ありきたりすぎると思う異世界転移
ある日、俺の生活は変わった。
俺は白鶯明。大学二年生で、特に他人と変わらない平凡な生活を送っていた。
顔に自信はない。頭はそれなりにいいほうで、安定した生活を送っている。
その日は、友人の朱築と一緒に飲みに行っていた。
「いや~飲みすぎたわ~」
「そんな飲んでねえだろ」
事実、あまり飲んでいない。俺はかなり強いほうだが、あまり飲んでいないし、ただ朱築が弱かっただけだ。
俺と朱築は、共通趣味があったがために大学で仲良くなった。
今日は朱築が昨日誕生日で二十歳になったので、記念に飲みに来たのだが、予想以上に朱築が弱かったので早めに出てきた次第だった。
今はもう朱築が酔いつぶれて俺の背中であほを言っている。
しばらく暗い道を歩いていると、朱築は眠ってしまった。
「はあ、めんどくせえなあ」
と悪態を吐きつつ、朱築の家まで運ぶ。
朱築の家は遠くないので、ゆっくりと帰っていた。
さらにしばらく歩いて、朱築の家まであと百数メートルのところまで来たとき、それは現れた。
住宅街の暗い道路の真ん中に、突然白いドレスを着た女性が現れた。
「は?」
とつぶやいた瞬間に、さっきまで肩にかかっていた圧が消える。
後ろを振り返ると、俺の肩の後ろに朱築の姿はなかった。
「俺は悪い夢でも見ているのか…?」
思わずそうつぶやきつつ頬を引っ張ってみると、つねった時の痛みが頬に走った。
そして、そこまで全く一言もしゃべっていなかった目の前の女性が、「夢ではありません」と言ってきた。
警戒しつつ、女性を直視する。
そこは住宅街の道路ではなく、何もない暗黒の空間だった。
光がないのに、女性はよく見える。
女性は若いわけでもないが、老いているわけでもない。不思議な雰囲気を醸し出していた。
「聞きたいことは山ほどあるが、まずあんたは誰だ」
おそらく今俺が謎現象に巻き込まれているのは少なくともこいつのせいだろう。
こんなことが起こっていることの対する驚きのせいで頭がさえているようだ。
まずはここから出ることを考えないと。
「私は神の使い。あなた様を別世界へ送るために呼び出されました。」
と、表情一つ変えず、淡々と言われた。
神の使い?別世界?意味わからん。
「あなたには地球とは空間の違う世界を変えてほしいのです。」
「なんだよそのよくある異世界物の設定」
「そうです。認識としてはそれで間違っていません」
は?と、思わず呆けた顔をしてしまう。
「あなたが存じている物語と同じく、剣と魔法の世界です。あなたにはその世界の『理』を変えてほしいのです。あなたも望んでいたのでしょう?」
と疑問形で言ってくる目の前の女性は、俺によくある王道異世界を変えろと言ってきている。
そりゃあ、俺は趣味にファンタジー物の小説を読むということがあって、それで朱築と出会って「いけたらいいな」なんていう馬鹿なことを話したことはあったよ。
だが、それが現実になるなんて実際のところ望んでないんだよ。
「勿論、何もない状態からとは言いません。特別な能力は神から直々に授けさせていただきます。」
いわゆるチート能力か。
「例えば?」
「何でも大丈夫です。神の力は絶大なため、如何なる能力であれど、授けることができます。」
「それは複数個か?」
「はい。ですが、上限は二つまでとなっています。」
上限はあれど無双系でも援護系でもなんでもいいってことね。
そりゃあ、『異世界に置いての最強チートは?』なんて言う題材で朱築と話したことはあるが…
「聞くが、朱築はどうなっている」
「赤築様は別室にて同じように説明を受けています。」
「会えないのか?」
「この説明が終わった後、同じ世界に行っていただきますが、同じ地点ではありません。それは神が決められたことなので、変更することはできません。」
淡々と。ただ淡々とそう告げる。
つまりはその世界で出会えと。
「それでは、神に授けてほしい能力をお願いします。」
と、催促される。
「ちなみに、拒否権はないのか?」
「なんのです?」
「元の世界に戻るっていう」
「できません。すでにここは空間の狭間です。元の場所に戻るのは不可能です。」
できないのか。
もう、ここは前向きに考えたほうがいいんだろう。
なら、俺が思う便利かつ最強の能力を言ってやろう。
「じゃあ、一つ目の能力は『モノを設定化し、それを変更・更新・新規作成・保存できる能力』で、もう一つは『聞けば検索・回答・実行してくれる能力』を俺は所望する。」
結構無理やりで、普通のそういう物語では有能すぎて使えないやつだ。
というか、二つ目はとあるお話からインスパイヤしただけだが、まあ俺の物語なんだからいいだろう。
朱築と話していた時は、「欲張りすぎだろ」と笑われたものだ。
ダメもとで言ってみたわけだが…
「わかりました。それでは、そのような内容の能力を授けていただきます。」
「え、いけるの?」
「はい。能力ならば神によって授けられます。しかし、それを扱えるかどうかはなた様次第なため、扱えなくては意味がありませんが。」
なるほど。とすると、めちゃくちゃ威力高い一撃が撃てる能力を持っても、制御できなきゃ無駄になると。
まあ、扱えなくてもおそらく便利なことに変わりはないので、大丈夫だろう。
「変更はありませんか?」
「ああ。大丈夫だ。」
「それでは、転移が完了しましたら手を前に突き出して、『ステータスオープン』と唱えてください。そうすればあなた様自身の能力等が確認できます。では、転移を開始します。」
そう女性が告げた直後、闇に包まれていた部屋は明るくなり、やがて目を開けていられなくなるほどになった。
思わず目を瞑り、次に目を開いた時、そこはすでにあの暗い部屋ではなかった。