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イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜  作者: 四季
15.帰還した後

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147話 私にとっては

「ベルンハルトくんがそう言うなら……もうしばらく大人しくしておくことにするかな」


 リンディアの制止は聞かなかったアスターだが、ベルンハルトの制止には従い、起こそうとしていた体を横にする。


「ちょ、ベルンハルトの言うことは聞くわけー!?」

「ベルンハルトくんが言ってくれているからね」


 アスターの発言に、リンディアは眉を寄せた。

 若干苛立っているように見える。


「は? あたしの意見は聞かなかったくせにー!」


 両手をそれぞれ腰に当て、圧をかけるように発するリンディア。しかし、アスターはというと、まったく動じていない。


「いや、リンディアが言うのは気遣いだろうと思ったのだよ」

「は? ちょ、なーに言ってんのよ」

「気遣いに甘えるわけには……いかないからね」


 アスターはベッドに横たわりながら、すぐ近くにいるリンディアへ微笑みかける。

 唐突に微笑みかけられたリンディアは、状況を飲み込めていないような、きょとんとした顔をしていた。


「ところでリンディア」


 穏やかに微笑みながら、口を開くアスター。


「……娘と妻、どちらが良いかね?」

「え」


 想定の範囲を大きく出たアスターの発言に、さすがのリンディアも戸惑いを隠せなくなっている。


「君がシュヴァルの娘であること分かっているよ。ただ、私はいずれ、君を引き取りたい」

「は……?」

「娘としてでも、妻としてでも、形は問わない。共に暮らせるなら、ね」


 これは遠回しなプロポーズなのだろうか?


 ……いや、娘という選択肢がある時点でプロポーズではないか。


「ちょ、どーしたのよ? しょーき? いきなりそんなこと言って、どーかしてるわよ」

「また共に暮らしたくてね」

「ろーごのお供をしろーとでも言いたいわけ?」


 怪訝な顔で尋ねるリンディアに、アスターは控えめな声で返す。


「まぁ……そんなところだね」


 正直、意外だ。

 アスターがこんなことを言い出すとは思っていなかった。


 だが、このような展開を意外に思っているのは、私だけではないはず。ベルンハルトも、リンディアだって、驚き戸惑っているに違いない。


「ははは。どうかな?」

「おっ断りよ!」


 リンディアはきっぱり述べた。


「な! 即答はさすがに酷くないかね!?」


 大袈裟に、ショックを受けたような顔をするアスター。

 だが、こればかりは私でも分かった。今のこの表情は、意図的なものだと。自然と生まれた表情ではないと、簡単に判断できた。


「言っておくけど、あたしは、アンタのろーごの世話をする気はないわよー」


 リンディアは眉を寄せたまま、日頃より低い声で言った。


「おぉ……冷たい……」


 訝しむような顔をされ、しかも低い声で言葉を返されたアスター。

 彼は、「残念だ……」とでも言いたげに、そんなことを漏らしていた。


「甘やかす気はないから」

「分かっている! それは分かっているとも!」


 なんだかんだでリンディアとアスターの息がぴったりだと感じるのは、私だけなのだろうか。


「ま、でもー」

「ん?」

「どーしてもって言うなら、考えてあげてもいーわよ」


 そう述べるリンディアの頬は、微かに紅潮している。


「ま、もし一緒にいても甘やかしはしないけどー」


 頬を林檎のように染めているリンディアに向かって、アスターは大きめの声を発する。


「本当かね!? いいのかね!?」


 大きめの声を発するアスターは、今にも起き上がりそうな勢いをまとっている。


「……甘やかしてもらおーって魂胆じゃなーいなら、考えてあげないこともないけど」

「もちろん! 甘やかしてもらおうなんて、欠片も思っていない。私にとっては、君がいてくれることそのものが幸福だからね!」


 なんだかんだで上手くいきそうなアスターとリンディアを眺めていると、何だか温かい気持ちになって、つい笑みをこぼしてしまった。


「イーダ王女?」


 ベルンハルトは私が笑っていることに気がついたらしく、首を軽く傾げつつ声をかけてくる。


「何を笑っている」

「え」

「面白いことがあったわけでもないのに、笑っている。こんなに不思議なことはない」


 真顔。ベルンハルトは真顔だ。

 恐らく彼は、私が笑みをこぼしていたことを、心から不思議に思っているのだろう。


 だが、私からしてみれば、ベルンハルトの思考も不思議なものである。


 もちろん、面白い時に笑う、という発想自体は分かる。しかし、彼は「面白い時以外に笑うのはおかしい」と考えているようで。そこは少し理解できない。


 安堵した時だとか、ほっこりした時なんかに、ついつい笑みをこぼしてしまう。

 それは、何ら珍しいことではないはず。


 ……個人的には、そう思うのだが。


「笑うのは面白い時だけじゃないのよ、ベルンハルト。心温まった時なんかも、笑みをこぼすことはあるの」


 改めて説明するというのは、少しばかり恥ずかしさがある。


「そうなのか?」

「えぇ」

「では、イーダ王女は心温まっていたのだな」


 ベルンハルトは案外素直。

 説明すれば理解してはくれるようだ。


「そうよ。仲良しなリンディアとアスターさんを見ていたら、ね」


 私はそう言った。


 これは本心だ。

 リンディアとアスターがなんだかんだで良い雰囲気になっているところを見ると、とてもほっこりする。


「なるほど。……だが」


 一度そこで言葉を切る。

 そして、少し間を空けて、続けるベルンハルト。


「心からの謝罪が、まだない。それは問題ではないのか」


 真面目過ぎる発言に、不覚にも、一瞬吹き出しそうになってしまった。


「もう怒ってはいないみたいだし——まぁいいんじゃないかしら」

「まともな謝罪もなしで、納得できるのか」

「いいのよ。そもそも私、謝罪してもらいにここまで来たわけじゃないもの」


 私としては、リンディアが怒っていないならそれだけで十分なのである。


「それはそうだな。だが! 僕は納得できない。身勝手な言動でイーダ王女を不安にさせたのだから、もっときちんと謝るべきだ」


 今のベルンハルトは、まるで、真面目を練って固めたかのよう。


「いいのいいの!」

「良くない。僕は納得できない」


 リンディアの方へ歩き出そうとするベルンハルトの腕を掴む。そして「今は二人にしてあげた方がいいわ」と述べる。それに対してベルンハルトは、納得できていない顔。何か言いたげな表情だ。しかし、足はきちんと止めてくれている。


「……邪魔しないでくれ、イーダ王女。僕はただ、貴女のためになることをしたいだけだ」

「ならここにいてちょうだい!」

「どういうことだ」


 リンディアとアスターは二人の世界。もはや、私などが入っていく隙はない。

 だからこそ、ベルンハルトにはここにいてほしい。


「何も、わざわざあっちへ首を突っ込むことはないわ」

「そうなのか」

「今は……ベルンハルトは私の傍にいて」

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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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