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イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜  作者: 四季
6.視察 (前編)

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54話 広くて綺麗な客室

 案内されたのは、ホテルの最上階——十二階にある一室。

 私が泊まるために用意されたその客室は、非常に広く、もはや住めそうな気さえする部屋だった。


「王女様とその従者のリンディアさんは、こちらのお部屋でお過ごし下さい」


 黒髪を後頭部で一つのお団子にまとめた女性従業員は、私たちを部屋に案内した後、そう言った。


「あの、待って。ベルンハルトとアスターが過ごすのは、ここではないの?」


 ふと気になったので尋ねてみる。すると女性従業員は、落ち着きのある静かな声で、「お二人には、別のお部屋をご用意しております」と答えた。


「男女は別、ということか」

「はい。そのように伺っております」


 ベルンハルトは女性従業員をじっと見つめていた。

 しばらくしてそのことに気がついたらしい女性従業員は、それなりに整った顔に、不安げな表情を浮かべる。


「……あの、何か?」

「いや、何でもない。気にしないでくれ」


 その時になって、ベルンハルトはようやく、彼女から視線を逸らした。彼が何を思っていたのかは、結局分からずじまいだ。


 ……もっとも、何も思っていなかったという可能性もあるのだが。


「では、我々の泊まる部屋へも案内していただこうかね?」


 何げに気が早いアスター。


「はい。それでは案内致します」

「それと、甘いものはあるかね? 少しばかりいただきたいのだが」

「え。甘いもの……ですか?」


 アスターの甘いもの攻撃が始まった。

 どうやら、彼はよほど糖分を欲しているらしい。


「洋菓子和菓子、どちらでも構わないのだが」

「承知しました。それ、後ほどお部屋へ運ばせていただきます。苦手な食材やアレルギーなどはございますか?」

「好きな食べ物は綿菓子だね」


 いや、好きな食べ物についてなんて聞かれてはいなかったと思うのだが……。


「綿菓子がお好きなのですね。承知しました」


 黒髪の女性従業員は、最初にアスターから話を振られた瞬間は、戸惑った顔をしていた。が、すぐに冷静さを取り戻し、きっちりと対応している。


 その切り替えの早さは、「さすが」としか言い様がない。久々に、心の底から感心した。


 凄いなぁ、と思いながら女性従業員の背を眺めていると、彼女がくるりと振り返った。


「それでは王女様。これにて、失礼致します」


 わざわざお辞儀までしてくれた。

 凄く丁寧だ。


「案内してくれて、ありがとう」


 私は軽く頭を下げて、感謝の意を述べた。


 これだけで気持ちがちゃんと伝わったのかは分からない。だが、何もせず何も言わないよりかはましだろう。仮にすべてが伝わってはいないとしても、少しくらいは感謝の気持ちを伝えられたはずだ。



 そして、リンディアと二人きりになった。

 なぜだろう。よく分からないけれど、気まずい。何を話せば、という感じだ。


 こういう時だけは、「もっと社交的な人間に生まれたかった」と思ってしまう。無論、そんなことを考えても無駄だと分かってはいる。だがそれでも、考えずにはいられない。


「綺麗な部屋ね、リンディア」


 外の見える窓の方まで歩いていっているリンディアに、声をかけてみた。


 当然勇気は必要だ。

 しかし、この程度なら、胃を痛めるほどの努力は必要ない。


「そーね」


 窓の外をぼんやりと眺めていた彼女は、くるりと振り返り、笑みを浮かべた。

 何も言わずとも強気であることが伝わってくる顔に浮かぶ笑み。それはとても爽やかで、どこか優しさも感じさせる。


「リンディアは空が好きなのね」

「……どーして?」

「だってほら、窓の外を見ていたじゃない」


 すると彼女は、ぷっ、と吹き出した。


「ちょっと、何それー?」


 まただ。また笑われてしまった。

 笑わせる気なんて、欠片もなかったというのに。


「やーね! 笑わせるのは止めてちょーだい! あー、おかしー」


 彼女が真剣に私を馬鹿にしているわけではない、ということは理解している。私の発言が偶然彼女の笑いのツボを刺激した。ただそれだけのことだ。


 だから、私が真剣になる必要だってない。


 ——ないのだけれど。


「私……何か変だった?」


 問わずにはいられなかった。


 もしも私に明らかにおかしいところがあるなら、どうにかしなくてはならない。一度そんな風に思った時から、質問せずにはいられなくなったのだ。


「おかしいところがあるなら、指摘してくれていいのよ?」


 するとリンディアは、さらに笑い出した。体をくの字に曲げて、笑い、笑う。


「え? え?」

「やーね! 王女様ったら、おっかしー!」

「リンディア? どういうこと?」

「そんなに真剣な話じゃないじゃなーい? なのに王女様ったら!」


 まさか、さらに笑われてしまうとは。


 しかし……そろそろどうでもよくなってきた。


 私は、笑わせるつもりのない行動で笑われることを、疑問に思っていた。どこがおかしいのだろう、と、不安で。


 けれども、今のリンディアを見ていて気がついた。何も真剣に考えるほどのことではないのだ、と。

 だから、これ以上この話題について話すのは止めることにした。


「ところでリンディア」

「なーに?」


 客室内に置かれている二人掛けのソファへ腰を下ろす。すると、リンディアもソファへ歩み寄ってきた。


「リンディアはどんな風に生きてきたの?」


 ふと気になったことを尋ねてみた。


 ……もっとも、深い意味などないのだけれど。


「へー。ちょっと意外だわー」

「え?」

「王女様があたしの人生にきょーみ持つなんて、しょーじき予想外よ」


 言いながら、リンディアは私のすぐ横に座る。座っていいか確認しない辺り、彼女らしい。


「で、何から聞きたいのかしらー」

「何から、って?」

「どーいう話を聞きたいのかと思ってねー」

「えっと……じゃあ、アスターさんとの出会いとか?」


 私はそれから、リンディアと色々話をした。

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