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イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜  作者: 四季
8.束の間の平穏

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83話 勝負

 私を含む何人もが見守る中、カッタッタとベルンハルトの勝負は幕を開けた。



 地面を蹴り、先に仕掛けていくのはカッタッタ。


 彼は素早くベルンハルトへ接近すると、拳を大きく振る。しかしベルンハルトは、片腕を使い、その拳の勢いを殺した。


「くそっ!」


 思わず声をあげるカッタッタ。


「まだまだ!」


 カッタッタはもう一方の手で、もう一度殴りかかる。


 しかし、ベルンハルトは読んでいた。


 今度は、襲いかかる拳に対処するのではなく、その手首をがっと掴む。

 そして、カッタッタを放り投げる。


「ぎゃっ!」


 地面に叩きつけられたカッタッタは、短い悲鳴を漏らした。


 しかし、十秒も経たないうちに、カッタッタは起き上がってきた。根性で、という感じの起き上がり方である。


「勝ったと思うなよ!」


 カッタッタは、そう叫びながら、ベルンハルトの方へ再び突っ込んでいく。


 素人の私がこんなことを言うのも問題かもしれないが、正直、「もう少し考えて仕掛けていけばいいのに」と思ってしまった。


「……この程度で勝った気になるほど脳内花畑ではない」


 カッタッタはまたしても殴りかかる。

 攻撃が完全にワンパターンだ。


 ただ、私は内心ほっとしていた。

 攻撃がワンパターンな相手なら、ベルンハルトも戦いやすいだろう。そんな風に思ったからである。


 ベルンハルトは眉ひとつ動かすことなく、カッタッタの拳を、防ぎ、受け流していっている。連続パンチも、ベルンハルトの前には無力だ。


「とぅお! とぅお! ふぁー! とぅおとぅお! とぅお! ふぁー!」


 それでもカッタッタは、拳を繰り出し続けている。

 よほどパンチに自信があるのか。あるいは、それ以外の攻撃方法を知らないのか。そこは分からないが、明らかに効いていないと分かる状況でその攻撃を続けるというのは、ある意味才能かもしれない。


「とぅお! とぅお! ふぁー! とぅお! とぅおとぅお! とぅとぅとぅっふぃー! てぃお! てぃお! ふぁー!」


 妙な声を発しながら、両の拳を交互に突き出す。が、ベルンハルトにダメージを与えるには至らない。


 ——数秒後。


 パンチの隙を掻い潜り、ベルンハルトは蹴りを繰り出した。


「ぐしっ!」


 ベルンハルトの脚は、カッタッタの脇腹を強打する。

 脇腹を蹴られた彼は、その場でしゃがみ込んだ。唇が微かに震えているのが見て取れる。


「……早く終わらせないか」


 カッタッタを見下ろしながら、ベルンハルトはそう言った。

 静かに放たれる冷淡な声は、刃のような鋭さをはらんでいる。その鋭さといったら、どんなものでも切り裂いてしまいそうなくらいである。


「無益な行為に時間を費やすのは、人生の無駄遣いとしか思えない」

「なっ! この勝負を人生の無駄遣いだと言うのか!?」

「……僕からすれば、だがな」


 その瞬間、カッタッタの目の色が変わった。


 活発な雰囲気をまといはしているものの、いたって平凡だった彼の瞳。そこに、熱く燃える炎が宿った。


「俺にとっては重要な勝負なんだ!!」


 目の色を変えたカッタッタは、突如ガバッと起き上がり、ベルンハルトに飛びかかる。


「っ!?」

「どりゃあッ!」


 カッタッタはベルンハルトを床へ押し倒す。いきなりのことに反応しきれず、ベルンハルトは、俯せの状態で押さえ込まれてしまった。


「せい!」


 彼はそれから、床に押し付けたベルンハルトの片腕を強く掴み、捻りつつ引っ張る。ギシギシと音が鳴っていた。


 今のベルンハルトは、見ているだけでも痛みを覚えるような体勢だ。


 途中までは圧倒的な強さを十分に発揮していたベルンハルトであったが、ここに来て、形勢逆転されかかっている。


「悪いが一気に決めさせてもらう!」


 カッタッタは必死だ。

 よほど、自身の強さを誇示したいのだろう。


「ギブアップしてくれさえすれば、すぐに終わるぞ!」

「断る」


 完全に押さえ込まれる体勢に持ち込まれているが、それでも、ベルンハルトはベルンハルトだった。彼は微塵も慌てることなく、カッタッタを鋭く睨んでいる。


「おぉ!」

「カッタッタ、今日は気合い半端ねぇな」

「ボクはうつくしい……」

「おぅ! しっかりしろや!」


 懸命に戦うカッタッタに向けて、応援の声が飛び始める。


「ガンバレクイナ!」

「いけやいけや! 今さら負けんなよ!」

「ボクはやはりうつくしい……」

「しっかりー! 勝てー! やー!」


 凄まじい応援だ。

 いや、もちろん、いつも一緒に鍛え合っている仲間ならば、応援するのは当然といえるのだが。


 ——しかし、相手だけが応援されている状況というのは、複雑な心境だ。


 とはいえ、ベルンハルト側で今ここにいるのは私だけ。リンディアやアスターがいてくれたならもっと応援できたのだろうが、私一人で激しく応援するというのは厳しめである。


「うぉりゃ!」

「……く」

「いい加減ギブアップしてくれよ!」

「……断る」


 パッと見た感じではベルンハルトばかりがやられているようだが、案外そうでもないのかもしれない。というのも、カッタッタも意外と汗をかいていたのだ。


「頼む! ギブアップしてくれ!」

「断る」

「後でロックンロールパフェ奢るから! なぁ?」


 謎の説得が始まった。

 が、ベルンハルトはまったく応じない。


「……そんなことを言うなら、なおさら断る」

「うおい! 何でだ!」

「不愉快だからだ」

「はぁ!? そんなにはっきり言わなくてもいいだろ!」


 俯けに床に押さえ付けられ、しかも片腕をがっちり固められているにもかかわらず、ベルンハルトは涼しい顔をしている。


 厳しく拘束されることに慣れているから——かもしれない。


「くそっ……なら、もういい! こうしてやる!」


 カッタッタはベルンハルトの腕をさらに強く捻る。しかし、ベルンハルトの顔つきが変わることはなかった。


「何をしようが無駄だ。僕は屈しない」

「ぐ……くそ……」


 悔しげに歯軋りするカッタッタ。


「僕を折りたいならば、本気で潰しにかかれ」

「き、きぇぇぇ!」


 ベルンハルトの言葉に刺激されてか、カッタッタは叫ぶ。そして、押さえ付けていたベルンハルトの体を持ち上げた。


 刹那、ベルンハルトの瞳に一筋の光が宿る。


「……かかったな」

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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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