表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イーダ・オルマリン 〜青き星、その王女の物語〜  作者: 四季
1.運命の幕開け

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/157

10話 僕一人に戦わせるつもりか

 食器が割れる甲高い音は、誰かがあげた悲鳴であるかのように、空気を揺らす。


 私は恐怖の泉に突き落とされながらも、声を発することなく、椅子の陰に隠れていた。


 ここは星王の間だ。扉の向こう側には警備の者がいるはずである。いくら扉の向こう側にいるとしても、これだけの音が響いていれば異変に気づくはず。


 ……なのに。


 誰一人として助けに来てくれない。それは一体なぜなのか。


「ここには警備の者はいないのか」

「いや! 扉の向こうにいる!」


 椅子の陰に隠れつつ耳をすますと、ベルンハルトと父親が話している声が聞こえた。やはりベルンハルトも、この状況で誰も来ないことに違和感を持っているようだ。


「なぜ駆けつけない……っ」

「ベルンハルト! 大丈夫かぁ!?」


 父親が声を大きくする。

 ベルンハルトに何かあったのだろうか。少し心配だ。


「問題ない、軽傷だ」

「ならいいが……って、うわっ!」


 直後、足音が聞こえてきた。一人二人ではない足音だ。大体五人分くらいだろうか。


 ——やっと助けにきてくれた!


 私は最初そう思った。

 が、その嬉しさは、一瞬にして恐怖に変わる。


「窓から入ってくるとは何事だぁっ!?」


 父親がそう叫ぶのを、耳にしてしまったからだ。


 彼の言葉を聞けば、やって来たのが味方でないことは明らか。警備の者が窓から入ってくるはずがないのだから。


 足音が近づいてくる。


 様子を窺おうと、椅子の隙間からほんの少しだけ顔を出すと、こちらへ進んでくる男の姿が見えた。

 部屋へ入ってきているのは一人ではないのだろうが、私の方へ近づいてきているのは一人だけだ。


 どうする? どうればいい?


 私は頭を巡らせる。

 元々さほど聡明ではないが、取り敢えず考え続けた。


「おぉっ! 王女隠れてんじゃねーか!」


 私の存在は既にばれてしまっているようだ。となると、ここから引きずり出されるのも、時間の問題だろう。このまま隠れている、なんて選択肢は、もはや選べない。


「イーダ! 気をつけろぉっ!」


 馬鹿みたいに叫ぶ父親の声が聞こえた。


「引っ張り出してやんぜぇ!」


 男が椅子に顔を近づけてきた——その瞬間を狙い、椅子を一気に押す。


「ぐべっ!」


 椅子は男の顔面に直撃。

 顔面を強打した男は、情けない声を出した後、その岩のような鼻を押さえていた。


「何すんでぇい!」

「……ごめんなさい」


 一応謝罪して、椅子の陰から出る。男のいない方を通り、父親に合流した。


「イーダ! 無事か!」

「えぇ、何とか」

「あいつら、銃を持っているからな。イーダも気をつけないと駄目だぞ」


 そう話す父親の手には、拳銃が握られていた。


 父親が持っている拳銃は、使い込まれた感じがまったくない拳銃だ。星王が銃撃戦をする機会など滅多にない、ということが伝わってくる。


「ベルンハルトは?」

「彼は戦ってくれている」

「そうなの?」


 ここまで移動する間、周囲を見る余裕などほとんどなかった。それゆえ、ベルンハルトを見つけることはできなかったのだが、どうやら戦ってくれているようだ。


 テーブルの隙間から、音のする方へ視線を向ける。

 すると、一人の男を投げ飛ばし銃を奪うベルンハルトの姿が見えた。


「父さんが頼んだの?」

「そうだ。イーダの身に何かあったら、堪らないからな」


 そう言ってから、父親は私の体をぎゅっと抱く。


「何度も怖い目に遭わせて、ごめんな」


 温もりが全身を包み込む。いつまでもこうしていたいと思うような、そんな温もりだ。

 けれども、温かさを感じるほどに辛くなる自分がいた。この温もりを失う日を想像して、胸が痛くなるのである。


「気にしないで。父さんは悪くないわ」

「イーダ、優しいな! 誇らしい娘だ!」

「だ、抱き締めるのは止めてっ」


 こんなことをしている場合ではない。それは分かっているにもかかわらず、私と父親は、なぜか揉み合いになる。


 だが、ベルンハルトが一旦下がってきたことで、私たちの揉み合いは収まった。


「親子揃って何をしている」


 男から奪い取った銃を胸元に構えているベルンハルトは、私たちを一瞥した後、呆れたように呟く。これはもう、完全に馬鹿だと思われてしまったかもしれない。


「僕一人に戦わせるつもりか」


 ベルンハルトは不満げだ。


「念のため言っておくが、僕一人で勝てる保証はない」

「何ぃ!? そうなのかぁっ!?」


 父親は驚いた顔をする。

 どうやら、彼にはその発想はなかったようだ。


「警備の者を呼んできた方がいい」


 ベルンハルトは胸元に抱えた銃の引き金を引く。すると、ダダダ、と凄まじい音が響いた。硝煙の香りが漂ってくる。


「僕一人でできることには、限りがある」

「なら、加勢するぞ!」


 父親はそう返すと、拳銃を手に、腰を上げる。


「……できるのか?」

「当然だ! これでもオルマリンの星王だからな!」

「そうか」


 ベルンハルトと父親はそれぞれ武器を構え、侵入者の男たちへと弾丸を放つ。発砲の音にまぎれて、男たちの声も聞こえてくる。


 私の位置から状況をはっきり掴むことはできない。

 だが、男の悲鳴が聞こえてくるところから察するに、一人か二人は倒せているものと思われる。


 けれど、数では負けている。


 ベルンハルトとあまり強くない父親の二人だけで、侵入者全員を倒しきれるかといったら、それは分からない。


 私も力にならなければ。

 そう思い立ち、扉へと駆けた。


 扉の外へ行けば警備の者がいるはずだ。そこでこの状況を伝えれば、彼らはきっと助けに来てくれるーーそう思ったからである。


「イーダ!?」

「人を呼んでくるわ!」


 父親にそう返し、扉のロックを解除する。解除作業は思ったよりスムーズにできた。


 扉を開け、部屋の外へ出かけた——その時。


「イーダ! 危ないっ!」

「……え」

「避けるんだっ!!」


 父親の緊迫した言葉が耳に入ったのとほぼ同時に、私の首もとを銃弾が通過していく。


 ぎりぎり当たりはしなかったものの、髪が切れ、ひと房はらりと地面へ落ちた。その銃弾は、最後、扉に突き刺さった。


 ダメージはない。けれど、初めて体験したかなり危機的な状況に、私は体を動かせなくなってしまった。今や、恐怖に全身を支配されてしまっている。


「イーダ! すぐに行くからなぁっ!!」


 父親はこちらへ駆けてくる。


 ——その右肩を、銃弾が貫いた。


「父さんっ!」

「く……はっ……」


 赤いものが視界を舞う。

 まるで、花びらが儚く散ってゆくかのように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。 少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ