精神的な苦痛は体力よりきついようだ。
目が覚めると、マクノスがご飯を作っていた。
「お、起きたか。お前は静かに寝るんだな」
と、軽く笑いながら言ってきた。
まあ、寝息が出ないのはいいことだろう。
そっと起き上がって、マクノスの隣まで行く。
燻製された肉を渡されたので、口に含む。
鹿っぽい味で、口の中の水分が結構減る。
横にあった水を飲んで、口の中を潤す。
もともと朝はあまり食べるほうではないので、そこから少し野菜を食べて終わった。
「食べないと力が出ないぞ」
とマクノスに言われたが、
「あんまり食べ過ぎてもお腹痛くなるだろ」
と返しておいた。
というか、体力が尽きて疲れても設定変更したら疲れってとれないかな?
《疲労がたまっているときに筋肉の疲労度の設定を変更すれば体の疲労はなくなります。ですが、精神的な疲労は取ることはできません。》
そういうことなら大丈夫だろう。
永遠に疲れない体って便利すぎるだろ。
まあ、森から出て街に行く間に疲れることはないかな。
その時、カリナが起きてきていた。
「変な目で見てたら首切るからね」
と、肉を食べながら俺に言ってきた。
流石戦士、勘が鋭い。
さっと目線を外して、水を少し飲む。
そしてまた少ししてからアリスが起きてきた。
「鎧おっさんは朝遅いのか?」
と、まだ見かけていないラグナロクについて聞くと、
「ラグナロクはとっくの前に起きてるぞ。今頃装備の点検でもしてるんじゃないか?」
と、さっと答えてくれた。
そうか、あのおっさんはもう起きてたのか。
見かけ通り真面目おっさんみたいだ。
というか、アリスは寡黙な感じで、あんまりしゃべらない。
昨日はアリスには名前だけ教えてもらって、ほかのことはほかの三人が教えてくれた。
今も、俺に視線を合わせないようにして野菜を食べている。
ちょっと魔法を教えてもらいたいんだがな。
この四人に頼れるのも街までだろうから、ある程度便利な魔法は覚えておきたい。
自分の健康状態はどうとでもなるが、火とかそういうことは俺のスキルではどうにもならない。
街に行ってから魔法書なんかを読んでもいいだろうが、実際に教えてもらったほうが上達は早いだろう。
まあ、無理強いはする必要はないし、仲良くなれてからでいいかな。
四人が朝ご飯を食べ終わり、身支度をする。
俺は戻ってきたラグナロクに予備で持っていた水筒を分けてもらって、しばらく貸してもらうことにした。
四人は一応ギルドからの任務を達成してあるので、もう街に帰るらしい。
その間に敵が出てくるかもしれないので、気をつけろと言われた。
俺にはとりあえず銃があるから、自分の身は守れるだろう。
しかし、今思うが俺は半分不死身になったんだな。
まあ、そう深く考えてもそんな死が近づいてくることなんてそうないと願いたいな。
焚火を分解して、準備を終わり、出発した。
しばらく森の中の道なき道を歩いて、軽く一時間半ほど歩き続けた時、森を出た。
ただ川沿いに下ってきただけなのでかなり飽きてきて、精神的に疲れた。
体のほうが全く疲れずに平然と歩いていたので、「体力はあるんだな」とラグナロクに褒められたりした。
実際は疲れる前に設定をもどしているだけなので、何かもどかしい部分があったが、まあいいだろう。
森から出ると、そこはカラッとした気候で、ただ荒野が広がっている。
遠くのほうに、小さく街の壁らしき石の列が並んでいるのが見える。
かなり暑いが、俺には設定の変更というチートがあるので、『熱耐性』を設定して、熱による体温の上昇を抑えた。
これだと、超極寒地域でも俺には効かなさそうだ。
森から数百メートル歩いたところで、少し地面の砂の色が薄まった、よく荒野とかにある自然の道路が続いている。
道路は軽自動車がやっと通れるぐらいの広さで、両脇に細い窪みがあった。
「この道は何に使われてるんだ?」
とマクノスに問うと、
「ここはよく商人とかが荷物を馬車に積んで走ってることがあるな。旅人が乗っていくこともあるが、それでたまに馬車とすれ違うこともあるぞ。」
馬車か。
ということは、街と街との移動には馬車を使ったりするのか。
そろそろ歩くのに(精神的に)疲れてきたので、何か変化が欲しいな。
しばらく道路沿いに歩く。
アリス以外こういうのに慣れているのか、なに言わず歩いている。
アリスは疲れて着たら自分に疲労回復魔法をかけたり、たまにカリナに話しかけたりしたりしている。
話しかけられているカリナはアリスの話に付き合っているが、それ以外特に話したりはしない。
というか、カリナはまっすぐと背が伸びていて、まったく隙がない佇まいをしている。
熟練の戦士って感じで、かなり腕がたちそうだ。
綺麗で強いとか何人の男を虜にさせたんだろうか。
俺もキレイ系のお姉さんキャラは好きだが、(現実世界でもそうだったが、)どうせ俺みたいなやつと釣り合えるわけがないんだから、俺は一瞬であきらめている。
諦めっていうのは時に重要だ。
なんか意識的に評価を高めようとして無理をするよりは、『友達』として普段的に仲良くなるほうが得策だと俺は思う。
そんな自論を悶々と考えながら何食わぬ顔で歩いていると、カリナがいきなり、
「何か面倒なことになってそうね」
と顔をしかめつつ言った。