45話 視察について
話している途中で昼食が運ばれてきたため、会話が一旦中断された。
「こちら、野菜炒めでございます」
最初に目の前へ出されたのは、緑色をした棒状の野菜アスパラガスと、白色の棒状の野菜アスポラガスを炒めた、シンプルな野菜炒め。
見るからにあっさりしていそうな料理だ。
「オルマリンイカのフライです」
こちらからは良い香りが漂っている。醤油のような香りがすることから察するに、既に味付けしてあるタイプのフライなのだろう。
「そして、パンとオイルでございます」
「ありがとう」
「どういたしまして。……では、失礼致します」
二品とパンだけという少量であることに、私は正直驚いた。もう少し色々用意されているものと思い込んでいたからである。だが、これは夕食ではなく昼食。だから、この程度の量が普通なのかもしれない。
「よし! 早速いただこう!」
「美味しそうね」
量は少なめ。けれども、味は悪くはないはずだ。
「イーダ! 欲しいのあったら言ってくれぇっ!」
「えぇ。ありがとう」
「確かアスポラガス好きだったよなぁ!?」
「いいえ、そんなことを言った覚えはないわ」
恐らく、父親はアスポラガスが嫌いなのだろう。嫌いだから、食べたくないから、私に押し付けようとしているに違いない。というのも、私は父親とアスポラガスについて話した覚えがないのだ。
「星王様はアスポラガスがお好きでないのです」
一人で色々考えていると、シュヴァルが口を挟んできた。その言葉を聞き、私は、「やはり」と納得する。
シュヴァルのことは、あまり好きでない。が、彼が父親のことをきちんと見ていることは確かだと思った。長年側近をしているだけのことはある。
「そっ、そんなことっ!」
「事実です。……でしょう? 星王様」
「うぅ……かっこ悪いことを暴露するなよぉ……」
「アスポラガス、昔からお嫌いでしたよね」
そんな風に話した後、シュヴァルは、改めて視線を私へと向けた。
「では。視察について、シュヴァルよりお話します」
アスポラガスやら何やらですっかり忘れてしまっていたが、視察の話をするところで止まってしまっていたのだった。
私はそれを、今さら思い出した。
「予定は一泊二日。一日目は星都を見て回った後、北へと移動します。そして二日目は、第一収容所へ視察に。その視察が終了した後、帰ってくることとなります」
シュヴァルは淡々とした調子で説明してくれた。
すると、私の背後に立っていたベルンハルトが口を開く。
「第一収容所、だと」
椅子に座ったまま振り返ると、ベルンハルトの動揺した表情が見えた。いつも冷静な彼だが、今は、目を見開いている。
「……あぁ。そういえば、あそこはお前の生まれ育った場所でしたね」
「イーダ王女をあんなところへ連れていくつもりか」
「はい。王女様も時には社会をご覧になるべきかと思い、このコースを選んだのですが、何か問題でも?」
シュヴァルはほんの少しも笑みを絶やさず、ベルンハルトへ言葉を返していた。大人の対応である。
「……いや」
ベルンハルトは言葉を飲み込む。
「お前としては、王女様に過去を見られるのは嫌でしょうが、そこは少し我慢して下さい。すべては王女様が社会を勉強なさるためなのです」
そこまで言って、シュヴァルは口角を持ち上げた。
「それとも——ベルンハルト、お前は同行しないでおきますか」
何やら嫌な感じの表情だ。笑みを浮かべているにもかかわらず、悪意しか感じ取れない。
「……いや、行く」
「そう言うと思っていました。忠誠心があって、何よりです」
ベルンハルトが低い声で答えると、シュヴァルは怪しげな笑みを浮かべたまま返した。そこへ、オルマリンイカのフライをガツガツ食べていた父親が口を挟んでくる。
「おぉ! ベルンハルトの生まれはあそこかぁ!」
その発言を聞いたベルンハルトは、父親へ、鋭い視線を向けた。そして、威圧するような低い声を発する。
「だから何だ」
ベルンハルトは自分が収容所生まれであることを気にしているのかもしれない。
……もっとも、罪人の息子なわけではないのだから、そんなに気にすることもないと思うのだが。
「いやいや! ただ単に、良かったなぁって言いたかっただけだ!」
「……は?」
「イーダに対してな!」
急に話がこちらへ来た。
「仲良しなベルンハルトの故郷へ行けるなんて、ラッキーだよなぁ」
「えぇ。そうね」
確かに、良い機会だとは思う。第一収容所へ行けば、ベルンハルトについてもっと知ることができるかもしれないから。彼の過去には、少しばかり興味がある。
「ベルンハルトのこと、もっと知ることができたら嬉しいわ」
するとベルンハルトは、曇った顔つきで言う。
「……イーダ王女」
「え。何?」
「僕は知られたくない」
その瞳には、いつものような鋭さはなかった。雨が降る直前の空のように、どんよりしている。
「あんなところ、貴女には見せたくない」
「どういう意味なの?」
私はベルンハルトの方を向き、尋ねた。
それに対しベルンハルトは、五秒ほど黙った後、重苦しく口を開く。
「……幻滅される気しかしない」
どうやら、それを気にしていたようだ。他人からしてみれば何も思わないようなことであっても、本人からすれば気になるものなのかもしれない。
「しないわよ、幻滅なんて」
私ははっきりとそう返した。
どんなところで生まれていたって、どんなところで育っていたって、ベルンハルトがベルンハルトであることに変わりはない。だから、幻滅なんてするわけがない。
「ベルンハルトはベルンハルトだもの」
すると彼は目を見開いた。
曇り空のようだった瞳が、輝きを取り戻す。
——刹那。
「おぉ! 名言だなぁ、イーダ!」
父親が余計なことを言ってきた。
面倒臭い流れになる気しかしない。
「ひゅーひゅー」
「王女様はベルンハルトと仲良しですね」
「ひゅーひゅーひゅーひゅー」




