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イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜  作者: 四季
14.戦い (後編)

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129話 そういう人だからなのだろう

 リンディアの下半身はまだ動かない。だがそれでも、彼女は恐怖心を抱いてはいない様子だ。


「貴女の射撃、非効率的です」

「……何とでも言ってればいーわよ」


 ミストはステッキの先端をリンディアへ向ける。


 先ほどベルンハルトや私がやられたような攻撃を、今度はリンディアにやるつもりなのだろう。


 しかし、リンディアの方が早い。

 リンディアが放った緑色の光が、ミストの手からステッキを吹き飛ばす。


「……っ!」


 ミストの手から離れたステッキは、私の頭上を越え、カランと音をたてて床に落ちた。

 こんなに飛ぶのか、という感じだ。


「……まーったく、非効率的よねー」


 武器を失い、一瞬表情を揺らしたミスト。そんな彼女に、リンディアは挑発的な言葉を投げかける。


「躊躇できないなんて、非効率的ー」


 リンディアの口角が僅かに持ち上がる。


 ——そして。


 構えている赤い拳銃の引き金を、リンディアは、一切躊躇わずに引いた。

 細い緑色の光が飛ぶ。


 一発目、ミストは右へ飛び退いて避ける。着地したところへ、迫る二発目。今度は逆に左へ飛び、転がるように着地。ミストは軽々と二発目もかわした。が、ほっとする間もなく三発目が襲いかかる。


「くっ……!」


 ミストは素早く立ち上がり、リンディアが放った三発目から、すれすれのところで逃れる。三発目は、ミストの一つに束ねている髪の先を、ジュッと焦がした。


「これもかわすなんて……なかなかやるじゃなーい」


 クスッと笑いつつ述べるリンディア。

 彼女が挑発しようと敢えて言っていることは、誰の目にも明らかだ。


「……これはどーかしらねー」


 余裕のある笑みを唇に浮かべつつ、リンディアはまた引き金を引く。


 一撃目は、ミストの頭の数センチ右を通過。

 ミストが動けば当たっていたかもしれない。そういう意味では、じっとしているというミストの判断が功を奏したと言えるだろう。


 だが、その二三秒後。

 リンディアが放った二撃目が、ミストの右肩を捉えた。


「……くっ!」


 飛び散るは、赤き飛沫。


 ミストは、右肩を抱え、数歩下がる。


「あらー、ごめんなさーい」

「この程度で止められると思わないで下さい」

「あたし非効率的な射撃だからー……外しちゃった」

「ふざけたことを……!」

「ごめんなさいねー。ほんとーは一撃で仕留めるつもりだったのにー」


 テヘッという感じで、立てた人差し指を唇に当てる。


 ……分かる、わざとだ。


 リンディアは、ミストを怒らせるために言っているのだ。

 それ以外は考えられない。


「あたしー……しょーじき、近距離戦は苦手なのよねー。だ、か、ら」


 片側の口角をくいと持ち上げるリンディア。


「苦しめちゃって、ごめんなさーい」


 リンディアの放った光が、ミストの眉間を貫いた。

 ミストは何も言わず、床に倒れる。力なく崩れ落ちた彼女は、滑らかな肌が妙に映えて、陶器人形のようだった。


「……終わったか」


 ベッド付近に座り込んでいたベルンハルトが、立ち上がりながら言う。


「はーい、おしまーい」


 リンディアは体の前で片手をひらひらさせていた。

 そんな彼女に対し、ベルンハルトは述べる。


「なかなかのものだな」


 珍しく、ベルンハルトがリンディアを褒めた。私にとっては、そこがかなり衝撃だった。


 いや、ベルンハルトは正直者だ。良い意味でも悪い意味でも、嘘はつけないタイプである。だから、良いと思えば褒めるものかもしれない。


 ただ、それでも、ベルンハルトがリンディアを褒めたことは大きな驚きであった。


「……なーによ、気持ち悪いわねー」

「気持ち悪いだと?」

「アンタが他人を褒めるなんて……不気味すぎよー」


 リンディアにはっきりと言われてしまったベルンハルトだったが、怒りはしなかった。少し失礼なことを言われたにもかかわらず、短く「確かに、そうだな」と返すだけ。


 それから彼は、私の方へ視線を向けてくる。


「イーダ王女」

「何?」

「これで一人片付いたな」

「えぇ……」


 ベルンハルトはさらりと「片付いた」なんて言う。


 彼にとっては自然なことなのかもしれないが、そういったことに馴染んでいない私からすれば不思議で仕方ない。


 ——なぜそんなさっぱりしているの?


 今私の胸を満たすのは、そんな思い。


「ところでイーダ王女、一つ不気味に思うところがあるのだが」

「何?」

「この女が来ているのに、なぜラナは来ていないのか」


 ベルンハルトは眉間にしわを寄せていた。


 そう、彼は知らないのだ。

 ラナは私たちを見逃してくれた、ということを。


「見逃してくれたのよ」


 私がそう言うと、ベルンハルトは怪訝な顔になる。理解不能、というような表情だ。


「ラナも来ていたの。でも、話をしたら、帰ってくれたわ」

「……帰って?」


 話を掴めない、というような顔つきのベルンハルトに向けて、ベッドの上のリンディアが言葉を放つ。


「王女様が撃退したーってわけよー」

「馬鹿な。そんなこと、あり得るわけがない」

「それが、嘘じゃないのよねー」

「まさか! あり得るわけがない!」


 驚きすぎたせいか、ベルンハルトは口調を強める。


「僕でも倒すには至らなかったやつだ! か弱いイーダ王女が撃退なんて、できるわけがない!」


 なんてこと。

 驚くべき、信頼のなさね。


「ま、アンタがそーあってほしいと思うのは、分からないでもないわー。か弱い王女様ってのもー、悪くはないわよねー」


 ベルンハルトはしばらくリンディアを見つめていた。その後、私へと視線を移してくる。


「本当なのだな」

「撃退と言うほどのことはないけれど……話せば見逃してもらえたわ」

「なるほど。平和的解決、というやつか」


 ベルンハルトはもう落ち着いていた。


「イーダ王女らしいな」

「戦うことはできないけれど……何かできればと思って」

「貴女らしい」


 それは、良い意味なのだろうか。

 悪い意味ではないだろうか。


「そんな貴女だから、皆に大事にされるんだ」

「……えっ」


 否定されるのだと思った。しかし違った。ベルンハルトの言葉は、私のあり方を否定する言葉ではなかったのだ。


「オルマリンに仕える気のなかった僕が貴女の従者になったのも、敵だったアスターがこちらへついたのも、貴女がそういう人だからなのだろうな」

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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
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