物理遠距離なら俺は無敗だろう。
「そうだな」
と同じくカリナと同じく顔をしかめつつラグナロクが言う。
何が起きてるの?
《前方七百メートル先で、馬車が種族名:獣牙人による襲撃に襲われています。》
七百メートル先を視認する二人がすごいな。
っていうか、その獣牙人って何?
《獣牙人族は形こそは人と似ていますが、全身が毛に覆われており、牙が長く、近距離戦闘が大変危険なモンスターです。》
なるほどね。
そんなんに襲われたら俺じゃひとたまりもなさそうだ。
でも、獣で体毛なら、銃の弾は通るのかな?
《貫通します。》
よし。
じゃあ、俺は近づかれない限り勝てると。
ついでに、馬車を襲ってる獣牙人の数とLVは?
《獣牙人族は五体、それぞれLV50後です。》
そりゃあ強い。
レベル的にも全然俺は勝てないのか。
四人のレベルは聞いていないが、どのくらいなんだろう?
《個体名:マクノスはLV55、個体名:ラグナロクはLV59、個体名:カリナはLV72個体名:アリスはLV34です。》
あらま細かい。
そうなると、対獣牙人にはアリス以外苦戦はしなさそうだ。
というか、カリナだけ強くないか?まあいいか。
っていうか、この世界の平均的なLVってどのくらいなの?
《成人する15才での男女の冒険者の平均はLV20前後です。》
結構低いのね。
成人が15才なのは驚きだが、5才ちがいの俺で25なら俺は弱いほうかな?
あと、何もしてなかったら下がったりするの?
《武術や魔法は忘れてしまうと使えません。また、筋力によるスキルなどは放置によって減ります。》
なるほどね。
じゃあ、目の前のマクノス、カリナ、ラグナロクは鍛錬を怠っていないようだ。
そんなことをただひたすらに頭の中で考えていると、
「でも、距離的にきつそうね。」
カリナが言った。
確かに距離は七百メートルと離れている。
「そうだな。それに、護衛の一人二人いるだろう。」
ラグナロクが馬車から焦点をずらしていった。
「でも、もう伸びちゃってるよ?」
と、いきなりアリスがきょとんと言ってきた。
「なに?」
「もう十人ぐらい獣牙人族の攻撃で倒れて動けなくなってる。」
「そりゃあまずいな。」
ラグナロク、アリス、マクノスが順番に言った。
「さっきも言ったけど、距離的にきついわよ?」
「そうだな。どうするか。」
見捨てるほど非人道的ではないんだな。
カリナくらいの見た目なら見捨てそうだと思っていたんだが。
そんなことを考えていると、カリナに軽く睨まれたので、さっと目を離しておいた。
流石LV75だな。勘が鋭い。
それよりも馬車だ。
俺ができることは何かあるの?
《スナイパーライフルの射程は腕次第では800mを優に超えます。》
なるほど。
でも、800mとかになると、相当の腕が必要なんじゃないのか?
《体の主導権をステータスはそのままで博識者に譲れば当たります。》
スキルに任せれば大丈夫だと。博識者さんは自信家だな
さて、じゃあここは俺のスキルに任せてもらおうかな。
「なあ、ちょっと俺に試したいことがあるんだけどいい?」
「なんだ?」
マクノスが疑問形の顔をして聞いてきた。
「俺って超遠距離の攻撃を持ってるんだけど、それの使用を試したいなって。」
「かなり距離があるが…」
「大丈夫だ。」
マクノスは思案顔になり、カリナとラグナロクを見る。
「いいんじゃない?どうせ助けに行くいい案は出ないでしょうし。」
「確率にかけるのもいいと思うぞ。」
カリナとラグナロクはいいっぽいな。
「じゃあ、やってくれ。」
マクノスが俺に向きなおっていった。
「よし。じゃあ、少し離れていてくれどるか?構危ないと思うから。」
と注意して、四人に離れてもらう。
少しして、十分四人が距離をとってから設定を変更する。
武器のところをⅯ24に変更する。
すると、昨日のように目の前が発光しだし、スナイパーライフルの長細い形になる。
持ち手の部分が形どられたとき、その部分に指を通して支える。
完全に形どられてから発光が終わると、ずっしりと重みがかかる。
よし。発光している時点から判定はあるみたいだ。
ライフルを手に取って、構える。
腰を下げて、ためて撃つ構えだ。
スコープを獣牙人族のほうに向けて覗くと、かなり倍率がかかった状態で、何とか視認できた。
だが、手振れがひどく、銃は打てないだろう。
じゃあ、博識者さん、おねがいします!
《了。》
その瞬間、体の操作が効かなくなり、Ⅿ24の重みが全くなくなった。
それはまるで、誰かの視点を見ているかのような感覚になった。
これが主導権を譲った状態なんだろう。
体が勝手に動く感じで、気持ちが悪い。
そして、さっきまであった手振れが全くない。
《前方七百メートル先に敵五体。ボルトアクション式スナイパーライフル:Ⅿ24の射程八百メートル。四十倍スコープにより視認可能。マスターに『耳栓』、『衝撃吸収』、『衝撃無効』を付与。射撃します。》
脳内で確認するように流れた。
そして、大きな反動が来る。
衝撃はないが、反動と同時に視認できないほどのスピードで7・62弾が飛んでいく。
確実に計算され尽くした銃弾が、風に少なからず煽られながらも、流曲線を描いて獣牙人に向かって飛んでいく。
そして、博識者に主導権をゆだねている俺の体が、流れるような造作でボルトを引く。
空になった薬莢が排出され、次の弾が装填される。
次にスコープを覗くと、馬車の周りにいた獣牙人の一体が倒れ、何があったか全く理解できない獣牙人があたふたしている。
多少の偏差がついて、また一発放たれる。
そしてリロード、また一発と繰り返す。
そして、五発の弾が放たれてから最後にスコープを覗いた時、そこには獣牙人は倒れて魔石に姿を変えている姿があった。