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イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜  作者: 四季
6.視察 (前編)

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60話 告白

 待つことしばらく。注文した品が運ばれてきた。


 私のアイスストレートティーとリンディアのホットコーヒーが普通なのに対し、アスターが注文したパフェだけは非常に大きい。高さのある器に入っている上、果物やらプチケーキやらが山盛りになっているという、驚きの状態だ。


 しかし、当のアスターはあまり驚いていない。驚くどころか、むしろ嬉しそうである。


「すっごいのが来たわねー」


 巨大なパフェを目にしたリンディアは、呆れ笑いしながら、そんなことを言っていた。同感だ。


「ワクワクしてきた……!」


 しかし、当のアスターは呑気に目を輝かせている。

 彼にとっては、周囲の人の反応などどうでもいいことなのかもしれない。目の前にパフェがある。視界の中に甘いものがある。その事実だけが重要なのだろう。


「さすがに多すぎじゃなーい?」

「こんなに美味しそうだと、食べるのが楽しみすぎて動悸が」

「ちょ、動悸て……」

「ではいただくとしようかね。いただきます!」

「会話成り立たなすぎでしょ!?」


 アスターはとにかくマイペースだ。リンディアの発言に対する返答より、自分の言いたいことを優先している。とても大人とは思えない振る舞いだ。


「イーダくんは飲まないのかね? せっかくの紅茶だよ、楽しみたまえ」


 しかも、あんなことがあった後だということを忘れてしまったかのような顔をしている。これはもはや、「呑気」を通り越して「奇妙」の域である。


「え、えぇ。そうね。いただくことにするわ」


 シロップを混ぜ、アイスティーを口に含む。茶葉の香りとほどよい甘みが絶妙だった。



「そういえば、アスターさん」


 しばらくして、ふと思いついたことを尋ねてみることにした。


「何かね?」

「さっき父さんに、『シュヴァルには渡さないように』って言っていたわよね。あれはどうして?」


 するとアスターは目をぱちぱちさせる。


「そんなことを言っていたかね? 私は」


 本当に無意識だったのだろうか。それとも、惚けているだけなのだろうか。

 そこのところがよく分からない。


 ただ、私は確かにアスターのあの言葉を聞いた。それだけは間違いないことだ。


「そーいえば、そーんなこと言ってたわねー」

「リンディアまで! そんなことを言った覚えはないのだが……」


 どうやら、リンディアもあの発言を聞いていたようだ。それが分かり、私はホッとした。

 私の勘違いでなくて良かった。


「とぼけてんじゃないわよー」


 リンディアにそう言われたアスターは黙る。


「アンタも今は従者でしょー? 王女様に隠し事をするなんて、論外よー」


 暫し、沈黙。


 それから十秒ほど経って、アスターはようやく口を開く。


「……確かに、それもそうかもしれない。仕方ないね。話すとしようか」

「よーやく口を割る気になったのねー?」

「リンディア、止めてくれたまえ。その言い方はあまり嬉しくないよ」


 アスターは、パフェの器の底に残っていたクリームをスプーンですくい、口に含む。これで完食だ。彼は大きなパフェを、少しの苦もなく食べ終えた。


「何を話してくれるの?」


 パフェを食べ終えたアスターに、改めて尋ねた。

 すると彼は静かに返してくる。


「君の命を狙う者について、なんていう話題はどうかな」

「そんな話題!?」


 予想外だったので、思わず大きな声を出してしまった。


「君が先ほど問っていた『シュヴァルには渡さないように』の答えが分かるよ」

「あ、そうなのね」


 もはや悪い予感しかしないのだが……。


「では」


 こんな場面でも、アスターの表情には柔らかさがある。


「イーダくん——君の命を狙っているのは、シュヴァルなのだよ」


 アスターの「シュヴァルには渡さないように」という発言を聞いた時から、薄々感じてはいた。シュヴァルに何かがあるのではないか、と。


 だから、本来それほどショックを受けるようなことではないはずなのだ。


「……本当、に?」


 けれど、やはりショックだった。


 シュヴァルは長年父親の傍で働いていた人間だ。私は彼をあまり好きではなかったが、父親は彼を信頼していた。そして、今も彼を疑ってはいないだろう。


 そんなシュヴァルが、私を狙っていたなんて。

 彼が悲劇の根源だったなんて。


 ——できれば信じたくはない。


「もちろん。まぎれもない事実だとも。なんせ、かつて私に君の殺害を命じたのは、シュヴァルだったからね」


 冗談であってほしいと思った。ちょっとしたブラックなネタであってほしい、と。


 だが、アスターの目つきには真剣さがあった。

 今の彼の目は、どう考えても、冗談を言っている人間の目ではない。


「本当……なのね」

「その通りだとも。私は他人からよく変わっていると言われるが、主を困らせるような嘘をついたりはしないよ」



 その時。


「何よそれ!」


 リンディアが叫んだ。

 周囲の客が驚いてこちらを見たほどの、大声だった。


「どーいうこと!?」

「落ち着いてくれたまえ」

「は!? こんなこと聞かされて、黙ってられるわけがないでしょ!!」


 リンディアはいつになく取り乱している。


「あたしの父親が王女様を狙ってる張本人だって言うのー!?」


 取り乱しているリンディアの片腕を、アスターは強く掴んだ。日頃の彼からは想像できないような、豪快な掴み方である。


「リンディア。騒ぐと周囲に迷惑になるよ」

「どーしてそんな大事なことを黙ってたのよ!」


 彼女の口から発される声は鋭いものだった。


 だが、そうなるのも無理はない。突然こんな重大なことを打ち明けられたのだから、冷静でいられない方が普通だろう。


 事実、私も冷静でいることはできていない。


「それはすまないと思っているよ。だが、私は元々、以前の依頼人について口外することはしない主義でね」

「今回はそーいう問題じゃないでしょ!?」

「そう。想像以上に酷いことになってきたから、こうして話すことに決めたのだよ」


 しかし、アスターを責めても何も変わらない。彼を責めることに価値などない。


 今は「打ち明けてくれてありがとう」と感謝する方が良いのかもしれない、と思ったりもする。

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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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