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イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜  作者: 四季
10.冷たき夜

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91話 再戦は不気味な夜に

 ベッドの下から幼子のように這って出てきたのは、一人の少女だった。


 身長は低めで、あまり凹凸のない体つきをした少女だ。本当のところは分からないが、十四歳か十五歳くらいに見える。

 また、紺色の髪は肩に擦れるほどの長さ。長い、というほどの長さはない。それを、左耳のすぐ上辺りで、乱雑に一つにまとめている。


 あまり飾り気のない容姿だ。


 そんな中で一際目立つ個性的なところは、服装。


 学生が水泳の授業で着る水着をアレンジしたような服で、腰元には、刃部分が波打った不思議な形状の剣がかかっている。


「せっかくかっこよく登場したろうと思ってたのに、何やねん! もう! こんな登場やったら、全然かっこよないわ!」


 その少女は、ベッドの下から完全に抜け出すと、素早く立ち上がる。


「困るわ! ちゃんとした対応してもらわな!」


 素早く立ち上がってから、少女はそんなことを言った。


 敵なのだろうから、こんなことを言っていては駄目なのかもしれないが……頬を膨らませているところがとても愛らしい。


「やはりラナか」


 ベッドのすぐ傍に待機していたベルンハルトは、警戒心を剥き出しにしながら立ち上がる。


「あ、名前覚えててくれたんや? 嬉しいわー」

「何をしに来た」

「兄ちゃん、意外とせっかちやね」


 少女——ラナは、くふっ、と笑みをこぼす。


「真剣な話をしているんだ。笑うところじゃない」

「ま、それもそうやね」


 適当な返しをしながら、ラナは、腰にぶら下げている剣を手に取る。


「か弱い王女様だけならともかく、兄ちゃんもいるんやもんな、笑ってられへんわ」

「狙いはイーダ王女か」

「そうそう。しっかしまぁ……ドジ女はまたしっかりドジったんやな」


 やれやれというような動作をとるラナ。


「……ドジ女?」

「名前は確かー……フィリーナやったっけ」


 ラナの発言に、ベルンハルトの目つきは一段と鋭くなる。


「フィリーナ、だと」


 そんな……。


「確かそんな名前やった気がするわ」

「彼女もお前らの仲間か」

「厳密にはちゃうんやけど、ま、半分仲間みたいな感じやな。同じ依頼主から同じ任務を貰ったって意味では、仲間と言えると思うわ」


 ラナは何やら楽しげな声色でそんなことを話す。他人が驚き戸惑うところを見るのが楽しいのかもしれない。


「そうか。あの女、やはり敵だったか」

「びっくりしないんや?」

「あれほど能力のないやつが王女つきの侍女になるのはおかしいと思っていた」


 淡々とした調子で述べながら、懐からナイフを取り出すベルンハルト。


「一人になったイーダ王女を狙いでもする作戦だったのか」

「そんなとこやな」

「卑怯の極みだな。けれど、卑怯者であってくれる方がいい。その方が、僕もやりやすい」


 ラナとベルンハルトは普通に話している。どちらも武器を持ってはいるが、手を出そうとしている感じはまだない。


 しかし、このまま時が経てば、いずれは戦いに発展してしまうことだろう。


 殺意を向けられることは怖い。けれど、それよりずっと恐ろしいのは、ベルンハルトが傷つくこと。

 あるいは、従者が負傷すること、とも言える。


「こっちから行くで!」

「ここで暴れるな」


 先に仕掛けようと動いたのはラナ。

 しかし、先に放たれたのはベルンハルトの蹴りだった。


 彼の蹴りをラナは咄嗟に防ぐ。が、勢いを殺しきれなかったのか、数メートル後ろへ飛ばされていた。


 ベルンハルトとラナの位置が、ベッドから一気に離れる。

 これで少しは動けそうだ。


「いきなり蹴るんはなしやろ!」

「何とでも言えばいい」

「そんな生意気言ってられんのも今だけや」


 ラナは剣を左手で持つと、柄の部分に設置されている一枚の歯車を、くるりと一周回転させる。


 何だろう?

 そう思っていると、ラナの右腕が変化し始めた。


 小さな体にまったく似合わない、太い腕と巨大な手。しかも、手のひら部分以外すべてに、深緑の鱗が張り付いている。また、指先には長く鋭い爪が生えている。


 とても人間のものとは思えない腕だ。


「……またそれか」


 ベルンハルトは目を細める。

 私はラナの腕の変化に動揺を隠せなかったが、彼は驚いてはいないようだった。


「そうや。これはうちの武器の一個やからね」


 ラナの右腕は、今や、化け物の腕。

 直視できるものではない。


「知ってる? うち、小さい頃は第一収容所にいたんよ」

「……だったら何だ」

「うちはそこで、強化人間を作る実験のために、手術を受けさせられてん。やからこんなことができるってわけ」


 ラナは本当によく喋る。

 刺客とは思えないくらいのお喋りだ。


「ま、実験は破綻したみたいやけどね」

「……時間稼ぎか」


 ベルンハルトは怪訝な顔で発する。


「何やそれ! そんなせこいこと、するわけないやんか!」

「……違うのか」

「時間稼ぎなんかせーへんわ。そんなんせんでも、うちは強いもん!」


 直後、ラナはベルンハルトに飛びかかった。

 ベルンハルトは咄嗟に飛び退く。


「遅いわ!」


 着地したベルンハルトに向けて、ラナの巨大な手が振り下ろされる。


「一発で終わらせたる!」

「……あまりなめるなよ」


 ラナの巨大な手を、ベルンハルトは、すれすれでかわす。


「ふっ!」


 そして、ナイフを振る。

 銀色に煌めく刃が、ラナの左腕を切り裂いた。


「……ちっ。わりとやるやん」


 しかしラナは、腕をナイフで切りつけられたくらいでは止まらない。彼女の瞳には、まだ、戦う意思が宿っている。


「ここからは本気やで!」


 ラナはベルンハルトに再び接近する。


 目にも留まらぬ速さで。


 そして、彼の前まで来ると、姿勢を低くする。

 それでもベルンハルトの目は、ラナの姿を確かに捉えていた。


「とぅおりゃ!」


 ラナは背の低さを活かし、低い位置でベルンハルトに突進する。


 それに気づかないベルンハルトではない。が、高さに結構な差があるため、彼は適切に対応しきれなかった。


「……っ!?」


 ラナに突き飛ばされたベルンハルトは、バランスを崩し、転倒とまではいかないがよろける。


 恐らく、それがラナの狙いだったのだろう。


 体勢を保ちきれないベルンハルトに向かって、ラナは、巨大な手を振った。

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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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