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イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜  作者: 四季
7.視察 (後編)

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69話 一段落して、お茶の時間

 視察が一段落すると、休憩時間に入る。

 ルンルンが、みんなに、お茶とお菓子を振る舞ってくれた。


「ドゥオウゾー!」

「ありがとう」

「ドゥオウゾー!」

「あたしも貰っていーの?」

「ドゥオウゾー!」

「僕は要らない」


 私だけではなく、従者であるリンディアやベルンハルトにも渡してくれるところは、良いと思った。


 ……もっとも、アスターにはくれなかったのだが。


 だが、それにしても、ハーブティーとクッキーだなんて、最高の組み合わせではないか。


「ベルンハルト、受け取らなくて良かったの?」

「……あんなやつから施しを受けようとは思わない」


 私とリンディアはハーブティーとクッキーを受け取ったが、ベルンハルトは断っていた。それを見て「なぜ受け取らないのだろう」と不思議に思っていたのだが、どうやら、「ルンルンから施しを受けるのが嫌」という理由だったようである。少々意外ではあるが、ベルンハルトらしい理由だと思った。


「なーに意地張ってんのよー。素直に受け取ればいーじゃなーい」


 リンディアは紙コップを片手に、クッキーをポリポリ食べている。彼女には、貰い物を食べることに対する抵抗など、欠片もないようだ。


「借りを作りたくはない」

「あーいかわらず、重苦しい男ねー。クッキーなんて、借りとかいう大層なものじゃないでしょー?」

「小さなことだろうが、借りを作るのは嫌だ」

「あーヤダヤダー」


 リンディアは顔を不快そうにしかめながら、紙コップに入ったハーブティーを口内へ注ぎ込む。

 その様子を穏やかに見つめていたアスターが、ゆっくりと口を開く。


「私は綿菓子が食べたい気分なのだがね」


 相変わらずの唐突ぶりだ。


 彼との付き合いが長いリンディアは何も感じていないようだが、私は密かに驚いた。

 だって、いきなり綿菓子の話を始めるなんて思わなかったのだもの。


「アンタ、ほーんと綿菓子が好きなのねー」

「もちろんだとも。私は糖分が無いと死んでしまう」

「摂りすぎても死ぬわよー」


 そんな風に話しながらも、リンディアはクッキーを食べている。わりと気に入っているみたいだ。恐らく美味しいのだろう。


 彼女の様子を見ている感じでは特に問題なさそうなので、私もクッキーを食べることにした。


「……あ!」


 クッキーを口に含んだ瞬間、半ば無意識に、声を漏らしてしまった。


「何事だ」

「どーしたの」


 ベルンハルトとリンディアが、ほぼ同時に私の方を向く。


 二人とも、警戒した顔つきをしていた。

 だが、私が思わず声を漏らしたのは、何か異変を感じたからではない。クッキーが美味しかったから、なのである。


「美味しい!」


 私がそう言うと、ベルンハルトとリンディアは溜め息をつきながら返してくる。


「……何だ、そんなことか」

「なーんだ、それだけだったのねー」


 二人が言葉を発したタイミングは、ほぼ同時。その合いぶりといったら、まるで事前に練習を重ねていたかのようだった。


「そのクッキー……そんなに美味しいのかね?」

「えぇ! アスターさんも食べる?」

「実に気になるところではあるのだがね……そんな美味しい物を貰うなど、申し訳ない」


 アスターは遠慮がちにそんなことを言う。しかし、その瞳には「欲しい」と書いてある。非常に分かりやすい。


 きっと食べたいのだろうな、と思ったため、私はクッキーを一枚アスターに差し出す。


「どうぞ」

「……いただいて良いのかね?」


 貰えると思ってはいなかったのか、アスターはきょとんとした顔をする。


「アスターさん、甘いものは好きでしょう? あげるわ。……要らない?」

「いやいや。もちろん、いただけると嬉しいよ。ただ、こんな至れり尽くせりで罰が当たらないかと、そう思ってね」

「おかしなことを言うのね。罰なんて当たらないわよ」

「……ではいただくとしようかね」


 アスターは、この時になってようやく、私が差し出しているクッキーを手に取った。そして、つまんだクッキーをそのまま口へと放り込む。


 それからしばらく咀嚼して、アスターは口を開く。


「……おぉ! 確かに!」


 驚きと感動が混じったような、張りのある声だ。


「甘い!」

「なーに言ってんのよ。クッキーだもの、甘いのはとーぜんじゃなーい」


 しっかり聞いていたらしいリンディアが会話に入ってくる。


「美味だね、これは。なかなか素晴らしい味だよ」

「アンタ、ホーント甘いものが好きよね。よく肥えずにいられたものだわー」

「狙撃は結構な糖分を消費するからね、摂取量も多くなければやっていけないのだよ」

「今はなーんにもしてないじゃなーい」

「……それは言わないでくれたまえ」


 リンディアの発言に、アスターは顔をしかめた。渋柿をかじりでもしたかのような顔である。


 そもそもが、年齢を感じさせるしわの刻まれた顔だ。それをしかめると、若者が顔をしかめた時よりも、もっと渋いものを食べた顔に見える。


 その時、それまでは黙っていたベルンハルトが声を発した。


「イーダ王女。少し構わないか」

「何? ベルンハルト」


 そう問うと、ベルンハルトは、少々気まずそうな顔をした。


 とても言いにくいことなのだろうか? と思いつつ、彼の顔を見つめてみる。


「ベルンハルト?」

「その、僕も一枚欲しいのだが」


 視線を逸らしつつ彼は言った。


「欲しい、って……クッキー?」


 ベルンハルトはこくりと頷く。

 彼はどうやら、クッキーが欲しかったようだ。


 気難しい彼のことだ、自ら気軽に「欲しい」と言うことは容易でなかったのだろう。


「いいわよ。はい!」

「……感謝する」

「もっと気軽に言って構わないのよ、ベルンハルト」


 気を遣う必要などないのだから。


「いや、気軽には無理だ」

「そう?」

「従者が主に対して気軽に物を要求する、というのは問題だ」


 ベルンハルトはいつも、妙なところで真面目さを発揮する。私からすれば、不思議で仕方がなかった。

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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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