表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜  作者: 四季
6.視察 (前編)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/157

59話 甘いもの命

 勝手に扉が開いた。


 またしても敵か!? と不安の波に襲いかかられる。が、その不安は、一瞬にして消えた。

 ベルンハルトの姿が視界に入ったからである。


 しかし、それから数秒して、彼の顔色がおかしいことに気づく。無表情であることは珍しいことではないが、顔つきがいつもの彼のそれとは少し違っているのだ。


「ベルンハルト!」


 すぐに彼へ駆け寄る。

 どことなく体調が悪そうな彼を、放ってはおけなかったから。


「顔色が悪いわ。どうしたの?」

「……気にするな」


 声をかけてみたが、ベルンハルトは小さく返しただけだった。


「あの女の子にまた襲われたのでしょう? 怪我はない?」


 すると、ベルンハルトは黙った。気まずそうな顔をしている。


「ベルンハルト?」

「……少しだけ」

「少しだけ、って……どういう意味?」


 そこへアスターが口を挟んでくる。


「少しだけ負傷した、ということかね?」


 彼は言いながら、ベルンハルトの方へ歩み寄っていく。


「ふむ。なるほど。確かに負傷しているね」


 アスターの視線はベルンハルトの背中へと注がれていた。

 何だろう? と思い、私もベルンハルトの背中へ目を向ける。すると、彼の背中に大きな傷があることが分かった。


「ベルンハルト! これは何!?」


 服が破れ、身も抉れている——そんな光景を見て、私は思わず声を発してしまった。


「怪我してるじゃない! それも、結構酷いわ!」

「……たいした怪我ではない」

「何を言っているの。とても軽傷には見えないわよ。早く手当てしなくちゃ」


 だが、ベルンハルトは首を左右に動かす。


「たいした怪我ではない」


 こんなところで頑固さを発揮するのは止めていただきたい。


「貴女は他人の心配より自分の心配をするべきだ」


 ——イラッ。


 私は、日々穏やかに過ごすよう心がけているつもりだ。

 だがしかし、こればかりは苛立ちを覚えてしまった。


「そういう話じゃないの!」


 自然と口調を強めてしまう。


「手当てしなくちゃ駄目でしょ!」


 またしても強く言ってしまった。だが仕方ないではないか、ベルンハルトが状況を分かっていないようなことを言うのだから。


 とはいえ、いきなりこんな風に強く出たら、少し引かれてしまったかもしれない。そう思い、近くにいるアスターを一瞥する。すると、彼は口を開いた。


「お、おぉ……。イーダくん、君はなかなか……気が強いのだね」


 アスターは引いたような顔をしていた。


 そこへ、リンディアが口を挟んでくる。


「ま、手当てしなきゃならないことは確かよねー」

「やっぱりそうよね?」

「傷を放置するのは感心しないわー」


 良かった。彼女は私が言おうとしていることを理解してくれそうだ。私がおかしいのではない、と分かり、自信が持てた。


「爆発音がしたわけだし、まー放っておいても人は来るでしょーけど? 取り敢えずフロントに電話かけましょーか」

「賢明な判断だね、リンディア。さすがは私の弟子だけある」

「アンタに言ってるんじゃないのよねー」

「そうかね。それは実に残念だ」


 リンディアは、客室内に設置されている電話の方へと、流れるように歩いていく。一つに束ねた赤い髪が、ふわりと宙を舞っていた。


「その……さっきはきつく言ってしまってごめんなさい。でもね、ベルンハルト。私は貴方に、無理をしてほしくないのよ」


 利口なリンディアがフロントに電話をかけている間、私はベルンハルトに話しかける。


「無理などしていない」

「本当に?」

「僕は嘘はつかない」

「……そうね。疑って悪かったわね」


 ベルンハルトはパッと嘘をつけるほど器用な人間ではない。それは十分理解している。


「一旦座るといいわ。立っていると辛いでしょう?」

「辛くなどない」

「もう! またそうやって強がる!」

「……すまない」


 それから私は、負傷しているベルンハルトを、室内のソファへ座らせた。強がってばかりいた彼だが、ソファに座った時には、少しホッとした顔をしていた。



 それからしばらくは、騒々しかった。


 小規模とはいえ爆発が起きたのだ、騒ぎになるのも無理はない。爆発が起きた原因を調査する者、周囲の客室に影響がないか確認する者などが、あっちへこっちへ、バタバタと行き来していた。


 アスターのランプによる打撃で沈んだ女性は、アスターが星王へ直接引き渡した。

 その時彼は、「シュヴァルには渡さないように」と言っていたのだが、その理由はよく分からない。



 その後、私は、一階にある喫茶店へ移動。


 ベルンハルトは傷の手当てがあるため抜けた。それによって、今は、リンディアとアスターと私という妙な三人での行動だ。


 私はストレートのアイスティー。リンディアはホットコーヒー。そして、アスターはこのホテル名物のマアイパフェ。


 一人一品、それぞれ注文した。


「アスターさんは本当に甘いものが好きなのね」

「うむ、その通り。甘いものがあれば、他には何も要らない」


 パフェを注文することができたアスターは、幸せそうな顔をしている。注文した、という事実だけでも嬉しいのだろう。


「そんなに好きなのね」

「本来、一番好きなものは綿菓子なのだよ。しかし、それ以外は駄目というわけではない。甘くて美味しければ、大体のものは食べられる」


 アスターが幸せそうな目つきで話していると、リンディアが口を挟んでくる。


「肥えるわよー」


 確かに、糖分の摂りすぎは体に良くないかもしれない……。


「いきなり失礼だね、リンディア。私とて馬鹿ではないよ。ちゃんと考えて食べているとも」

「けどアンタのご飯、大体甘いものじゃなーい?」

「そんなことはない。バランスのとれた食事だよ」

「嘘ねー。綿菓子だけで済ますところ、何度も見たわよー」

「……う」


 リンディアの発言に、アスターは言葉を詰まらせていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ