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イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜  作者: 四季
1.運命の幕開け

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6話 愛情が過剰

 その後、私は、シュヴァルに連れられ星王の間へと移動した。


 父親が生活している部屋へ入るのは久々なので、少しばかり緊張するかもしれない——と思っていたのだが、そんな思いはすぐに吹き飛んだ。


「イーダぁ! 無事だったのかぁ!!」


 いきなり抱き締めてくる。


 星を治める星王とは到底考えられない、軽い行動だ。

 しばらく会っていなかったため忘れていたが、彼がこういう人であることを思い出した。


「事件に巻き込まれたと聞いて、心配したんだぞぉ!?」

「お願い、父さん。人が見ているところで抱き締めるのは止めて」

「離すなんて無理だぁ!」


 シュヴァルを筆頭に、周囲にいる者たち皆が、くすくすと笑っていた。父親が二十歳近い娘を何の躊躇いもなく抱き締めているのだから、笑われるのも無理はない。


「最低でも今日一日、ずっと抱き締めるからなぁ」

「止めて! 父さん、本当に止めて!」


 私は父親の腕を振り払った。

 他人がいるところで父親に抱き締められ続けるなんて、いろんな意味で恥ずかしすぎるからである。


「そういうことをするなら、自分の部屋に帰るわ」

「うそーん! それはショックだぁ!」


 父親の頭を抱える大きなアクションに、周囲の側近たちは苦笑していた。当然だ、私にとってはただの父親でも、彼らにとっては星王なのだから。この星を治める者がこの様では、苦笑する外あるまい。


「じゃあもうしないっ。もう抱き締めたりはしないから、せめて今日一日はここにいてくれよぉ!」

「何もしないと誓うならいいわよ。あんなことがあった後で一人の夜というのも、あまり嬉しくはないし」

「おおっ! そうかっ! ならば誓おう! 何もしないと!」


 今日の父親は恐ろしいくらいテンションが高い。

 娘が命を狙われた後なのにこの明るさとは、もはや不思議な人である。


「では星王様。このシュヴァル、これにて失礼致します」

「そうだな。連れてきてくれて助かった」


 私と話す時とは全然似ていない、別人のような声だ。シュヴァルに対し言葉を放った時だけは、父親がちゃんとした星王に見えた。


 こうして、取り敢えず今日一日は、星王の間で生活することとなったのである。



「いやぁーそれにしても、こんな風にイーダと過ごせる日がまた来るとは思わなかったなぁ」


 仕事机で書類を漁りながら、父親がそんなことを呟く。


 あの春の襲撃以降、私は、自室からほとんど出ない生活を送っていた。それゆえ、父親ともしばらく会っていなかったのだ。


 だから、こうやって二人で過ごすのは、とても久しぶり。


「そうね。確かに、久しぶりだわ」

「昔はよくここで遊んだんだけどなぁ!」

「それは小さい頃の話でしょ」


 人が死んだというのに、こんなにのんびりしていて良いのだろうか。こんな呑気な会話をしていて、罪ではないのだろうか。私はふと、そんなことを思った。ひとまず安全なところに移動できたのは良かったが、やはり、まだあまり明るい気分にはなれない。


「ねぇ、父さん。一つ質問してもいい?」

「もちろんいいぞ! どんな質問でも、どーんと来い!」

「……どうして私は命を狙われるの?」


 私が問いを述べた瞬間、室内が静寂に包まれた。


 答えはすぐには返ってこない。


 もしかしたら父親は、私に気を遣って、明るい雰囲気作りをするよう努めてくれていたのかもしれない。だとしたら、こんな暗い問いを投げかけるべきではなかった……もっとも、今さら後悔しても遅いことだが。


「星王家の一人娘だから、だろうなぁ」


 質問してからだいぶ時間が経った頃、父親はそんな風に答えた。


 まとめた書類を机でトントンと揃えながらも、過去に思いを馳せるような目つきをしている。何かを思い出しているのかもしれない。


「イーダは、星王になる可能性のある女であり、将来星王となる子を生む可能性のある女でもあるからなぁ。普通よりもかなり狙われやすいのかもしれない」

「こんなことばかり……疲れるわ」

「だよなぁ。イーダだって、狙われたくてここに生まれてきたわけじゃないもんな」


 父親は立ち上がると、私が座っていた椅子の方へと近づいてくる。何だろう、と思っていたら、突然抱き締められた。


「すまんなぁ、イーダ! 辛い思いばかりさせてぇっ!!」


 耳元で凄まじい大声を出され、鼓膜を痛めるかと思った。


 何というか……正直少し鬱陶しい。


「ちょ、ちょっと。抱き締めるのは止めて。そんなことをするなら帰るわよ」

「すまん! 帰らないでくれぇっ!」

「だったらべたべたしないでちょうだい!」

「本当にすまんっ! けど、イーダが可愛すぎて自制できん!!」


 わけが分からない。馬鹿なのだろうか。


「怖いことを言わないで。そろそろ本気で逃げるわよ」

「許してくれぇっ!」

「なら怖いことを言わないようにしてちょうだい」

「あぁ、もちろん! もちろんだとも!」


 彼は多分、私の言おうとしていることを、ちゃんと理解してはいないだろう。その場では「もちろん」などと言っておきながら、またそのうち寄ってくるものと思われる。彼はいつもそうだから、さすがにもう読めてきた。


「けど、今だけはギュッとさせてくれ! 頼む!」

「離してちょうだい! 変よ、父さんは!」


 穏やかな時間を過ごしていたはずなのに、いつの間にやら言い合いみたいになってきてしまう。


「親なんだ! 少しくらい可愛がってもいいだろぉ!?」

「可愛がると抱き締めるは同義ではないのよ……?」

「そんな小さいことはどうでもいいっ! 今はイーダを可愛がることが優先なんだ!」

「言っていることが全部おかしいわよ」


 父親は元々、こういった強引さを持った人だ。それゆえ、かつては慣れていた。だが、最近はあまり関わっていなかったため、こういうことをされるのは久しぶりで、どうも慣れない。


「本当に、もう止めてちょうだい!」


 あまりの鬱陶しさに、思わず父親を突き飛ばしてしまう。急に突き飛ばされた父親は、バランスを崩し、しりもちをついた。



 ——ちょうどその時。


 星王の間の、外と繋がる扉が開き、シュヴァルが現れた。


「せ、星王様……?」


 豪快に床に転がってしまっている父親を見て、シュヴァルは戸惑った顔をしている。

 無理もない。良い年した大人が、床に転がっているのだから。


「シュヴァル、どうかしたの?」


 父親はすぐには返事をできそうにないため、私がシュヴァルに言葉を返しておいた。


「あの、これは一体……?」

「無理に抱き締めてきた罰だから、気にしないで。それより、用は何?」


 シュヴァルは「そ、そうですか」と少し引いたように言っていた。そして、十秒ほど経ってから、彼は述べる。


「ベルンハルトの聞き取りが終了致しました。こちらへお連れしても構わないでしょうか。……と、星王様にご確認を」

「連れてきてくれていいぞ」


 今度は父親が答えた。

 いつの間にか起き上がってきていたらしく、既に上半身は完全に起きている。


「承知しました、星王様。では、ベルンハルトをお連れします」

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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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