…主殿、まさかそこまで読んでキメを此処に?』
「だってわざわざ西の地から飛び出てきたシルちゃんが戻るって聞いたから…揉め事だろうな、って思ってたしね」
『…ワシの為にスマン…』
「良いの良いの‼もうシルちゃんは私の家族だもんね♪」
日向子の言葉にシルグもキメも感極まっていたがもう1人、ワイトも感銘を受けていた
『シルグよ、良い主に仕えたな』
『当たり前だ』
ワイトは日向子達の関係を羨ましく思っていた




