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イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜  作者: 四季
2.従者たち

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13話 赤い髪のリンディア

「なら……普通に話させてもらうわね」


 敬語でなくてもいい、とのことなので、取り敢えず普通に話すことにした。本人がそれでいいと言っているのだから、問題ないのだろう。


「それで、貴女は一体?」


 すると、大人びた彼女は、にこっと華のある笑顔を作って口を開く。


「あたしの名前はリンディア・リンク。これからよろしくお願いするわねー」


 赤色の長い髪が印象的な彼女——リンディアは、大人びた顔立ちだ。しかし、その顔に浮かぶ表情は、非常に明るさのあるものである。


「リンディアさんというのね」

「あー、ほらほら。さん付けなんてしなくていーわよ」

「なら……リンディア?」

「そうねー。それがいいわ。それでお願いするわ」


 リンディアは付近に置かれている椅子を発見すると、何の躊躇いもなく腰掛けた。しかも、堂々と足を組んでいる。女性が人前でとる格好とは到底思えないような座り方だ。


「あ、そーだ。あたし、従者になったのよ。よろしくねー」


 やはりか。

 シュヴァルが言っていた「従者もどき」とは、やはり彼女のことだったようだ。


「こちらこそ、よろしくお願いします」

「さすがは王女様ねー。丁寧でびっくりするわ」


 私は改めてリンディアへと視線を向ける。


 彼女の服装は独特なものだった。

 灰色の軍服のような上衣に、脚のラインの出る黒いズボン。そして、膝までのブーツを履いている。ちなみに、黒いズボンの裾はブーツの中へ入れてあるため、ブーツが非常に見えやすい状態だ。


「ところでイーダ王女。貴女の周りって、寂しいのねー」

「……どういう意味?」

「あ、誤解しないでちょうだいね。悪い意味じゃないのよ。ただね、この星の王女ともあろう人に、護衛の一人もついていないことに驚いただけなのよー」


 リンディアの口調は爽やかだ。


 ただ、ほんの少しだけ毒気を感じるような気もするけれど。


「ま、あたしとしては、その方がやりやすくて良いけどねー」


 一つに束ねた長い髪を色っぽく掻き上げる仕草が印象的だ。


「これから貴女が私を護ってくれるの?」

「そーよ」

「あの……私の近くにいると危険だわ。何があるか分からないもの。だからどうか、あまり近づかないで」


 するとリンディアは、急に眉間にしわを寄せた。


「ちょっとー。何よ、それ。もしかして、あたしのこと信じられないのー?」


 彼女は椅子からすっと立ち上がると、流れるような足取りで私の方へと歩いてくる。そして、その華のある顔を、私の顔へとぐいっと近づけてきた。


「女だから弱いなんて思っていたら、大間違いよ」


 リンディアの顔から笑みが消える——しかし次の瞬間には、彼女の顔はそれまでと変わらないものに戻っていた。


「ま、心配しなくて大丈夫よー。あたしはイーダ王女を怪我させたりしないから」


 言いながら彼女は、太ももに取り付けてあるホルスターから銃を抜く。女性の手に似合う小さめの拳銃で、全体が赤く塗られているものだ。


「……銃をよく使うの?」

「そーよ。こう見えてもあたし、オルマリン杯で優勝したこととかあるのよねー」


 何やら自慢が始まった。


 オルマリン杯で優勝するということがどのくらい凄いことなのか、私にはよく分からない。ただ、オルマリンの名がついているということは、それなりに大きな大会なのだろう。ということはやはり、結構凄いことなのか……。


 私は返答を返せぬまま、そんなことをぐるぐる考えてしまう。


「何なら腕前を見せてあげてもいーわよ。イーダ王女が『お願い、見せて』って頼んでくれるな——」

「随分上から目線だな」


 リンディアの言葉を遮るように聞こえてきたのは、ベルンハルトの声。


「な、何よアンタ! いきなり現れて!」

「いや、少し前からここにいたが」


 まったく気づかなかった……。


「気づかないわよ! そんなの!」

「僕にさえ気づけないような者は、従者には向いていない」

「なーによ! その言い方!」


 ベルンハルトに挑発的な態度をとられたリンディアは、怒りを露わにしながら、彼へ近寄っていく。


「アンタ一体誰なのよ?」

「ベルンハルトだ」

「名前を聞いているわけじゃないのよ! 何者かーって、聞いてるの!」

「何者か? 僕はベルンハルト・デューラーだ」


 また名前を言うのか……。


 私は内心そう呟いてしまった。


 二度目の問いの答えも、一度目の答えとさほど変わらないものだったから、リンディアはきっと怒るに違いない。


 そんな風に思ったのだが——意外にも、彼女は笑い出した。


「あっはははは! あは! あははははっ!」


 突然大笑いし始めた。まるで、何か悪いものを食べてしまったかのようだ。


「そっか! そーいうことね!」


 リンディアは信じられないくらい派手に笑っている。何がそんなにおかしいのか不明だが、彼女的には笑えて仕方がないのだろう。


「アンタが噂の、蛮勇の息子ねー?」


 あっけらかんと言い放つリンディアに、ベルンハルトは鋭い視線を向ける。


「……蛮勇、だと」

「だってそーじゃない。確かアンタのお父さん、反乱起こして処刑されたんじゃなかったっけー?」


 不快の色を滲ませるベルンハルトを見て、リンディアはニヤニヤしている。ベルンハルトの反応を楽しんでいるようにも見える顔だ。


「反乱? 処刑? 一体、何のことなの?」


 話がよく分からないので尋ねてみた。

 するとリンディアは、赤い髪を手でふわりととかしながら、笑みを浮かべて答えてくれる。


「あれ、知らないのー? なら教えてあーげるーわよっ。ベルンハルト・デューラーのお父さんはねー、第一収容所で反乱を起こしたの。けど鎮圧されちゃって、結局処刑されたのよー」


 話の内容自体は、決して明るいものではない。だが、リンディアの口調は、軽やかで明るいものだった。


「そんなことが……」

「反乱を起こすなんて、ばっかよねー」


 リンディアは片手で頭を掻きながら、呆れたような声を出す。


「大人しくしとけば、それなりに生きていけたってのにー」

「それ以上話すな!」


 突然、ベルンハルトが叫んだ。


 彼は憎しみのこもった目で、リンディアを睨んでいた。


 その形相は、まるで鬼のよう。

 この世のすべてを憎んでいるかのような、そんな顔つきをしている。

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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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