102 GO WEST part2
ズゥン、ズゥン、ズゥン…
日向子を肩に乗せたシルグは洞穴の奥に進んで行く
「ほぇ~、ただの洞穴じゃないんだ?」
洞穴の奥は黒光りする黒曜石の様な材質の柱が並び立ちまるでオリンポス神殿の如き造りになっていた
『ここは竜神の聖地だからな、歴代の王がこれらを建立したと言われている』
竜の巨躯でも傷一つつかない磨かれた床に日向子は酷く感心していた
ズゥン、ズゥン
ガシャッ‼
通路の両脇に控えていたバハムート兵が突然持っている戦槌で行く手を阻む
『風のシルグ様ご一行、ご到着です!』
ゴガンッ‼ゴゴゴゴゴゴゴゴ…
一体誰に宣言しているんだ?と日向子が思った矢先、目の前の壁が重々しく開いていく
「わぁ、素敵☆」
日向子の目の前には先程の黒曜石と大理石のタイルが交互に貼られまるでチェッカーフラッグの様な床を形成している
ソコに白い柱が何本も林立し、その先に黄金色の豪奢な椅子が置かれている
『シルグよ、久しぶりだな‼』
柱の奥から現れたのは全身赤銅色の鱗に身を包んだドラゴンだった
『3百年ぶりか?』
『もうそんなに経つか、ところでその人間は何者だ?』
『親衛隊から聞いていないのか?ワシの主、日向子だ』
ワイトは金色の瞳を見開いて日向子を睨む
『うーむ、何者にも屈しないシルグを従えるとは…策を弄したのか?』
ワイトは強者であるシルグを人間が屈服させられるとは思えず日向子に失礼な言葉をうっかりかける
『…ふんっ、ワシの主殿に尊大な態度を取るとは…』
シルグの怒気が一気に膨れあがり空間が歪んでいく
親衛隊も思わず戦槌を構えてしまうのを見て日向子が慌てて仲裁に入った
「ちょっ、何バトルモードになってるのよ⁉私は別に何とも思ってないわよ?」
『しかし…主殿を見下されてはワシの立つ瀬がないのだ』
「うーん、私この通り小さいし下に見ちゃうのは仕方ない事だと思うわよ?」
『主殿の力量を見誤るとは平和ボケしたな、ワイトよ』
『…何だと?』
シルグの挑発を受けたワイトも全身から赤い怒気を噴出させ始めた
「こらこら、男性(?)って皆どうして力比べしだすのよ…誰が強かろうがどうでも良いじゃない」
日向子の言葉を受けワイトは怒気を収めながら言い放つ
『日向子とやら、本来竜族という存在は己の力を誇示して立場を築くモノだ。
侮られて悔しいのであれば力を示すが良い』
「だから、私誰が強いとか興味ないって言ってるでしょ?」
仲裁に入っていた日向子もワイトのぞんざいな物言いに流石にキレ出した
「そもそも竜族でもないのにそんな扱いは失礼よ、そんなに力比べしたいならやったげるから掛かって来なさいよ」
『あ、主殿?』
シルグは日向子の変わり様に驚いていた
当の本人は知識や経験上力量を見せた方が早く収まる事を知っていた為ワイトの挑発に乗ったのだ
『フフッ、フハハハ‼面白い、人間如きが竜に立ち向かうとは。では少し遊んでやろう』
ワイトは日向子に前足を突き出す
『どれ、我の腕を引いてみろ。どれだけ力が強いか我自身が確認してやろう』
その場にいたシルグ以外の竜種は日向子を完全に見下していた
爪にも満たない体躯でワイトがどうにか出来るとは誰も思っていなかったのだ
「…本当に良いの?」
『フハハ‼当たり前だ、小娘ごと…ふぁっ!?』
…ブンッッッ…ゴッッ!
《わ、我が君⁉》
《…何が起こった?》
《大丈夫ですかっ⁉》
完全にナメきっていたワイトは次の瞬間玉座から引っこ抜かれ反対側の壁に叩きつけられていた
『なっ!?』
「あのね、私が馬鹿にされるのは良いの。でもシルちゃんを馬鹿にするのは許せないわ」
日向子はワイトの意図を正確に見抜いていた
ワイトは最初から日向子の存在など鼻にもかけていなかった
だがシルグが主と紹介した日向子を貶める事で遠回しにシルグを小馬鹿にしたのだ
日向子はそれが許せなかったのだ
『…主殿…』
シルグはドラコニアに入ってからずっと侮られていた日向子が何故ワイトと挑発に乗ったのか、今知って感動していた
《ぶ、無礼者‼よくも我が君を‼》
親衛隊は戦槌を日向子に向けた
『待て!お前達では敵わぬ!』
ワイトは立ち上がりながら親衛隊を制した
《し、しかしっ!》
『分からぬのか?我は決して油断して投げられた訳ではないぞ?』
ワイトの顔は既に獲物を狙う獣の様になっている
気圧された親衛隊は後退りして控えた
『日向子、と言ったか?先程の無礼、詫びよう』
ワイトは玉座に戻り日向子に謝罪した
「シルちゃんに謝ってね」
『シルグよ、すまぬ』
『旧知の仲だ、気にするな』
「じゃあこれでおしまい。私も大人気ない事してごめんね」
『フフッ、フハハハ‼シルグよ、良い主を持ったな!』
ドラゴン同士の争いなぞ抑えられる者はこの西の地にはいない
それを小娘がたった一人で、しかも策を弄さず力で制したのだ
『ワシは自分より弱き者に傅く趣味はないぞ?』
『…それ程か?』
『それ以上だ』
ワイトはシルグの言葉に目を見開いた




