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イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜  作者: 四季
7.視察 (後編)

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66話 片言ルンルン

 第一収容所の入り口付近。

 肌がじんと痛むような寒い風が頬を撫でてゆく中、私たちは話を続けている。


 正直、少し寒くなってきた。口から出すことはなかなかできないが、本音を言うなら、「早く屋内に入りたいなぁ」という気分である。


「シュヴァル、彼が今の所長なのか?」

「そうです。ルンルン・クリタヴェールという名です」

「確か、前は違うやつだったような?」

「はい。元々所長はダンダという男でした。が、襲撃に巻き込まれて命を落としたため、クリタヴェールに変わりました」


 父親とシュヴァルはそんな風に話していた。


 どうやら父親は、事情を何も知らなかったようだ。シュヴァルの発言を「ふん、ふん」と頷きながら聞いていた。その顔は真剣そのもの。シュヴァルの発言を疑うことは一切ないのだろう。


「トコロデシュヴァル!」

「何ですか」

「イツマデモクォコニイルノハサムイデショウ。オティツケルタテモノヘアンナイシマスヨ」


 ルンルンは安定の独特な調子で長文を発する。


 私は、その独特なイントネーションのせいで、ルンルンが何を言っているのか聞き取りきれなかった。まったく理解不能というわけではないのだが、彼の発言のすべてをしっかりと理解するには、結構な時間がかかってしまうのだ。


 しかしシュヴァルは困っていないようだった。


「そうですね。ここは少し寒いですし、できれば屋内へ移動したいところです」


 ルンルンと話すことに慣れているシュヴァルは、彼の珍しいイントネーションにも慣れているのだろう。聞き取りづらい、ということはないようである。


 慣れてしまえば問題なし、ということか。


「ですが、その前に一つ、クリタヴェールに頼みがあります」

「エェッ! ナンデツカー!?」


 シュヴァルの言葉をうけ、ルンルンは、戸惑ったように目をぱちぱちさせる。


「一人、預かっていただきたい者がいるのです」

「オォ! ソウナンディスネ!」


 ルンルンの顔に、明るめの笑みが浮かぶ。


「シュヴァルノツァノミナラ、カマイマセンヨ!」


 彼は、右手で三つ編みをくるくるといじりながら、左手をパタパタさせていた。


 かなり不思議な動き。

 しかも、男性が行っているにもかかわらず可愛らしさがあるところが、意外だ。


 いくら愛らしい小鳥のような動作でも、男性がやれば、可愛らしいという雰囲気にはならないものだと、そう思っていた。けれど、今のルンルンからは愛らしさが溢れている。とても不思議である。


「デ? ザイニンデスカ、アクニンデスカ、ソレトモ……オルマリンジンデナイヒトデスカ」

「初老です」


 シュヴァルが落ち着きのある声で答えると、ルンルンは小さく首を傾げる。


「ショ、ロウ……?」


 彼は初老の意味が分かっていないようだった。


「そして、嘘つきです」

「ショロウノウソトゥキ、デスカ?」

「はい。そのような感じであっています」


 恐らくアスターのことなのだろう。それは分かる。

 が、「初老の嘘つき」はさすがに言いすぎではないだろうか、と内心思った。


 いや、そもそも、アスターが嘘つきである証拠はまだない。


「デ、ソノヒトヲドウツレバイイノデスカ?」

「預かって下さい。他の罪人らと同じよう、拘束しておいて下されば構いません」


 そこまで言ってから、シュヴァルはパチンと指を鳴らした。

 私が「何だろう?」と思っていると、背後から、二人の男性と彼らに拘束されたアスターが現れる。


 先ほどシュヴァルが指を鳴らしたのは、恐らく、「アスターを連れてこい」という合図だったのだろう。


「アスターをここに置いていくのか? シュヴァル」

「はい。そのように考えております」

「大丈夫なのか?」

「星王様が『駄目』と仰るのであれば、他の方法を考えさせていただきますが……」

「いや。シュヴァルに任せる」


 父親はやはり、シュヴァルを完全に信じきっている様子だ。


「ありがたきお言葉。感謝致します」


 シュヴァルは胸元へ手を添えると、仰々しくお辞儀をする。


 不気味なほどに丁寧な動作を見たせいか、私は鳥肌がたつのを感じた。もっとも、これといった理由があるわけではないけれど。


「ではクリタヴェール、この男を頼みます」

「ハイ! オマカスェクダサイ! ……ア、ダンセイノオナマエヲキカセテイタダイテモ、カマイマテンカ?」

「アスター・ヴァレンタインです」

「ショウチイタチマシタッ!」



 ルンルンはやる気に満ちた顔つきで、ビシッと敬礼する。

 肘をしっかり張れているため、キビキビ感の伝わる敬礼になっていた。


 そんな様子を眺めていた私に、隣のベルンハルトがそっと話しかけてくる。


「このままで良いのか、イーダ王女」


 私は一瞬、ベルンハルトの言おうとしていることを掴めなかった。しかし、数秒考えてみるうちに、アスターのことを言っているのだと察することに成功する。


「アスターさんのこと?」

「このままでは、離れ離れになってしまうが」

「そうね。それは問題だわ。待っていて、ベルンハルト。少し言ってみる」


 順調に話を進めている人に対して批判的なことを言うのは、とても勇気がいる。

 だが、アスターのためだ。口を挟むしかない。


「待って! シュヴァル!」


 アスターには、これといった恩があるわけではない。特別気に入っているというわけでもない。しかし、彼はリンディアの師であり、彼女の大切な人である。


「アスターさんを収容所へ置いていくなんて、本気?」

「はい」


 シュヴァルは落ち着いた声で短く答えた。淡々とした調子を崩さないあたり、彼らしい。


「アスターさんを罪人扱いするのは止めてちょうだい」

「他人を悪人に仕立てあげようとしたのですよ? もう完全に罪人でしょう」

「それはそうかもしれないけれど……でも! 彼の発言が嘘だという証拠はないわ!」


 シュヴァルが嘘をついている、という可能性が皆無なわけではない。

 アスターが嘘をついたと広めることで、自分の身を守ろうとしている——その可能性だってあるのだ。


「では王女様。貴女は、このシュヴァルが裏切り者だと、そう仰るのですね?」

「他人を罪人扱いをするならば、証拠が必要。そう言っているだけのことよ」


 すると、シュヴァルは黙った。


 沈黙の後、数秒経ってから、小さく唇を動かす。


「……貴女の発言には力などありません」


 吐き捨てるような言い方だった。しかも、煩わしいものを見るような目で私を見てくる始末だ。


「デハツレテイキマトゥネ!」

「頼みます」

「ハイッ! オマクァセクダタイ!」


 ルンルンは歩き出す。

 拘束されたアスターも、その後ろに続いて進み始めてしまった。

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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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