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イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜  作者: 四季
6.視察 (前編)

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49話 迫るは、影

「ちょっと。何? 今の発言」


 リンディアは、黒服の運転手が発した「バレてしまった」というような主旨の言葉に、すかさず言及する。


「どーいうことよ」

「意味を聞いているのデスか? 深い意味なんてありマセン」


 黒服は、曖昧な返答をしつつ、アクセルを踏み続けていた。それにより、私たちを乗せた浮遊自動車は、どんどん怪しげな場所へと進んでいってしまっている。窓の外が薄暗くなってきた。


「取り敢えず停めなさいよ!」

「すみマセンが、それはできマセン」

「は!?」

「なぜなら、これが自分の仕事だからデス」


 そこまで話したところでリンディアは黒服の運転手を見切り、助手席のアスターに向けて言う。


「停めさせてちょーだい!」


 するとアスターは、ほんの少し面倒臭そうに「私がかね」と漏らす。が、太ももの上に置いていた銃器をすぐに抱えると、運転手へ銃口を向けた。


「停めたまえ」


 この至近距離から銃撃するつもりなのだろうか。


「それはできマセン。たとえ脅されたとしても、不可能デス」

「ほう、そうかね。では——」


 アスターの瞳に、鋭い輝きが宿る。


「さらば」


 彼は躊躇いなく引き金を引いた。

 銃声が響き、銃弾が運転手を貫く。


「……ひっ」


 私は思わず引きつった声を漏らしてしまった。


 情けないとは思う。けれども、銃撃をこんな間近で見たことなんて、これまで一度もなかったのだ。だから、仕方ないではないか。


 鼓膜が破れそうな音に、凄まじい衝撃。怖くないわけがない。



 ——それからしばらくして、車はようやく停まった。



 扉を開け、一番に車外へ出たのは、リンディア。


「一体、どーなってんのかしらねー」


 彼女は地面に降りると、辺りをキョロキョロと見回す。それに合わせて私も窓の外を見渡してみた。が、これといって特徴的なものはない。視界に入るのは、樹木や岩だけだった。


「リンディア、何か分かりそう?」

「いやーまったく分からないわー」


 私は内心溜め息をついた。

 リンディアが何も分からないなら、私に分かるわけがない。これからどうすれば良いのやら。


「一旦引き返す?」

「そーすべきよね。けど……」

「けど?」

「その凄いことになってる運転席をどーにかしなくちゃ、無理よねー」


 そうか。言われてみれば、その通りだ。紅に染まった運転席に座りたい者なんて、いるわけがない。


「それに、そもそも、運転できる人がいないんじゃなーい?」

「え、そうなの?」

「あたしもアスターも、許可証は持ってないわよー」


 私はすぐにベルンハルトの方を向く。その瞬間、彼は静かな声で「僕も持っていない」と言った。今から私が問おうとしていたことを、彼は既に察していたようだ。


「そんな! じゃあ戻れないじゃない!」


 黒服の運転手は、もはや運転などできない状態。そして、他に浮遊自動車を動かせる者はいない。ならどうしろと。


「落ち着け、イーダ王女」

「無理よ、落ち着けないわ。何が起こるか分からないのに」

「これだけ揃っているんだ、慌てなくていい」


 ベルンハルトは妙に冷静だ。

 何がどうなるか分からない、こんな状況だというのに。


「そ、そうよね。私が心配しすぎているだ……」


 ——刹那。


「っ!?」


 どこから飛んできたのか分からない銃弾が、浮遊自動車の扉に突き刺さった。


 窓も扉も防弾仕様になっているらしく、幸い、銃弾が車内にまで届くことはない。が、弾が扉に刺さった衝撃が、空気を震わせ、車体を揺らす。


 半分立ち上がったような体勢をとっていたため、予想していなかった揺れにバランスを崩してしまい、座席で腰を打った。


 それなりの勢いでぶつけたため、結構痛い——けれど、一番に思ったことはそれではない。


「リンディア!」


 彼女は車外にいる。今の銃撃に巻き込まれているかもしれない。


 すぐに頭に浮かんできたのは、こちらだった。


 もう誰も傷つけさせたくない。もう二度と命を失わせたりはしない。胸にそう誓ったというのに、もしリンディアが銃撃に巻き込まれていたら。考えたくはないけれど、この状況だからあり得る。


「大丈夫!?」


 車外へ出ようと、扉の方へ移動する——が、ベルンハルトに腕を掴まれた。


「今は出ない方がいい」

「……どうして止めるの」


 手には、リンディアから貰った棒付きキャンディ。それが視界に入るたび、外へ出ていきたい衝動に駆られる。しかし、ベルンハルトはそれを許してくれない。


「貴女が勝手に動くと被害が拡大する」

「なっ……」

「以前星王が撃たれた例を忘れたわけではないだろう」


 それを言われると、私には返す言葉がなかった。


 痛いほどに真実だったから。


「……それはそうだけど、でも! リンディアを放ってはおけないわ!」


 すると、助手席で待機しているアスターが、ははは、と笑った。


「イーダくんは優しいね。ただ、リンディアを心配することはないよ」

「アスターさん、そんな呑気に……」

「心配せずとも、あの娘は強い。ただの銃撃でくたばるような娘ではないよ」


 言いながら、アスターは扉を押し開ける。


「と言いつつも援護に出ちゃう!」

「へ?」


 アスターの妙な言動によって、脳内が疑問符だらけになってしまった。


「……わけだから、君の気持ちは分かるけどね」


 車から出る瞬間、アスターは小さくウインクした。

 恐らく、励まそうとしての行動なのだろう。それは察することができた。が、何とも言えない気分だ。


 車内にいるのが、私とベルンハルトだけになってしまった。


 人が減るたび、心細くなる。

 何かを失ったような、そんな感覚に襲われるのだ。


 けれど、それに負けているようではいけないのだろう。それでなくとも弱いのだから、せめて心くらいは強く持たなくては。


「イーダ王女」

「……ベルンハルト?」

「いつでも動けるよう、準備しておいた方がいい」

「えぇ、そうね」


 そう返すと、ベルンハルトは目をぱちぱちさせた。


「どうしたの?」

「……いや」

「何? 何か思うところがあるのなら、はっきり言って」

「……さっき、貴女の雰囲気が変わったような気がした」


 ベルンハルトの口から出たのは、予想の範囲から飛び出した意外な言葉。


「そう?」

「気のせいかもしれない。気にするな」


 そんな風に話していた時だ。

 ひび割れた窓ガラスの向こう側に、一つの影が覗いたのは。

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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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