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イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜  作者: 四季
14.戦い (後編)

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132話 いつまでもそんな

「ちょ、アスター……何して……」


 リンディアは小さく漏らす。


 シュヴァルの拳銃から放たれた弾丸はリンディアを狙っていた。その数発の弾丸は、動けないリンディアに突き刺さるものかと思われたのだが、そうではなく。彼女を庇ったアスターの背に、命中した。


「なるほど、そう来ましたか」


 シュヴァルの口元に浮かぶのは、黒い笑み。世界を飲み込んでしまいそうなほど邪悪な雰囲気のある笑みだ。


 弾丸を浴びたアスターは、リンディアにもたれかかるようにして倒れ込む。


「ちょ、アスター!? 何なの。どーして!?」

「……リンディア」

「は?」

「君は……私の大切な人なのだよ」


 この時ばかりは、さすがのリンディアも嫌がるような行動はしていなかった。恐らく、動揺するあまり、嫌がる余裕もなかったのだろう。


「リンディアは私にとって……娘のような存在。綿菓子と同じくらい……好きでね」

「……何なのよ、それ」

「だから……君が撃たれるところなんて見たくはない」


 その先、アスターが言葉を発することはなかった。


「ちょっと、アスター。どーなってるの? 生きているわよね? 返事くらいなさいよ!」


 リンディアは調子を強める。

 その顔には、いつになく、焦りの色が浮かんでいる。


 どうすればいいのだろう。やはり私には、何もできないのだろうか。


 もしかしたら、それが真実なのかもしれない。

 揺らぐことのない、変えられない、一つの真実なのかもしれない。


 けれど私は、その真実を、何の抵抗もなく受け入れたりはしたくないのだ。


 確かに、私は弱いかもしれない。腕力勝負になれば確実に負けるだろうし、勇敢な心を持っているわけでもないし。


「シュヴァル、貴方……!」

「何か仰いましたか、王女様」


 でもね。他人を理不尽に傷つけることを躊躇しないような者に、怯えてはいたくない。そんな心ない者に負けるような、弱い人間ではありたくないの。


「アスターさんは友人だったのではないの!?」


 もはや悪魔と言っても過言ではない、シュヴァル。そんな彼に向けて言葉を発するのは、やはり、どうしても緊張する。何かされたら、だとか、攻撃してこられたら、だとか、そういうことばかり考えてしまうのだ。


「友人? 何を馬鹿げたことを」

「……違うの」

「馬鹿なことを言わないで下さい。彼とて結局は、一つの駒に過ぎません」


 シュヴァルの瞳には、もはや、人の面影はなかった。


 彼の瞳に宿るは、狂気。

 己の願望を成就させる。ただそれだけしか、彼には残っていないのだろう。


「駒ですって」

「そう、我が願いを叶えるための駒なのです」

「よくそんなことを言えるわね……!」


 ただ唇が震えた。


 他人を物のように扱うその姿勢が、どうしても許せなくて。


「事実ですから」

「心ないにもほどがあるわ!」


 私は思わず声を荒らげてしまった。


「邪魔な存在である私を狙うということは、まだしも分かる。でも、仲間であった人まで傷つけるなんて、意味不明よ! そんなのは、絶対に許されることではないわ!」


 偽善と笑われるだろうか。


 いや、べつに笑われてもいい。


 許せないものは許せないのだ。


「貴女から許しを得る必要などありません」

「もう止めなさいよ! こんなこと!」


 あの春の悲劇は、もう繰り返させたりしない。


「喚くなど品がありませんよ、王女様」


 終わらせるの。


 こんなこと、ずっと続けても悲しみしか生まれない。

 そこに意味なんてない。


 命は奪われ、悲しみだけが生まれる。そんな行為は、無意味だ。


「そう喚かずに。取り敢えず、大人しくしてはどうです」

「大人しくなんて、無理だわ」

「いつも臆病だったではありませんか。貴女はあの頃のように、ただ怯えていれば良いのです」


 そう、私は臆病だった。


 心身共に強靭とはとても言えない状態で、いつもどこか怯えていた。

 強さ、なんて言葉からはほど遠い人間で。


 けれど、それはもう昔の話。


 今だって強くはない。

 ただ、迷わずに前を向くことはできるようになった。散々巻き込まれてきたのだ、今や怖いものなんてそう多くはない。


「強くなったと勘違いするのは止めなさい、王女様。貴女は所詮、か弱き王女なのです。隅で怯えて震えているのが、貴女に相応しい姿。いつまでもそんな貴女でいて下さい」


 ——刹那。


 ベルンハルトがシュヴァルに飛びかかった。

 背後から飛びかかられ、さすがのシュヴァルも反応しきれない。ベルンハルトに押し倒されるような形で、シュヴァルは前向けに倒れた。


「なっ……!」


 床に押さえつけられる形になったシュヴァルは、珍しく慌てた様子で身をよじる。少し遠心力をかけて手足を動かしたり、腰を上げてみたりしている。


 しかし、その程度で逃すベルンハルトではない。

 彼はシュヴァルの手や足をからめ捕り、徐々に動きを制限していく。


「ぐ……」

「お前はイーダ王女を分かっていない」

「……離しなさい、野蛮人」

「イーダ王女はか弱いが、今や、お前が思っているほど臆病ではない」


 いつもはナイフを使うベルンハルトだが、今は、珍しく素手でいっていた。

 表情は冷ややか、声は静かで淡々としている。


「離せと言っているでしょう!」


 シュヴァルはまだ諦めていないようで、身を振り、手足をばたつかせて、激しく抵抗している。が、ベルンハルトは既に、シュヴァルを完全に押さえ込んでいる。


「離せと言われて離すのならば、初めから捕らえてはいない」

「こんな乱暴なことをして、許されると思っているのですか!」


 シュヴァルはらしくなく声を荒らげる。


「一般人になら許されないだろう。だが、お前が相手なら話は別だ。裏切り者だからな」

「オルマリン人でもないくせに、調子に乗らないで下さいよ!」

「そんなことは関係ない」


 絡み合うベルンハルトとシュヴァルの様子をじっと見ていた時、またもや足音が聞こえてきた。


 今日はこういうパターンばかりね、なんて思いつつ、警戒する。新手の敵かもしれないから、油断はできない。


 だが、その正体はすぐに明らかになった。


「友が来たぞ! ベルンハルトッ!!」


 その正体とは、以前ベルンハルトと対決した男性——カッタッタだったのだ。

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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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