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イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜  作者: 四季
6.視察 (前編)

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51話 説教父さん

 数秒後、整備されていない道の向こう側から、二台の浮遊自動車が走ってくるのが見えた。一台はオルマリン号、もう一台はこれといった特徴のない浮遊自動車だ。


「案外早かったな」

「気づいて引き返してくれている途中だったからね」

「そうか」


 ベルンハルトとアスターはそんなことを話していた。


 二台の浮遊自動車は、私たちのいる辺りで動きを止める。そして、動きが止まるや否や、バン! と音をたてて扉が開いた。


 そこから出てきたのは、父親。


「イーダぁぁぁ!」


 彼は叫びながら駆け寄ってくると、その勢いのまま、私の体を凄まじい力で抱き締めた。

 胸元が急激に圧迫され、息が止まりそうになる。


「何がどうなってこうなったんだぁ!?」

「と、父さん……息苦しいわ……」

「何ぃ!? まさか、呼吸器がまずいのかぁ!?」

「ち、違……離して!」


 あまりに息苦しいので、調子を強める。すると、ようやく離してもらえた。やっと、という感じだ。私は急いで、呼吸を整える。


「で、何があったんだぁ? イーダの車がいなくなってることをシュヴァルが気づいてなぁ! びっくりしたぞぉ!」


 説明した方が良いのだろうが、生憎、私もいまいち状況を理解できていない。なので「どうしよう」と思っていたところ、傍にいたベルンハルトが口を開いた。


「途中で突然ルートが変わり、道から離れた。そしてその後、大勢の敵に攻撃された。恐らく、運転手も襲撃者の仲間だったのだろうな」

「攻撃ぃ!?」


 ベルンハルトは落ち着いている。その冷静さといったら、「もういっそ、ベルンハルトが星王になればいいんじゃ……」なんてことを、密かに考えてしまったほどである。


「何で星王より王女を狙うんだぁ!? おかしいだろぅ!!」

「僕は襲撃する側ではない。よって、敢えて王女を狙った理由など答えようがない」


 ベルンハルトが淡々と返したちょうどその時、父親の後ろからシュヴァルが姿を現した。


「でしょうね」


 シュヴァルがやって来たことに気づくと、父親は、今度は彼へ絡む。


「おいシュヴァル! 何でこんなことになるんだ!」


 ただ、先ほどまでとはノリが少し違う。

 ほんの僅かに星王らしさを取り戻した声色である。


「運転手くらいちゃんと選んでくれよ!」

「申し訳ありません、星王様。このシュヴァル、王女様を危険な目に遭わせてしまったことは反省しております」


 片手を胸元に添え、頭を下げるシュヴァル。


「チェックが万全でなかったこと、謝罪します」

「今後は気をつけるように」


 父親の発する声には硬さがあった。妙に厳しい声色だ。いつものはちゃめちゃな彼とは、雰囲気がかなり違う。

 今のような状態ならば、ある程度、立派な星王に見えるかもしれない。


「それでイーダ、怪我はないのかぁ?」


 父親はこちらへ視線を向けると、急にふにゃりと頬を緩める。


「えぇ……あ」


 最初は「怪我はない」と言いかけたが、遅れて、左足を負傷していることを思い出した。

 色々あって忘れていたが、一度思い出すと、痛みが再び蘇る。左足に、じんわりと鈍痛が広がってきた。


「そうだ。左足を怪我したみたいなの」


 静かに言うと、父親は目を剥く。


「何だってぇーっ!?」


 父親は、周囲に気を遣うことなどなく、木々を揺さぶりそうなほどの大声を発した。


 近くにいた私なんかは、「鼓膜が破れたらどうしよう」と不安になった。それくらいの、かなり大きな声だ。少なくとも、日頃の生活で聞くことはないようなものである。


「ベルンハルト! 何をしてるんだぁ!」

「ちょっと、父さん」

「怪我させるなんて、あり得ないぞぅ!」

「父さん、止めて。ベルンハルトは悪くないの」


 荒々しい声を出す父親を制止しようと、色々言ってみる。


「ベルンハルトのせいじゃないわ。私がおっちょこちょいだっただけよ」


 しかし、カッとなってしまっている父親を止めることは、容易ではなかった。


「すまない」

「従者だろぉっ!」

「申し訳ない」


 ベルンハルトは意外にも素直だ。


「しっかりしてくれよぉーっ!」


 だが、ベルンハルトが大人しいのを良いことに彼を責め続ける父親を、私は許せなかった。


 私が怪我をしたことは事実。しかし、そのすべてをベルンハルトのせいにするというのは違うだろう。

 生死が絡むような大怪我にはならなかったのだ。今はそれだけで十分ではないか。



 その時。


 私は、父親の後ろにいるシュヴァルがリンディアの方へ視線を注いでいることに、ふと気がついた。


 まだ少女とやり合っているリンディアを、鋭い目つきで見つめているのだ。


 ーー娘の戦いぶりを見守っているのだろうか?


 最初はそう思ったけれど、彼の様子を見ているうちに、そうではないような気がしてきた。私は、リンディアの方を熱心に見つめるシュヴァルの目を、さりげなく見ておく。


「今後は気をつけてくれよぉ!」

「もちろんだ」

「頼むぞぉ!」

「分かった」


 顔は向けず、横目でシュヴァルの様子を確認する。


「もちろんベルンハルトだけではないぞぉ! アスター!」

「わ、私かね?」

「そうだぁ! しっかりしてくれよ、大人だろぅ!?」


 父親は、まだ何やら喚いている。私が怪我したことを、よほど気にしているのだろう。


 心配してくれること——それ自体はありがたいのだが、こうして周囲の者たちに当たり散らすというのは、少々問題かもしれない。


 そんな風に思いながら、シュヴァルへと視線を向ける。

 すると、彼が珍しくまばたきするところが見えた。


 ぱち、ぱち、と二回ほどのまばたきである。


 ーー直後、リンディアの声。


「ちょっ、何よ! ここまできて逃げるってのー!? ホント狡いやつね!」


 何事かと思いリンディアの方を向く。すると驚いたことに、少女の姿が消えていた。


 あの少女は、ほんの十秒ほど前まではリンディアと戦っていたのだ。にもかかわらず、今付近にその姿はない。逃走したのだろうが……信じられない素早さだ。

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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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