異世界での出会いとはほかの物語のように実力さえあれば案外円滑に進むようだ。
横の木の裏に隠れて、様子をうかがう。
モンスターなら撃つか。
少し顔を出してしばらく待っていると、話し声が聞こえてきた。
「さっきの音は何だったんでしょうね」
「わからないな。少なくとも、何かは起きたんだろう。」
「それにしても、クエストのモンスターの最後の一匹が見つかりませんね」
「そうだな」
年齢はバラバラな四人組が歩いてきていた。
戦士っぽいすらりと高い身長のお姉さんと、小柄な魔法使いっぽい女性がいる。
そして、中年っぽい鎧を着た戦士っぽいおっさんと、分厚い鎧を着たおっさんがいる。
隠れつつ四人の動向を追っているうちに、彼らの大体がわかった。
どうやら近くのギルドの冒険者で、どうやらここ周辺のモンスターを狩る任務を受けたらしい。
そして、その最後の一匹がレベル26のゴブリンらしい。
って、さっき俺が狩ったのは…
《レベル27です》
ですよね~
ここは、彼らと対面して説明して、街に行くのがいいかな?
そうしたら街の案内が付きそうだ。
木の陰からゆっくりと姿を出し、歩いていた。四人組に話しかけた。
「すまないが、ちょっといいか?」
そう言うと、四人は振り返って、武器を一斉に構える。
両手をあげて『戦う気はない』と意思表示すると、ゆっくりと武器を下げてくれた。
「お前は誰だ。こんなところで何をしている」
戦士っぽいおっさんが代表して聞いてきた。
「俺は明って名前だ。だが、記憶がはっきりしてなくて、さっき目が覚めたんだ。」
「ほう、記憶喪失者か。この森で目が覚めたってのは不運だったな。」
記憶喪失であんまり反応しないってことはこの世界ではそう珍しくないのかな?
「不運なのはなんで?」
「ここは死の森と言われているんだが、その名前なだけあってモンスターが強い。」
なるほどね。
道理でさっきのやつが27もあるわけだ。
「それで俺たちは、ここにクエストをしに来たんだが、標的が見つからなくてな。」
「その標的っていうのは?」
「ゴブリンだ。一匹で単独行動しているらしくてな。」
やっぱりな。
「え、ゴブリンならさっき見ましたけど…」
「何?どこにいたんだ?」
「さっき向こうのほうで」
「よし。じゃあ行くぞお前ら。」
おっさんがそういうと、ほかの三人が少しだけ準備をする。
「あ、待ってください。そのゴブリンなら倒しましたよ?」
そう言った瞬間、目の前の四人が気が抜けたように呆ける。
「お、おい、冗談だろう?」
汗を垂らしながら戦士おっさんが言ってきた。
「いや、さっきいたから、」
と、ポケットから魔石を取り出して言う。
それを戦士おっさんに渡すと、見入るように魔石を見つめ、「本物だ」とつぶやいた。
「どうやって?」
戦士っぽいお姉さんが聞いてきた。
俺を警戒しているような目つきだ。
「いや、この銃でバンッと一発」
そうホルスターから銃を外しながら言う。
「なんなんだその見たこともない武器は」
鎧おっさんが、銃を指さししながら言ってきた。
あ、銃はこの世界にないのね。
「これは銃って言って、この引き金を引けば離れていても一発で仕留められる武器なんだ。」
そう説明しながら銃を前に出す。
鎧おっさんは興味深そうに銃を受け取り、しばらく眺めた後、返してくれた。
「実際に使ってみてくれないか?」
戦士おっさんに催促される。
「危ないよ?」
「大丈夫だ。あの木にでも撃ってみてくれ。」
仕方ないな。
サプレッサーを外して、標準を木に合わせる。
「あ、耳はふさいだほうがいいよ」
そう言うと、疑問に思いながら四人は耳に手を当てた。
そうだ、『耳栓』っていうスキルない?
《マスターに『耳栓』を付与。スキルとして反映。オンラインにします。》
あるんだね。
脳内でそう流れた瞬間に、あたりの音がほぼ全く聞こえなくなった。
準備もできたので、銃を撃った。
銃口から時速約400kmで放たれた銃弾は、大きな銃声を立て、目に見えない速さで飛んで行き、狙っていた木を貫通した。
しかし、狙いとは若干ずれて着の端っこに当たったが、それでも威力は十分だ。
あまりの威力に四人は目を丸くしている。
耳栓を解除して、もう一度サプレッサーをつけてからおっさんに向き直る。
「これでオーケー?」
と聞くと、おっさんが呆けた顔から戻って、
「ああ。満足だ。」
と返してくれた。
「悪いが、しばらくあんたたちについて行ってもいいか?」
というと、おっさんは少し考えてから、「いいぞ」と言ってくれた。
それから、ほか三人に軽い挨拶をしてもらって、それぞれの自己紹介してもらう。
戦士のおっさんはマクノスで、鎧のおっさんはラグナロク、戦士お姉さんはカリナで、魔法少女はアリスだった。
皆さんいい名前してるな。
そんでもって、カリナとマクノスは結婚しているらしい。
夫婦そろって冒険者とは幸せそうだ。
その後、時間的にも夕食になったので、焚火を焚いて夕食をとる。
肉や保存食を食べつつ、少し話をした。
その時に話したが、職業は俺の予想と合っていたようだ。
それで、今日は森の中で野宿するようだ。
みんなそれぞれが寝やすいところを見つけて、自分の寝床としていた。
今は夕食も終え、焚火の前で座っている。
「お前はどうするんだ?」
「まあ、俺は自分で寝るよ」
「大丈夫なのか?」
「ああ。」
一応一緒に過ごすんだから、少し心配してくれた。
そのままマクノスは踵を返して焚火から離れていった。
さて、俺はどこで寝るかな?
まあ、焚火の近くの丸太にでも腰掛けながら寝ればいいか。
眠くなるまでの暇な時間の間は何をしようか。
銃をホルスターから出し、しばらく眺める。
おそらく博識者が俺の記憶から抜き出した銃の型は『グロッグ34』という銃で、少し小柄でシンプルなフォルムをしており、流曲線がきれいな銃だ。
俺の一番のお気に入りで、結構細かいところまで調べたりしていた。
それを博識者が具現化したんだろう。
うれしい限りだ。
そう言えば、ほかの銃とかは使えるんだろうか。
一応ボルトアクションとかアサルトライフルとかの構造は調べたことがあった気が…
《スナイパーライフルは、KARやM24が作成可能です。アサルトライフルは、M16、SCARが作成可能です。サブマシンガンはP-90、UZIが作れます。ほかにも、ショットガンはオリンピア、S12Kが作成可能です。マグナムが、スミス&ウェッソンM500が作成可能です。最後に軽機関銃としてM249が作成可能です。》
めっちゃ作れるじゃん。
となると、遠距離じゃ俺は最強もいいところかな?
《この世界の強者には物理攻撃無効や、貫通を持っていることも少なくありません。また、単純に皮膚が固いなどの理由で通らないこともあります。》
なるほどね。鉛玉が効かないやつもいると。
まあ、効く奴には使えばいいか。
試しにM24を設定してみると、自分の目の前が光った。
そしてしばらくすると光が横に長いスナイパーライフルの形になり、やがてM24独特のバットプレートが形取られた。
黒で統一された細長いM24が形成され、膝の上に落ちる。
反動を吸収するためのずっしりと重いフォルムが膝にのしかかる。
しかし、やはり実物はカッコいいな。
手に取って細かいところまで眺めながら思う。
撃ってみたい気持ちはあるが、さすがに音がすごそうなので自重しよう。
設定を解除するとM24が光り、光の粒子となって消えていった。
まあ、しばらくはハンドガン一丁で十分だろう。
威力は十分だろうし。
そんなことを考えいていると、だんだんと眠気が濃くなってきた。
焚火の火は消えかけているが、今は夏かその辺なのか夜もあったかい。
木を枕にして、目を閉じる。
今日はいろいろありすぎたな。
異世界へ行く系の話で、転移した初日はストレスとかでよく眠れるというが、まったくもってその通りで、恐ろしく眠い。
快眠は約束されない寝床だが、今日一日の疲れを癒すには十分だ。
一時的スキルの思考混乱無効も切れたのだろうが、一応安定したので大丈夫だろう。
ゆっくりと目を閉じ、そこからしばらくして、眠りに落ちたのだった。