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イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜  作者: 四季
15.帰還した後

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145話 久々に?

「シュヴァルの……罰を軽くした件か?」


 怪訝な顔をしつつ、ベルンハルトは尋ねてきた。


 彼はまだ、話を飲み込みきれていないのだろう。

 無理もない。当事者である私でさえ、この状況を理解しきれていないのだから。


「えぇ」


 一度ベルンハルトへ視線を向けた。しかし、すぐに視線を下ろしてしまう。憂鬱な気分を振り払えなくて。


「リンディアだって、お父さんであるシュヴァルが処刑されるなんて嫌なはずなのに……」


 父親が処刑されて何も感じない娘などいないはずだ。いや、もしかしたら稀にはいるのかもしれないが。しかし、そう多くはないだろう。


 だから、シュヴァルへの罰を軽くすることは、リンディアのためにもなると思っていた。


「……違うのかしら」


 だが、今やもう、よく分からない。


「ねぇ、ベルンハルト」


 考えれば考えるほど混乱する。こんな状態では、自分で悩み続けても、何も変わらないだろう。

 そう思ったから、ベルンハルトに聞いてみることにした。


「何だ」

「私がしたことは、間違っていたの?」


 ベルンハルトの目をじっと見つめる。すると彼は、ほんの少し目を伏せた。それから、ゆっくりと口を開く。


「いや。べつに間違ってはいないと思う」


 彼の声は淡々としている。

 感情的でないところが、今の私にとってはありがたい。


「多少優しすぎる気はするが、それが貴女の選択ならば間違いではないだろう」


 ベルンハルトは私を肯定してくれた。

 それはとても嬉しくて。


 けれど、このままではリンディアとの関係は気まずいままだ。


「……ありがとう、ベルンハルト」

「気にすることはない」


 礼を述べると、彼は首を左右に振った。


「そうだ! 私、リンディアに謝らなくちゃ。どうすればいいと思う?」

「それは自分で決めろ」


 ばっさりいかれてしまった。


「そ、そうよね! 頼りすぎは良くないわよね!」

「貴女の人生は貴女が決めるべきだ。……僕もそうした」

「僕も、って?」


 思わず尋ねてしまう。

 それに対して彼は、「敢えて聞くなよ」というような顔をした。


 しかし、答えてはくれる。


「貴女に仕えると決めた。それが、僕の選択だ」


 なるほど、と思った。


 オルマリンを敵視している環境で育った彼にとって、星王家の人間に仕えるという選択は、とても大きな選択だったのだろう。


 そこには、私などにはとても想像できないような苦悩があったはず。


「……ありがとう、ベルンハルト」


 分岐点に達した時、どちらの道を選ぶのか。それを決められるのは、自分自身しかいない。


「私、会いに行くわ! リンディアに!」


 フィリーナとだって、話せば分かり合えたのだ。リンディアとだって、きっと理解し合える。誤解があったとしても、今はすれ違っていても、きちんと話せば分かり合えるはずだ。


「行くのか」

「えぇ!」


 今、私はやる気に満ちている。


 きっとできる! きちんと話せる!


 根拠はないが、自信だけはあるのだ。


「リンディアがどこにいるのか、分かっているのか?」

「いいえ。分からないわ」


 すると、ベルンハルトは苦笑する。


「しっかりしてくれ」


 確かに、やる気だけじゃ意味がないかもしれないわね……。


「だが、恐らくはあそこだろう」

「あそこ?」

「アスターのいる部屋だ」


 確かに! そこへ行っていそうな気がする!


 ……少し単純かもしれないが。


「分かった! アスターさんのところへ、行ってみるわ!」

「場所、分かるのか?」


 言われて気がついた。今アスターがいる部屋の場所は知らないということに。


「……分からないわ」

「仕方ない。僕が案内しよう」

「ありがとう!」


 何だかんだ言いつつも、ベルンハルトはいつも私に協力してくれる。困った時には、いつだって手を貸してくれる。彼は、本当にありがたい存在だ。



「ここだ」


 歩くことしばらく、ベルンハルトは足を止めた。


「ここが、アスターの部屋」

「へぇ……こんなところだったの」


 これといった装飾はない扉だ。この感じだと、部屋も普通の部屋なのだろう。扉を見ただけですべてを判断できるとは思わないが、それほど広い部屋でもなさそうだ。


 ベルンハルトは周囲を見回す。

 しかし、彼の目が人を捉えることはなかっただろう。なぜなら、本当に誰もいなかったから。私も一応見回したが、人の姿を捉えることはできなかった。


「おかしいな」


 首を傾げるベルンハルト。


「いつもなら、扉の近くに人がいるはずなのだが」

「見張り?」

「あぁ。そんなところだ。これまで覗きに来た時は、ほぼ毎回、誰かが立っていたのだが」


 休憩か何かだろうか。


 いや、これまでいつも誰かがいたというのなら、その可能性は低いだろう。

 今日から休憩が導入された、なんてことは、さすがにないだろうし。


「取り敢えず入ってみるか」


 言いながら、ベルンハルトはノブを掴む。


「開いているかしら」

「開けてみれば分かる」


 彼は小さく言って、掴んだノブを回した。ノブは何事もなかったかのよう回る。そして、扉が開いた。


「入ろう」

「えぇ。そうね」


 ベルンハルトは部屋に入っていく。私は彼の後ろについて、恐る恐る入室した。



 赤い髪が視界に入る。


 ベルンハルトが言った通り。リンディアは、やはり、アスターのところへ行っていたのだ。


 入り口に背を向けるようにして椅子に座っているリンディア。彼女は私たちが入室したことに気づいていないようで、特に反応しない。


「何をしている」


 一番に口を開いたのは、ベルンハルト。


「……っ!?」


 その声でようやく気がついたらしく、リンディアは振り返った。

 水色の水晶みたいな瞳には、まだ涙の粒が残っている。


「……あ、あらー。ベルンハルト? なーにしに来たのよ」


 リンディアは手の甲で、目もとを慌てて拭う。

 その動作は彼女らしくない。が、とても女性的だ。案外似合う。


「イーダ王女が、お前と話したいと」

「あらそーなの?」

「だが、まずは謝れ」


 きっぱり述べるベルンハルト。いきなり謝罪を求められたリンディアは、眉をひそめる。


「は?」

「勝手に怒り飛び出したことを、イーダ王女に謝れ」


 ……え。


 そういう話をしに来たわけではないのだが。


「どーしてアンタに命令されなきゃなんないのよー」

「従者が主に当たり散らすのは問題だ」

「は? アンタはかんけーないじゃなーい。出てこないでちょーだいよ」


 リンディアは私の存在には気がついていないようだ。彼女はベルンハルトだけを見ていた。


「関係は大いにある!」


 ベルンハルトが調子を強める。

 攻撃的な口調だ。


「どーこがよー」

「イーダ王女は僕の主だ!」


 まずい。

 喧嘩が始まりそうな予感。


「主を落ち込ませ、しかも謝りもしないような者を、イーダ王女の傍に置いておくわけにはいかない!」

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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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